第2話 緑色の、半透明の物体
あれから私は気持ちよく歌い続けていた。
マイクがないのに声が響いてるのが楽しすぎて。
ギターも響けば、なお楽しいんだけどギターは生音のまま。
某プリンセスのように小鳥や子リスどころか、虫すらも寄ってこない。そもそもここに生き物はいるのか?
なんて呑気なことを考えていたら、突然、咆哮が響いた。
「!」
咆哮が聞こえた方向を見ると、3メートルぐらいの緑色の半透明の濡れた物体が、こちらにゆっくりと近づいているのが見えた。足などはなく、ずるずると這っている。
ギャィイイヤ
2度目の咆哮。
ゆっくりと近づいていると思っていた物体は、思いの外速いスピードで移動している。
「無理だって!」
これは、絶対にやばい。
ギターを急いでケースにしまう。
こんな、わけの分からない状況ならワンチャン、ギターが武器になったりするのだろうか。ーーまあそうなったとしても武器になんて絶対にしないけどーーなんてこと考えた瞬間、お腹の部分に強い衝撃が。
気がつくと身体が吹っ飛んでいた。
こういう瞬間はスローモーションに見えるようで、一般的な動体視力を持つ私でも、自分の身に何が起きたか確認することができた。
あの緑の半透明の物体は、鞭のような触手を伸ばして、私のお腹に攻撃をしてきたらしい。
ゴガガ!
草原だったのが功を奏したのか、何にもぶつかることなく、ただただ草地を転がってゆく。顔が擦り切れている気がする。
「ごほっ」
咳込むと血の味がする。身体も動かせない。
ああ今度こそ本当に死んでしまうのかもしれない。
半透明の物体の進路は変わらない。ゆっくりとこちらに近づいているのが見えた。
どうせ死ぬならギターを持ったままでもよかったな。
いや、それは勿体無いか。
願わくば、ギターがあの怪物に壊されずに難を逃れてほしい。さらに願うなら誰か、あのギターを拾ってメンテしてうまく使ってほしい。さらにさらに願うならーー誰か助けてくれ!
「ーー霧よ」
突然、知らない声がしたかと思うとひらけた草原に霧がかかる。と同時に、柔らかい感触。何かに私は抱き抱えられたようだ。
「……逃げますよ」
霧を出した人物と同じ声。落ち着いた声質だ。
体力的にも脳内のキャパシティ的にも限界だったようで、私の意識はここで途絶えた。