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第1話 草原で歌う


気がつくと目の前には一面の青空。雲一つない。

背中には芝生より長い草の気配。

どうやら私は横たわっているらしい、大の字で。


気候的には小春日和といったところ。澄んだ空気の中に暖かさを感じられて、気を抜くと微睡んでしまいそう。

……ってそんなリラックスしてる場合じゃない(はず)。


私は横たわっていた身体を起こし、服についた草を払う。そして気づいた。

先ほどの“とてつもない存在”との話が本当だったとするならば、“事故の直前“と同じ格好をしていた。




◾️◾️◾️

事故の直前ーーあの日は学生向けの音楽フェスに向かう途中だった。テープ審査を通過し、何度か人前で演奏させてもらい、そこから選ばれた8組が会場に集結し、音楽で殴り合うというアツい日。観客投票なんかもあるのでフェスというより大会に近いのか。実際、主催がそれなりに有名なとこでしたし、音楽事務所の関係者も観にくるとの噂もあるしで、メジャーデビューに近づく日だった。


女子中学生らしく制服をアピールしとくか、なんて自己プロデュースも考えたりして、でも中学生平均を超える身長があり猫背気味の私だとさほど制服が似合わずアピールにならないかなと思い直し、お気に入りのスウェットで向かうことにした。

ママがくれたヘッドフォンを身につけるとボブの髪型と相まって、ザ・サブカル女の誕生。あとはパパから譲り受けたギターを背負えばもう完璧。指も喉も調子がよく、これはいけるんじゃないか、と思っていたーー。




◾️◾️◾️

……とまあ思い出してみたところで、虚しくなるだけで何も変わらないか。


ママからもらったヘッドホンに触れつつ、少ししんみりして視線を落とすと、右手にパパからもらったギターケースがあるのに気がついた。



「ああああ!」


思わずギターケースを抱き込む。よかった。

その懐かしい重さを感じながら、大きく息を吸う。


涙が出そうになるけど少し我慢してみる。

なんとなく、もっと大変なこと起こりそうな気がしていて、こんなんで泣いてはいられなそうかなって……。



よし、一旦状況を整理しよう。

今は草原にいて、青空だし、いい気候。

持ち物はギターとヘッドホン。以上!


……いやだって、どうすればいいのか、分からなさすぎる。見渡す限りは草しかないし。

まあ少し歩いてみてもいいんだけど、いたずらに体力を使うのもどうかなと。食料も水もないしね。


考えれば考えるほど不安になる材料しかない。

もうどうすればいいか分からない、けど、とりあえず……。


ギーっと、音を立ててギターケースを開ける。

重さから分かってはいたけどギターの無事を確認。



この状況に、慣れ親しんだギターの存在はミスマッチで、けど、どこかにハイキングしにきたようなリアル感も絶妙にあって、なんとも言えない気持ちになる。


……。

かなり絶望的なのにギター見てたらウズウズしてきちゃった。



ヘッドホンをギターケースの上に置き、とりあえずE()を短音で鳴らす。やや低いのでペグを巻く。そのまま1弦に向かってチューニング。

アンプもスピーカもないので弦の生の音。


ドミソ……Cコードを鳴らす。

そうそう。音楽は和音だよね。


こんな、だだっ広い外で弾いたことなんてなかったが、不思議と気持ちよく、心地よかった。そのまま興に乗り、テープ審査に送った曲を弾き語りする。


「〜♩」


気持ちはディズ●ープリンセス。まるでマイクを使ったかのような声の広がりだ。動物たちが寄ってきそう。



……ん? これ、本当に声、響いてない?

マイク使ってたっけ? 外ってもっとこう……声が吸収されるイメージがあったんだけど。


色んな疑問が浮かぶけどとりあえず歌い続ける。

楽しいーーーー!




◾️◾️◾️

時同じくして近くの森。


「……なんですか、この音」


動きを止める女性。その手には薬草を持っている。

金髪の長い髪を耳にかけて、周囲の音を拾う。



「……不思議」


森に薬草をとりにきていたエルフの少女ーーリファイは目を閉じ、聞きなれない音に耳を傾ける。



「って聞いてる場合じゃないわ! 早く帰らないと……」


手に持っていた薬草をカゴにしまいこみ、根城としている洞窟へ帰ろうとする。ーーが、すぐに足を止めてしまう。



「……嘆きの草地の方向ね」


そうリファイは呟くと、「うーん」とひと悩みしあと、嘆きの草地へと向かっていった。



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