第3話 洞窟
「……」
目が覚めた。……なんかここ最近、こんなんばっか。
流石に3回目となると目覚めに関して冷静にもなる。
数回瞬きして状況を把握する。そこは暗闇でもなく青空でもなく、ゴツゴツとした岩の天井が映る。
横たわりながら首を動かす。
「……あっ!」
すぐに冷静さを失い、大きな声をあげてしまった。
右手にはギターケースとヘッドホン。
起き上がり、その勢いでそれらを抱きしめる。
……よかったぁ。
「……気がつかれましたか」
「!」
感想の対面中だったのもあり、急な話し声に思わずビクッと反応してしまった。声は真後ろから聞こえた。
私は振り返った。
そこには大変顔面レベルの高い、ハーフ顔の少女がいた。
身長は私より5cmほど低いだろうか。小柄なのに胸は大きくくびれがあり、スタイルがいい。金髪でロングヘア。目鼻立ちがはっきりとしているのに、可愛い顔なので海外のお人形さんみたいだ。
「……な、なんでしょうか」
私がまじまじ見ているせいか、少女はそっぽを向きつつ少し照れながら髪を耳にかけた。そんな仕草も相まって可愛らしい少女だ。髪からのぞく尖った耳も印象的だ。
……耳、尖りすぎじゃない?
そして長くない?
この耳の尖り方とか長さは整形とかそういうんじゃない。
自前だ。
つまり人間では……ない?
「あ、あの……お話ししてもよろしいでしょうか?」
「あ、ええ。ごめんなさい。あなたがすごく可愛かったので、見惚れてしまってたみたい。」
「か、かわ……!」
少女?は照れてるのを隠そうとするかのように咳払いをする。
「……あなたに回復魔法をかけたのですが、効き目はどうですか?」
「回復…魔法……?」
聞いた通りの言葉の意味なのだろうか。
だとしたら凄いことだ。
魔法って……まるでおとぎ話の世界じゃないか。
「まだどこか痛みますか? 私、自発的に使う魔法、得意じゃなくて……その……」
「! めちゃめちゃ効いてます! もう、まったくこの通り元気です」
考え事をしてしまう癖が悪い方向に働いたようで、思わず大きな声で弁明する。実際、本当に痛みもないし、気絶する直前に感じていた血の感じとかもない。顔をペタペタ触ってみた感じ、顔の傷もないようだ。
「それはよかったです。……5日ほど眠ったままだったので、魔法、失敗してしまったかと思って」
「5日!」
それは爆睡すぎる。
「と、とにかく、ありがとうございます。あなたに助けてもらわなければ、たぶん死んでました……しかもギターとかも拾ってきてもらって……本当に、本当に本当にありがとうございます!」
心からの感謝を伝える。
本当に有り難かったのと、久々に話が通じる相手に出会えた喜びで、捲し立てるように喋ってしまった。
「……そうですか」
私の熱い思いとは比例するかのように大変、クールに相槌を打つ少女。さっきまで恥ずかしそうだったのはなんだったのか。
「……えっと、はい、助かり……ました」
「……」
絶妙な間が私たちを包む。
「えっと、あなたのお名前は? あ、私は綾戸千陽って言います。14歳で、たぶんあなたと同い年か、少し上かなと」
「……」
自己紹介をした途端、少女に怪訝な顔で見つめられた。
「あなたも私のこと……馬鹿にしてるんですか?」
「え! 全然してないですよ!可愛い命の恩人としか思ってないです!」
「かわ……っ!」
少しきょどった様子になる少女。
どうやら容姿を褒めるのは効果的らしい。
「本当に可愛いです!今までで出会った中で1番顔面が強いです!」
「……人間は顔面で強さを測るのですか?!」
「はい!」
なんて冗談はおいといて、
「……私、たぶんこの世界に飛ばされて?……本当にどうしたらいいか分からないところにあの怪物……あなたと出会ってなければ、今頃……」
と、身の上話を挟み込む。
どうしたらいいか分からない時は自己開示をするのが大事だってママが言っていた。
「世界に……飛ばされた?それ、詳しくお聞かせ願えますか?」
よし!ありがとうママ!
少女がこちらに歩み寄ってくれたのをいいことに、私は自分自身に起きた全てのことを、この少女に全て話した。
◾️◾️◾️
「なるほど……アヤトはおそらく“転移者”。」
「転移者?」
「私も文献でしか知らないのですが、この世に混沌が近づく時に現れる存在だと、私は聞いております」
「ほ、ほう?」
ギターを横に置き、身の上話もすんだところ。
少女は耳慣れない言葉を口にした。
……いや。どこかでーー。
あーー! 頭をフル回転させると、友達から借りた漫画にそんな設定の漫画があったことが思い出された。その子曰く「異世界ものって巷に溢れてるし毛嫌いするやつ多いけど、普通に面白いから読んでみろ」って。
私はサブカルの見た目の割に、漫画もアニメもゲームもほぼ見ないのだ。それがたまに人の期待を裏切るようで「めっちゃコアな漫画教えてくれるかと思った」と言われて、なんとなく残念がられたことが二、三回ある。
「……なるほど……それなら一緒に……いや、でも……」
少女はぶつぶつと考え込んでいる。
そして覚悟を決めたように頷き、私に向き直る。
「私はリファイ。一応ハイエルフ。……あ、エルフというのは人間の上位種で、魔力をもち、肉体的にも精神的にも人間より優れている種族のことなんですけどーー」
すごいマウント。
「あなたのことをもっと知りたいし、この世界のことも教えてあげたいんだけど、それよりもまず……草原で出していた音、もう一度聞かせて頂けないでしょうか?!」
「……へ?」
ギターケースにしまってその姿が見えないはずのギターの輪郭が、キラリと光ったように見えた。