第1話・これは主人公みたいな語り手、つまりは助手くん。
あれは――彼女がメイド服に着替えた日のことだ。
「ね~アルバ~、いいでしょう?一緒に行こうよ~」
派手な格好にな抜群のスタイル、如何にもな金髪ギャルが今ソファーの上で俺にもたれかかろうとしている。
しかも甘えた声で、男なら誰もが喜ぶような状況だが俺は全然嬉しくない。
いや、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、ちょっと嬉しいな~という気持ちもなくはない、なくはないが喜べない。
「へー…、モテモテだね?」
「目が笑ってない目が笑ってない…!」
珍しく客をもてなそうとトレーにお菓子とコーヒーを載せ、運んできたシュエの姿を見て彼女を探偵と思う人は先ずいないだろう。
俺が選んだメイド服に着替えた彼女は実に愛くるしく、可憐なメイド姿をしているのだから。
うん、似合ってる実に似合ってる、我ながらナイスチョイスだ。
いつもは雪解けと共に消えてしまいそうな雰囲気を持つ彼女だが、その白雪のような髪に白いカチューシャを被るだけで違う雰囲気を生む。
多分、彼女の明るく楽しい部分を強調したからだろう、勿論可愛らしさも。
露出控えめ、あくまでフォーマルなメイド服に少しフリルを足した感じの清楚なデザインは彼女の可憐さを昇華させた、可愛い。
なのにガーターベルトというセクシーなギャップ…!
その黒いストッキングを一目見た時から俺はひっそりと狂わされた。
しかし俺は知っている、このニコニコと笑みを浮かべている可愛いメイドが如何に妖精に見紛う程の可憐さを有していても、その実、嬉々として人の頭をバットでかち割るようなヤバい女であることを。
「で?誰なの?その女。」
そんな彼女がただニコニコしているだけでも、それ以上に恐ろしいことはそういない…!
――さて、いきなりだが話しておかないといけない事がある。
先ず始めに、俺は主人公ではない。
こんなハーレムラブコメみたいな一幕を見せられて勘違いする読者もいるかもしれないが、それはただの勘違いだと予めに言っておこう。
もしこれから語る話しを一つの物語として見立てるなる主人公は間違いなく彼女だ。
そう、いままでに一番怖いのになお可愛い笑顔を浮かべている彼女――シュエだ。
俺は…強いて言うならワトソン役だ。
主人公の活躍を目に焼き付け、時には少し手伝いをし、物語の顛末を見届ける。
そしてそれらを記し、語り継がる…そんな配役だろう。
しかし不満はない、自分達の人生の主人公は自分達だと主張する人達も居るが。
俺に言わせればそれがなんだという話しだ、同じ主人公であってもジャンルの違いや脚本の差がある。
主人公という肩書き自体にはなんの意味もない。
それは愛される証ではないし、何かを成し遂げられる約束でもないのだから。
そんなものより、彼女のワトソン役であることの方が俺にとってはよっぽど価値のあることで、嬉しいことだ、自慢してやろう。
そんな彼女、シュエと出会ってからは実はほんの僅か三ヶ月くらいしか立っていない。
それなのに我ながらなんだこの惚れ込み具合はだが、ここまでに至った経緯は端折らせていただく。
人には語りたくないものもあるのだ、いくらワトソン役であってもプライバシーくらいはあってもいいはずだ。
あんな恥ずかしいエピソードをノリノリで語ろうなんて、とてもじゃないができない。
なので何やかんやあった末、彼女は探偵として俺は助手として一緒に暮らし行動するようになった、そしていつか彼女を殺す約束もした――とだけ、今はこれだけで勘弁して欲しい。
それに、言ってしまえばただのBoy Meets Girlだ、きっとわざわざ語らなくとも想像がつくのであろう。
そんなことよりも今はこのふざけた修羅場だ。
「話せば解る!」
「じゃ話して。」
「はい。」
トレーを机に置き、一瞬で真顔に切り替えたシュエに俺はただただ大人しく話すのであった。