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第5章.記憶

──────何も、なかった。

何も無かったのだ。連連と並ぶカラフルな民家も、大地をえぐり存在していたはずの河川も、車体や人の足で踏まれた車道も、何も。なかった。そこには、ただただ灰色の荒野が続いていただけだった。水平線の先にも、何も無い。そう。この学校は、孤立していた。

「なに……これ…」

明は悲鳴に近い声を上げた。

「どこなのよ!!!ここは!!!」

緩ませていた手を固く握る。すると踏ん張りが効いたのか、体は落ち着きを取り戻そうとしていた。が。

「もう…いやぁ……っ。」

明はもう限界だった。慕っている後輩の姿をした何かに2回ほど殺され、恐怖感を味わった。そして、何度目が覚めようとこの空間にいた。

当然の反応だった。

「も、もう出られないの…?ここで……」

明は息を飲んだ。

「ここで……ずっと殺され続けるの、?」

叫んだ。恐怖心から来るものではない。自身の心の安寧を取り戻す為だった。

「いやっ!絶対に嫌っ!!死んでたまるか!そう!今月はまだ千則ちゃんと縁ちゃんのおっぱいもふもふしてないもん!!こんな所で殺され続けるくらいなら、少しでも抗ってやる!!偽物め…絶対に我が許さぬぞ……」

明は右手で眼帯を押えた。

「あっ…そうだったね。今は1人なんだった、私」

右手で眼帯を抑えるのを辞め、明は振り返り、校舎に戻った。

「さて……勢いをつけたはいいものの…どうしよ」

行き場を見失っていた。まるで角楼屋敷のように廃れたこの学校で、行かなければならないところが思いつかなかった。

「ま、全部屋あたればなんとかなるっしょ!」

そして。明の不可解な冒険が、始まった。


明は屋上から4階に降りたところで、4階から1階に捜索することを心の中の自分に提案した。が、どこからか。怪しげな、そして、どこか悲しげなメロディが聞こえてきた。明は釣られるように4階左端の音楽室へ向かった。音楽室では、モーツァルトや、ベートーヴェンなどの絵画が飾られていて、そのどれもがミステリーアートのようにこちらを見ていた。しかし、明の目を引くものは他にあった。

「女……の子?」

明よりも小柄な、桃色髪の少女が、ピアノを弾いていた。何故だろうか、今まで灰色の世界で、灰色しか見えなかった。偽物の悠介も、千則も、灰色だった。なのに。何故だろう。この少女の髪の毛は、桃色に、揺らいでいた。明は少女の奏でる旋律、そのメロディを聞いていると、どこか明は気が遠くなる感覚を覚えた。

「あ、来たんだ。」

少女はピアノの横長の椅子から飛び降りると、こちらを振り返って呟いた。すると、瞬く間に明は眼帯をつけている方の目を右手で押さえた。

いつもの厨二病……ではなかった。

「うっ……!!!」

明の海馬に、苦しみが流れ込む。痛み。と言ってもいいだろうか。明は頭を押えて悶え始めた。苦しいのだ。そして。



That memory was etched into Mei's mind,

Leaving behind a white background.


その記憶は、白い背景を残して明の

脳裏に刻み込まれた。



──────め……ゃ……げ……!!!!」


──────…ねぇ………や…よ!!」


──────い……ら、にげ………。」




In this way, Black became black and white

became white.


こうして、黒は黒となり、

白は白となった。





──────め……あい……る。」




They beg. To your own destiny.

Their peace of mind.


彼らは懇願する。あなた自身の運命に。

彼らの心の安寧を。




「──────もう、いいかな?」

少女は言霊を繰り返す。

「君は思い出すんだ。これからも、ずっと。」

少女は続ける。

「そのうち、思い出してくるはずだよ。でも、そうだな……特別に。ここから出させてあげる。"その代わり"、1つだけ忘れてしまったものを、1度忘れようと思ったその少量を。再び思い出させてあげる。」

須臾。明は、かの角楼屋敷と同じように。視界が。真っ白になった。あの数秒のみ真っ白になる感覚。大穴に落ちた時とはまた違う浮遊感があった。明は再び。思い出さねばならない。そう。これは始まりに過ぎないのだから。



1つの扉。固く閉ざされてそうで、でも鍵穴は無くて、横幅人3人分、直径人2人分の扉が、目覚めた明の前に、存在していた。

「うっ……」

明は、目が覚めた途端。咄嗟に口を押さえた。吐き気がしたのだ。当然だ。あれだけの恐怖と気持ち悪さ、悲しさ、絶望感を味わっておいて無傷な方が難しいだろう。そのまま這い蹲るようにして端に寄り、嘔吐した。

「はぁ、はあっ、はぁ、はぁっ、」

一定のリズムで明の呼吸音が響く。そう。響いていた。明は周囲を見た。が、そこには壁しかなかった。囲まれていたのだ。無数の壁に。あるのは、壁。壁。壁。と1つの大扉。それだけだった。

「……ここは…はぁっ、学校の……部屋、?学校にこんな所、なかったはず……」

明には、見覚えがなかった。というより、情報量が少なすぎた。大扉と壁。それと明の吐瀉物。それだけが、この部屋の情報だった。

「……一先ず、出よう…」

明は扉を開けた。案外あっさり開いたと明は思った。見かけによらず、軽やかに開いた。

「……また…部屋、?」

そこには、1つの薄暗い拷問部屋のような、まるで地下牢を思わせるような、そんな部屋だった。

扉は先程通った大扉のみで、部屋の中央に木の机。椅子はなく、机の上には本のようなものが見開かれていた。明は他に目を向ける物はないので、もちのろん、その本へと視線を移した。

「これは、本……?あっ、なんか書いてある。」

その文字を明は読んだ。そう。読んでしまった。

その文字を読んだ瞬間。明の視界は真っ白になった。

そう。そこに書かれていたのは。



「────────?」

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