002 脳裏に焼き付くアーチ
「おーい、セイヤ、こっちこっち」
「あ、タカノリ先輩! やっと見つけました~ いやしかし、すごい混み具合ですね~」
「まぁな~、まだ目新しさもあるんだろうし。って言ってる俺らもその口だしな!」
立派なビール腹と眩しい頭部がチャームポイント、タカノリ先輩をようやく発見しました。まぁ、僕も腹のでかさは大差ないんですが。お互い50も迫って来た独身貴族の、欲望を抑えない食生活の賜物?です。
「ホントですね~、でもこれだけテンション上がる施設ならリピーターも結構いそうですけど」
「確かに。まだ試合開始前なのにすでに俺もまた来たいと思っている」
僕とタカノリ先輩がいるのはエスコンフィールド。北海道は北広島市に去年オープンした、プロ野球日本ハムファイターズの本拠地です。
「やっぱりセイヤはホットドッグ買って来たか。初めての球場は絶対頼むよな~」
「野球にホットドッグはマストです! タカノリ先輩のピザと一緒ですよ~」
という感じで、今合流した場所は球場グルメがいろいろ楽しめるエリアの一角。お互い、自分の定番フードとビール、そして+αの食べ物を、しこたま抱えて試合開始前の休憩をするところです。
「ほんじゃ、カンパーイ!」
「カンパーイ!」
朝から存分に野球場とその周辺を楽しんで乾いた体に、キンッキンに冷えたビールを流し込むという、至福の瞬間です。
「く~~~! たまらんな~」
「ですね~」
喉を通過するシュワシュワした感じと、スッキリした苦みを堪能したら、お次はこれ、ホットドックにかぶり付きます。パキッと心地よい音と食感のソーセージ、たっぷりケチャップ、ふわふわパンという最高のハーモニー。モグモグと咀嚼して口の中で混ざってくると、最高というか、最高です。
「はぁ……ホットドックは約束されたうまさですよ。ハム会社運営だから当然すぎますが!」
「そりゃそうだろう。こっちのピザもうめぇぞ~~! さすが北海道だぜ」
タカノリ先輩もお気に入りを堪能しているようです。手に持っているのは大手宅配ピザ屋さんのものなので、現地素材がどれくらい使われてるんだろう、と一瞬思いましたが、言わぬが花ですね。
「いや~、youtubeとかの動画紹介いろいろ見て、楽しそう、旨いもん多そう、とは思っていたが想像通りに楽しすぎだろ、エスコン」
「これでまだ試合観戦前ですからね!」
「そうなんだが、もうすでに飛行機代の元取ってるだろこれ」
「ホントに。遠征してきたかいがありますねぇ」
などと、テンション高めで球場グルメを堪能しつつ、あーでもないこーでもないと会話していた僕たちだったのですが。ふと、周りがざわついているのに気付きました。
「ん、なんかグラウンドの方が騒がしいな、なんだ?」
僕らもそちらに意識を向けると、さっきまで快晴だったのに黒い雲が空を覆っていて、雨が降っていました。ゲリラ豪雨というやつでしょうか、グラウンドの土の部分があっという間に水たまりになってしまっています。
「これ、予定時刻通りに試合始まるんですかね?」
「どうだろうなぁ、ここは開閉式ドームだから屋根閉めちまえば試合は出来るだろうが、もしかしたらグラウンド整備で遅れたりするかもな」
とタカノリ先輩が言った直後、アナウンスが入りました。整備をするので30分ほど開始が遅れるようです。
「いや~、屋根オープンの日を狙ってきたから残念な気持ちもあるが、開閉が見られるのはそれはそれで珍しい体験になりそうだし、これはこれで、だな!」
「天気はどうしようもないですもんね~。ちょっと飯をゆっくり食べられる時間が出来たと前向きに考えましょうよ」
「そうよなぁ。あ、そういえば開閉式ドーム球場で急に思い出したんだが、10年ちょい前にシアトル一緒に行ったじゃん。実はあそこも開閉式ドームだよな」
「あー、そうでしたね。メジャーリーグの中継見てても日差しあること多くて、実際行くまでドームってイメージあまり無かったですけど」
そういえば、僕らの関係性を説明していませんでしたね。僕らは20年以上の野球観戦仲間です。きっかけは僕が新卒で入社して、最初に付いてくれた先輩がタカノリ先輩でした。共通の趣味があったことですぐに打ち解けて、かなり仕事の面でもお世話になりました。
先輩は転職しちゃって、会社は別々になりましたけど、今も年に数回は全国の球場を巡っています。その中でも一番遠出をしたのが海外、シアトルでした。当時はまだイチローがマリナーズで活躍していたころです。
今だと大谷翔平がいるロサンゼルス行きのツアーが多いと思いますが、当時はシアトルに行くツアーが結構ありました。生でイチローを見れただけでも軽く感動しましたが、丁度僕らが行った試合でなんと、イチローはホームランを打ったんです!
「今でも思い出すと鳥肌立つんだよなぁ。同点からの勝ち越しホームラン。セイヤも覚えてるか?」
「そりゃ覚えてますよ。海外旅行も初めてで他にも印象に残ってることはありますけど、やっぱあの瞬間が一番ですよ!」
「だよな。メジャーで通算100本以上ホームラン打ったとはいえ、年間じゃ160試合で10本打つかどうかってところをお目に書かれたのは運がよかったよなぁ……」
「はい……今でも脳裏にエメラルドグリーンのユニフォームが鮮明に焼き付いていますよ」
シアトルは海や森など豊かな緑に囲まれた美しい街で、エメラルドシティという別名があります。それもあってか、シアトルマリナーズのユニフォームや帽子には緑色がワンポイントで使われています。たまにバージョン違いの、鮮やかな緑一色のユニフォームを着ることもあるのですが、僕らが観戦した日は丁度そのユニフォームだったのもあって、とても印象に残っています。
「夢みたいに楽しかったよなぁ……大谷の現役のうちにまたアメリカ行こうぜ」
「……そうですね。そのためには、またお金しっかり貯めないとですね!」
「だなぁ。って、昔や未来の事考えるのも楽しいが今日をまだまだ楽しまないとな。腹も膨れたしそろそろ客席の方に移動しようぜ!」
「そうですね。あ、もうこんな時間じゃないですか! 早く行きましょう!」
「おう!」
思っていたよりもずいぶんと喋っていたみたいです。屋根も完全に締まり、グラウンドの水たまりも処理されて準備万端。スターティングメンバー発表もすっかり終わって、試合開始まであと5分。さて、今日の試合はどんなドラマが待っているのでしょうか!
3題:雨:エメラルド:あと5分
自動生成の3題ではなくて、ノベルアッププラスのイベント用の作品です。
エメラルドでいろいろ調べてたらシアトルにたどり着いて。
そしたらこんな話になりました。