第6章.目覚め
第6章.
秘暮明は、再び目を開けた。意識が朦朧とする中。誰かの声が聞こえた。
「──────せ…ぱ…!!」
少しずつ。昭然たる意識を取り戻しつつあった。
「──────せんぱ…!!」
それは、何度も聞こえてきた。何度も何度も。
「うぉうりゃあああああああああ!!!」
「んぐぅ!?」
意識は、強制的に叩き起された。明のみぞおちに、確かな痛みを感じた。
みぞおちに、腹パンをくらっていたのだ。
「ちょ、千則力入れすぎ!!起こすだけなら叩くとかあったろ…先輩が死んだらどうするんだよ」
「先輩はこんなんじゃ死なないもん!それに声掛けても起きないんだもん、刺激が必要だったんだよ…っ!」
「刺激で済む威力じゃなかったと思うが」
悠介はツッコミを入れるが如く呟いた。その場にいた縁が明の背中を摩った。
「明先輩…大丈夫ですか、?」
明の意識はとうにハッキリしていた。視界には、
拳を突き上げて笑っている千則、何してんだと千則にゲンコツを入れるべく追いかけ回してる悠介、またやってんなと遠目で微笑んでいる光、明の背中を摩り、心配の色を露わにする縁。
彼ら、彼女らは、鮮明に見えた。そう。鮮明に。
彼らには、"あった"のだ。
それは、そう。
──────色とりどりな、色が。
灰色ではなかった。明は目を見開いた。色が見える。黒と白以外の、色が。そう、全てが色づいて見えた。それは、より目の前のものを鮮明に見せた。それは良い事であれ、悪い事であれ、明には、良からぬものを感じていた。
「きゃあ!!」
明が縁を突き飛ばした。当然であろう?偽物と思っていたものの、目の前にいるのは先程自身の命を費やし、殺した男女。それが友人であれ家族であれ、拒否反応を見せるのは当たり前だ。
「あっ…ごめっ……」
明は謝罪をしようとして、続けた。「ほん……もの?」と。
縁は驚いた表情をして、千則、悠介、光は不思議そうな、疑問符を浮かべていた。
「先輩、どうしたの?」
千則が声をかけた。
「あ、ごめん…大丈夫だよ、ちょっと怖い夢見ちゃって……縁ちゃんもごめんね」
謝罪を続けた。すると、縁が尻もちをついていたお尻を上げ、立ち上がった。そして、その曇りなき眼に、涙を浮かべた後、千則の胸に飛びついた。
「千則ちゃあぁあぁああぁぁぁんっ!!!ぜんばいごわがっだあああああああ!!」
「うぇ!?」
「ゆ、縁ちゃん!?ご、ごめんね!!そんなつもりじゃ……」
「う"ぁぁぁあああああぁぁああああん!!!!」
更に縁が泣き喚いた。そして。
「ごめんてぇえええぇえええええ!!う"わあああああぁぁああぁあぁぁぁああん!!」
明も泣き出した。光の目には例えるとしてもカオスしか無かった。その後、千則が泣き喚く明と縁にチョップを入れ、おまけで悠介にボディブローした。
秘暮明は孤児だった。両親は病死、姉は行方不明。それは、中学1年生の頃だった。姉が行方不明になり、精神病院に入れられ、明の耳に常に聞こえたのは、棟内を歩く度に聞こえる憂慮の声だった。
「──────あの子両親いないんだって」
「──────あーあの子、確かお姉さんも行方不明なんだって話だよね」
「──────という事はこれから独りなのかな」
「──────可哀想に」
「──────あなた引き取ってあげたら?お子さんまだいないんでしょ?」
「──────嫌よ、あんな子、精神病んでる子供なんて引き取りたくないわ」
「──────それはそうよね」
「──────という事は引き取ってもらえる人がいないとあの子ここからずっと独りなのね」
「──────そりゃそうでしょ。自分で生きていけないんだから。むしろ独りの方が良いとかおもってそうじゃない?」
「──────確かにそうかも!」
「「あはははははははははははははははははは」」
中学生1年生以降。明は精神病院に入っていた。その為、中学生以上の知識が極端に薄かった。
明はそれをコンプレックスに思ってる1面もあるが、それを笑いに変える、カリスマも持ち合わせていたため、コンプレックスは消えかかっていた。
気まぐれ部一行は、その後、廊下に出ていた。
「──────いやぁみんな心配させてごめんねぇ…私は……あっ、我は元気だ!なんならこの場でカオスディーラーを食らわせてやる!!!」
「先輩……ディーラーの意味知ってます、?」
悠介が補足をつけるように質問した。
「……分からないです」
「ですよね」
明が少し落ち込んだ顔をすると、千則が支えた。
「じゃ、じゃあ気まぐれ箱見に行こうか!!!」
「あ、うん!!」
気まぐれ箱。それは、気まぐれ部が設置している問題解決箱で、そこに困った事や悩んでる事を紙に書いて入れると、気まぐれ部に依頼が行くという仕組みだ。
気まぐれ部一行は廊下を進んだ。が、
「今回の〜依頼は〜なんじゃろな〜っ!」
明がストップを示した。
「あ、じゃあ私見てくるよ!みんなここで待ってて〜」
明はそういうと、小走り気味に階段へ向かい、階段を降りた所で、1階の気まぐれ部の部室の前にある気まぐれ箱を見やる。
「先輩…なんか、変じゃない?」
千則が言った。
「確かにな……少し体調悪いのかもな。先輩は自分が元気なくても元気あるように振る舞うから、ちょっと心配なんだよな。」
「そうだね。」
縁が頷いた。そして続けて、
「どうにか元気になって貰えないかな…」
と言った。
「やっぱ肝試し行くか?」
と悠介が言うと、縁が本気で嫌悪の顔をした。
「嫌だ!!!私は行かないからね!!それに!元気ないのに肝試しとか逆効果!!!」
そんな会話を重ねていると、階段を上がり終えた明が小走りでこちらに向かっていた。
「みんな〜以来取ってきたよー」
「「きたあああ!」」
千則と悠介が同調する。明が千則に紙を渡すと、千則がそれを楽しげに開いた。
「今回の〜依頼は〜なんじゃっろな〜っ!!」
そこに書いてあったのは。
「えっとー、夜間に裏の廃病院から物音がしてうるさいからなんとかして……って!!!!」
「「「「──────廃病院!?」」」」
廃病院を指定した、依頼だった。