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第6話・何か気づいたのにそれが何か分からない時ってあるよね?

結局勝利も昼飯も手に入れ損なった俺は今、『パンパラパン』というスイート店に向かっている。


ちなみにシャルロットさんはちゃっかり自分の昼飯を勝ち取っていた。



「たまたまだよ~漁夫の利って奴♪隙を見て一気にね~」



まぁ…確かにあの店、料理を手にした人物は攻撃しないという暗黙のルールがある。


でないと料理が凡そ台無しになってしまうからね。


とは言えだ、よくもまああの修羅場で料理だけかっさらえたものだ。


……つくづく自分が情けなくなる。



「それでアルバくん?お昼ご飯の代わりにお菓子を?」


「ぁぁ…いや、そういう訳じゃない。」


「?」



あ、着いた。


少しオシャレな店…と言うほかないただの店だが、今では珍しくちゃんと店をしている店である。


いまでもガラスウォールを通して店内の平穏を伺える、席で談笑している客の姿はさっきの『パンパラパン』とは正に真逆の光景。


そして何よりここのお菓子は間違いなく絶品、シュエ唯一のお気に入りなのだ。



「オヤジさんー、今日も来たぞー。」


「ん?ああ、助手の兄さんか、いらしゃい~今日はいつもより遅いじゃねーか。ほら、今日はチョコファウンテンだ!」



スイーツとはかけ離れた甘くも可愛くもない声と見た目をしているオヤジさんだが、パティシエの服は不思議なまでに似合う。


多分その変に愛嬌のある笑顔のおかげだろう。


奥さんもその笑顔に惚れたから一緒になったんじゃないかと思うほどに。



「あら~アルバくんこんばんは~」



こっちもこっちでタイプは違うが同じく人懐っこい笑顔、やっぱり似たもの夫婦である。


ちなみにまだこんにちはの時間だが、奥さんの挨拶はいつも間違っているから気にする事はない。



「…ん?あら大変~あなた見て、アルバくんが女の子を連れて来たわ~」


「んん!?偶々一緒に入って来ただけかと思ったが本当に連れだったのかい!?」



ま、まあ…その驚きは分からなくもない…


シュエ以外の女性と一緒に居るなんて、我ながら珍しいからな。



「どうも~アルバくんの彼女かもしれないシャルロットです~」



シャルロットさん!?


とんでもない自己紹介である、さしものシュエでもそこまでのとんでもない発言を自己紹介でしない……いや、するか。面白がってするだろう。


ノリノリの姿がありありと浮かぶ。



「あのモテないアルバくんが~」


「うむ、終わった世界はやっぱ色々終わってるんだな…」



それはどういう意味!?


確かに生まれてこのかたモテた事もなければ異性と付き合えた事もないが…!流石にひどすぎる言われようだ、抗議する!


というかさっきの驚きは別の女性と一緒に居る事に対するものではなく、そもそも女性と一緒に居る事自体への驚きだったのか!?


ぐうっ…!言いたいことは色々あるが、まあいいだろう。


俺は器が広いからな流してやる、決して事実だから反論できない訳ではない!



「…チョコファウンテンありがとう。」



ひとまず、チョコソースを入れた容器を大事に持つ。


勿論、チョコファウンテンに浸すためのフルーツやマシュマロを入れた袋も。


シュエはあれで単純だ。


好きなものを食べると嬉しくなるし、食べれないのならしゅんとしちゃう。


言葉が少なめに、テンションも低めに。


少し分かり辛いけど俺の目は誤魔せない。


………俺ひょとして…結構キモい?



「おう。ま、そういう約束だからな。」


「そうそう~こちらこそいつもありがとうね~」


「いや…俺はなにも…」


「うんうん~だから別にアルバくんに言ったんじゃないよ~?代わりにシュエちゃんによろしくね~偶には顔出してと伝えておいで~」


「………」



ふわふわの声で刺しにくる奥さんの横にうんうんと頷くオヤジさん。


そして俺の横で笑いをこらえるシャルロットさん。


またしても何とも言えない気分になった…



「そうだオヤジさん、『ファクトリー』について何か知らないか?」


「!」



ここ『パンパラパン』はただのスイート店だけど、ただのスイート店では収まらない。


何かと荒れてる今のご時勢、ここは間違いなくオアシスの役割を果たしている。


何故かというとここは唯一シュエの庇護下にある言わば縄張りだ。


暴力禁止、たったそれだけのルールはここをこの街一番の安全地帯にした。


悪人だろうと善人だろうと、ここでは誰もがひと時の安らぎを得られる、絶対的なセーフゾーン。


そのためか、いつしかここに来た人達はみんな口を緩めるようになり、色んな話をするようになった。


結果、ここは今や避難所であり社交場、情報を交換し集める場所にもなっていたのだ。


ちなみにルールを破った人達は勿論出禁だけど、シュエにより死にたくなるような目にもあってたらしい。



「『ファクトリー』~?聞いた事があるようなないような……すまん、覚えがない。」


「…そうか。」


「………」



俺達の話しに反応したシャルロットさんを見て、やはり彼女はずっと『ファクトリー』の事が気掛かりだろうな。


だよな、いくら笑ってても、なんで狙われてるかも分からないんだ、内心不安に決まっている…



「それより聞いたぞアルバ、シュエちゃんまた依頼ついでに何処かのグループを潰しただって?あっちこっちがまた騒いでいるぞ?ガハハハーッ!」


「あはは。」



笑うしかないー…


ホント、やる時はとことん派手にやるから。



「全てを砕く筋肉ダルマ、目で人を殺す『神秘』。悪鬼羅刹をもかくやの形相に違いねと、噂がますます酷くなってるな!」


「…いや、まぁ…誰も彼女の事を知らないから…」



シュエにやられた人達は彼女について語りたくないだろうし、依頼人達には「探偵事務所(ここ)が何処かは一人にしか教えちゃだめだぞ~」とか言ってるし…


その結果、どこの誰かも分からないけどあの探偵がどこの誰かを幸せにした、潰した、みたいな噂だけが広まって…


多分そのミステリアスさもまた知名度が広がる原因の一つだとは思う、都市伝説みたいに。


でもあんまりにも正体不明なうえにみんな揃って言う――「願いが叶う。」


どんな依頼でも必ず達成する、願いを叶える魔法使いのごとく。


たった一つの制限は()()()()()()()()()()()()()()()()ぐらい。


まあ、ホントはそれ以外も叶えるだろうけど、シュエはやる気がないから。


とにかく、そういう訳だからあの探偵の噂はますます出鱈目になる一方、不思議なのはそれでも本物の出鱈目っぷりには負けてる事。


もし、噂の探偵がただの少女と分かったらきっと驚くだろうね、今までの人達がそうであったように。



「じゃ、俺達はこれで…」


「えー、もう帰っちゃうの?せっかくだからここのスイーツも食べてみたいなあ~」


「ごめんねーシャルロットちゃん~そのチョコファウンテンが最後なの~」



最後というか最初?


毎日最初の一つはシュエに。そういう約束だから。



「そうかー、残念。」



思わず耳を疑った、何も変な事は言ってないのだがその声色がどうにも気になる。


ホントに残念そうな声だ、なのに残念の二文字を口にする時のシャルロットさんは何というか……不敵?にも聞こえた。


それがあんまりにも不思議で、思わず勘違いなのではと。


なんとも言い知れぬ気分だが、ここはちゃんと別れの挨拶を。



「また明日。」


「おう、気を付けて帰りな。」


「シャルロットちゃんもまた今度ね~次はは早めにきて~、うちのお菓子は絶品だから~」


「………」



無言の笑顔で手を振ってさよならするシャルロットさん。


なんだろう……急に胸騒ぎが?


なにかを気づいたのに、その気づいたものに気づいていないような……


なんか焦りだけが先走ったような…


思わずシャルロットを見た、疲れてきたのか彼女は無言なまま。


さっきまでずっと騒がしい、いや悪い意味ではなくこっちまでなんだか少し楽しくなるようなそんな騒がしさが急に消えたせいか……


いや………なんで俺は?()()()()()()()彼女を見たんだ?


焦りだけがずっと先走ったまま――


――!!!



「囲まれた!?」


「………」



いつの間に!?油断した!


最悪だ!唯一の安全地帯と思い込んだから完全に気が抜けた!


咄嗟にシャルロットさんを後ろに。


囲まれていたのだから意味がないのかもしれないが、反射的行動だ。


さっきまで考えたことも感じた何かも思わず忘れる程の――



「うぐわあああああああ!!??」



高圧の電流が、いきなり背中から伝わって来た。



「……シャ…ル…ロット…?」



意識が黒くなっていく中で俺が見たのはスタンバトンを持つシャルロットの姿だった。


それ俺の……いつの間に……!



「ごめんねー、楽しかったよアルバくん。」



その言葉を聞いて、意識を失う直前に俺が出来ることはもはや――


なんとかチョコソースをこぼれないように容器を床に置くことだけだ。

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