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第8章.侵入

日下山の山道は、整備されていなかった。廃病院と化した後、その道は不要とかさ判断され、桜夜塚の住人からは見放された。故に茨が生え、進めど進めど先が見えず、茨の棘で怪我をするほどに荒れていた。

「通れる…?これ」

「だ、大丈夫だよ!多分……」

縁の不安げな声に千則が反応した。山道は茨にほとんどを埋め尽くされ、通れる道はなかった。

だが、明が喜ばしいかのように声をあげた。

「…あっ!ほら!そこ!草間に隙間ある!!」

「え、本当に通るの?そこ…」

そこは、茨と茨の葉の間にあった。人1人が膝をつきながらなら通れそうな空間だった。

「先行ってるぜ!!!」

何も考えてなさそうな声が悠介から発せられ、千則が「ちょ、ちょっとー」と声をあげた。

最後に光が文字通り茨の道へと進んだ。が、問題が発生した。

「ちょ、ちょっと!これ私のパンツ見えない!?」

縁が後ろを振り向き声を荒らげた。ここにいる全員、私服だった。気まぐれ部の部室に集まってから、制服から私服に着替えた。が、縁と千則はスカートだった。まともにジーンズやロングスカートを持っていない女子高生真っ只中の彼女らには、短めのフリルの着いているようなスカートしか選択肢がなかった。

気まぐれ部一行は1列に並んでいた。茨の道を進む為だ。全員がしゃがみ、お尻を突き出した状態だった。前から悠介、明、千則、縁、光だった。完全に順番を間違えていた。

光は首を横に振った。縁は「そう…ならよかった」と声を出したが、悠介がそこにツッコミを入れた。

「それ俺だったら蹴り飛ばしてたよな」

「ソ、ソンナコトナイヨーナイワヨナイナイ」

「棒読みすぎませんかね?」

悠介が言うと明がクスッと笑った。

幸い、茨の道とは言ったものの、全員が怪我をすることなく山道を登れた。山道はもはや茨で坂の一本道になっていた。が、膝を着いていたため、所々に小さい木の幹などのあとが出来ていたり、時々茨の棘がチクチクして痛かった為、度々縁と明が悲鳴をあげていた。そして、それは再びやってくる。

「ぜぇ…はぁ…はぁ…ぜぇ……」

「ぜぇ…死…ぜぇ…ぜぇ……」

縁のはぁはぁと言った疲れを示す中、明はぜぇぜぇと喘息の如く息を吐いていた。

角楼屋敷へ行った後、暫く2人は動けなかった。と言うより動かなかった。筋肉痛だった。普段からあまり運動しない2人は、常に運動不足な為、筋肉痛になる事がしばしば。

「はぁ…はぁ……もう……無理ぃ……」

「ゆかりん!?」

縁がひっくり返った。まるで蝉のセミファイナルが如く。すると光の前にそれは現れた。そう。黒かった。

「……っ!?」

光が目を背けるが、約五十センチメートル内にそれはあった。目を背けようとも目の前には水色の"それ"が凹凸を示していた。そう、下着だった。縁の下着。それだけでなく、凹凸を示した下半身のラインが露になる。筋を張った太もも、クビレのある腰。下着から漏れ出た臀部の肉。そして、陰部の上に広がっている水色の下着。縁はその事実にすぐ気がついた。股を広げ、仰向けで寝っ転がっている。その間には光の頭があった。

「…!?きゃあああああああああああ!!!」

光の頬に猛烈な衝撃が与えられた。開いた股を閉じると同時に蹴りを入れられていた。

「……!!」

光が声にならない悲鳴をあげた。



「──────ぜぇ…ぜぇ……着い…たぁ…?」

「おう着いたぞ!」

悠介が呑気な声で答えた。山道を登ること数十分。茨を抜け、ひらけた場所に出た。

「あれっ?何も無いよ?」

千則も同じ調子で悠介に問うた。

「この先だよ!ちゃんと話し聞けよなー」

「はーい…」

「ぜぇ……ゆ、縁ちゃん……ぜぇ…大丈夫、?」

「……む、無理ぃ…死ん……じゃうぅっ……はぁっ」

縁がひっくり返っていた。そう、セミファイナルのように。足は閉じていた。

「じゃ、行っくよー!」

「おー!」

「無理……死ぬ……」

「ぜぇ……死ぬ…縁ちゃ……大丈夫かぇ…?」

「……」

各々がそれぞれの反応を示した。率先して前を進む悠介。それに着いていく千則。死にかけの縁。それを心配する千則。縁の下着を見た反動と頬への衝撃でぼーっとしている光。それぞれが違った反応をした。が、結局は悠介と千則は縁と明に合わせる事にした。流石に2人を置いて行く事は出来なかったし、一緒にいたいと思ったからだった。


休憩を入れてから約10分。全員が落ち着きを取り戻し、息を整え、心と体を休めていた。「じゃあ行こうか!」と明がいい、全員が頷いた。再び立ち上がって、膝に付いていた土や木の幹をはらい落とす。幹の後が膝には付いていた。微かな痛みを全員が感じ、前を向き直った。休み終わりに持参していたお茶やミネラルウォーターを飲み、再度歩きだす。汗が明の肌を滑り落ちる。胸まで耀く汗が到達したところで、服に染み込んだ。

そうして、ひらけた場所の正面先にある、大樹と小樹の合間を通り抜け、先程とは違って2列に並び、更にひらけた場所に出た。

そこには。


都会にそびえ立っていそうなほど巨大な、際限なく存在を示し続ける、廃病院があった。



「……ここが廃病院、?」

「そう……みたいだな…」

廃病院は廃れていた。当然の事だったが、思っていた以上の廃れ具合だった。扉には穴が空いていたり、周辺の木の幹が病院の窓に侵入してたり、所々の窓ガラスは割れていたりしている様子だった。以前訪れた角楼屋敷よりも、相当廃れていた。

「……入る?」

千則が言ったのをさかいに、悠介が口を開けた。

「あ、その前に、裏手に家があるか確かめてみよう」

「依頼人さんにも事情聞きたいしね〜」

と明が言った。その場にいた5人全員が頷いた。

廃病院の正面から側面に移動するごとに何かが見えてきた。そう。家があった。


それは、事実。廃れていた。


5人は廃病院の裏手に回った。今回依頼が来た依頼人の家だった。明が立ち止まった。そのまま依頼人の家を凝視する。背後から、声がした。

「先輩、どうしたの?」

千則だった。

「あ、なんでもないよー!先に依頼人に会って事情を詳しく聞いてみよっか!」

「うん!」

千則は頷き激しく同意した。依頼人の家……至って普通の家…に見える訳もなく、普通に廃れていた。本当にここに住んでいる人がいるのだろうかと光や明は思ったが、聞かない事には分からないため、ドアをノックした。明がピンポンと呼んでいる物─────インターホンは無く、ノック以外の情報伝達方法がなかった。

2、3回とノックしたが、5分待てど、10分待てど来なかった。

「んー……やっぱりいたずらだったのかな…今は留守なのかもだけど、そもそもこんな所に住んでいる人はいないと思うし、廃れてるからもう誰も住んでないのかも。」

明が考察した。見た目上、廃れているのは一目瞭然だった。分かりやすく割れた窓、扉は木製で蹴り飛ばしたら壊れてしまいそうだった。

「じゃあさ!誰もいないなら入ってみようよ!鍵開いてる?」

千則が本調子のまま明に呟いた。

「開いてる……みたい。だけどいいのかな…」

「いいのいいの!こんな所に住んでる人なんているわけないし!うしっ!オープン!」

千則の合図と同時に扉が開かれた。

中は──────気分の良いものではなかった。

明達はすぐさま引いた。


理由は──────中に入った途端、血が充満していたからだ。あらゆる家具に飛び散った血。リビングの真ん中には、1つの椅子。まるで拷問用として使われていたような。そんな、椅子だった。椅子には棘が刺さってて、座ると刺さるようになっているのだろう。拷問に使われていたのは一目瞭然だった。


そして、扉を閉めて退散した。その場から逃げるように、見たくないものを見たように。全員が、一目散に走っていた。

そして、廃病院の前に立った。これは「いたずらだ」と判断した。今回の依頼は、そう、いたずらだ。誰かがなんの意図かは分からないが、恐らくいたずらで、気まぐれ部メンバーにいたずらをするべく気まぐれ部の依頼箱、気まぐれ箱に入れたのだ。そうに違いないと全員が思った。

が。それがいたずらではないと気付かされたのは、廃病院から目を背け、その場を立ち去ろうとした時の事だった。今度は光を先頭に、悠介、明、千則、縁の順で歩き出した時だった。

縁の後頭部に、確かな衝撃が走った。それも、気絶させるに足る大きな衝撃が。そして。背後を振り返った途端。光、悠介、明、千則は目を大きく開けた。驚いたのだ。当然だろう?同胞が。友人が、倒れていたのだ。それと同時に、認識させられた。逃げられない。助けられない、と。倒れる音とともに打撃音が響き渡る。気づいた時には、明の後ろに立っていた千則も倒れていた。その次は明。次は悠介。そして。俺。


──────視界が、真っ暗になった。

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