第3話・名もない一日の始まり
すみません、書き忘れたものがあったので最後に数行足しました。
「ふむ、つまり訳のわからんチンピラ共に絡まれた訳を調べて欲しいと?」
シャルロットさんの話しを聞いて、少し驚いた。
てっきり可愛くて美人だから狙われていたとばかり…
どうやらホントはスカウトらしい、最初は平和に勧誘してたけどそれを断り続けたら強引にアジトまで攫おうとした…か。
しかも何故スカウトされたのが分からないと……
「…チンピラ?」
何が引っかかったのか、シャルロットさんの顔には少しの不満が。
「相手は『ファクトリー』…、確かにただの荒くれもの集団だけど…最近じゃ勢力も増して、『レッドストーン』も傘下に加わって銃とかもめちゃくちゃ――」
「イキのいいチンピラ集団だ。」
「――…っ。」
ああ…多分、シャルロットさんは勘違いしている。
恐らく、彼女から見てシュエは事態を軽く見ている、その集団の脅威を正しく理解出来ていないように見えていたのだろう。
だから怒ったし、イライラした。
でも違うんだ、そうじゃない、そうじゃないんだ。
シュエはきっと誰よりもその『ファクトリー』やら、『レッドストーン』やらの脅威をきちんと理解出来ていると思う。
ただ、きっと、彼女にとっては結局のところ、イキのいいチンピラでしかなったから…
でもそんな事、口だけじゃ納得させられないのだろうし、今は何を言っても無駄か。
シュエの破天荒っぷりはその目で直接に見ないと分からない、いや、直接に見たとしても意味が分からないから。
「…まあいい、で?なにで支払えばいい?まさか金が欲しいとか言わないよね?」
「もちろん言わないさ、支払いも結構。何故なら君はもう既に支払ったのだから。」
「は?」
うーむ、ここは自分が説明した方がいいな、シュエは何というか…堂々と人の神経を逆撫でするから…
「実は俺たち、探し物をしているんだ…だから、色んな情報が流れ込むであろう探偵業をやっている訳で…」
「……ああー…つまり事件そのものが報酬…みたいな?」
「そう、色んな事を知りたいから色んな事件を知りたい、そのための探偵業活動な訳だ。」
「ふーん…なに探してんのかしんないけど、流石に無理があるんじゃない~?」
呆れたようにシャルロットさんはわざとらしく肩をすくめる。
「まぁね、だから実質ただの時間つぶしだよ。」
シュエェェ?
「……人の悩みを時間潰しにってか?いい性格してんなーあんた。」
「その悩み事が私の報酬だからね、だから笑い事にしたっていい訳だ。」
臆面もなくそう言いのけたシュエはいい性格なのか、それとも性格が悪いなのかはさておき、それでも一応彼女なりの道理はある。
頂いた報酬を自由にできる権利は自分にはあるという、だからその苦悩を楽しんでもいいという道理が、…さながら魔女との取引である。
「ふーん…、まぁいいわ~そんじゃアルバくんは借りとくね~♪」
「――は?」
こっわ。
さっきまでの余裕たっぷりの笑顔はどこに行った …!
その怖い顔も可愛いけど――……やはり、末期。
「依頼人の安全くらいは守って貰わなくちゃ。」
「うちは探偵事務所であって用心棒稼業ではないので。」
「あたしは報酬を支払ったお客様だぞ、少しぐらいは便宜を図ってもらわなくちゃ~」
「いえ~うちにそんなサービスはありません――」
「つ!?シャルロットさん!?」
「あ、ちょ!っ…待ってこらーー!」
シュエの可愛い怒鳴り声が響き渡る頃、俺は既にシャルロットさんに引っ張られたまま事務所を出たのであった…
後で機嫌を取らないとな。
――そうして、今回の事件は始まる。
探偵ものと言ったらなになに事件と名付けるものだからそれに倣って今回の事件を『名もない一日事件』としよ。
結局、名を付ける程の一日でもなければ、特別の事件でもない。
ただ、彼女の物語のそのプロローグとしてはちょうどいい。
世界の現状を、彼女の日常を、俺達の心情を語るのにちょうどいい一日だったのだ。