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001 タクシー運転手の災難

路線バスの電光掲示板がいくつもある、とある都会の駅前。

タクシー運転手である、山中がよく使う拠点のひとつだ。


行きつけのファミレス(駅近なのに駐車場があるので結構利用する)で、少し早い夕飯を済ませた山中は、夕暮れどきの駅前タクシー乗り場の車列に戻ってきた。

そこで、乗車待ちの長蛇の列に気付く。


「お? 電車止まってるのか?」


窓を開けてみると、駅のアナウンスが何やらひっきりなしに説明しているのがかすかに聞こえる。

そして、今もこちらに向かって続々と人が歩いてくる。


「こういうときは普段と違う変な客も来るからなぁ。はてさて……」




不安半分、期待半分、待つこと数分。

山中が乗せた乗客は、花束を持った女性だった。


「はい、お客さん。どちらまで?」


「隣町の○▲駅近くの、ベロニカっていうライブハウスはわかりますか?」


「ベロニカ…… えーと、雑居ビルの地下にあるやつでしたっけ」


「そうですそうです! そちらまでお願いします」


「はい、かしこまりました~」




駅前ロータリーを抜け、大通に出たところでタクシーが速度を上げていく。


「今日は誰がやるんです? なんて、あんまり詳しくないんですけど、花束が気になりまして」


山中はもともと客と会話をするタイプの運転手でもあるが、ライブに花束、というのが気になり話を振ってみた。

ミラー越しに視線を向けると、女性は若干焦った雰囲気で時計を見ていた視線を上げて答えてくれた。


「ヘイジっていう2人組の男性アイドルグループで、いわゆる地下アイドルです」


(確かベロニカは200人規模だったか? 地下アイドルならそれくらいの規模で丁度いいのだろうか)


「地下アイドルですか。よく知りませんが、バンドでいうインディーズくらいのイメージでいいですか? ベロニカは200人くらいの箱だった気がしますが、その規模で丁度いい感じなんです?」


「まあそんな感じです。ライブ後にチェキ会でツーショット撮影やお話も出来るんですよ。あと、ヘイジは客からのお渡しOKなんです! この花束はそのチェキ会で渡すつもりなんですが、お渡し初めてなので緊張してます。--あの、ところで運転手さん、ベロニカまであと何分くらいで着きます?」


女性はまた時計を気にしつつ聞いてきた。


「そうですね、この時間帯だと、だいたい15分ってとこですよ」


「よかった、それなら大丈夫かな。今日は開幕に新曲があるってSNSで告知されていたんです。電車止まっちゃうし心配でした……」


そんな会話をしていたところ、道の様子がいつもと違うことに山中は気づく。


「あれ、ここいつももっと流れるのにな。事故でもあったか?」


「え……ま、間に合うんでしょうか?」


「なんとも言えませんねぇ」



それから数分たったが、ビタッと進まなくなってしまった。


「参ったな、この辺は抜け道も無いし。お客さん、開演まであと何分で?」


「あの、えっと、もう10分くらいしかないです!」


「しまったな。降りてもらって徒歩だと、もう間に合わないか……奥の手を使うか!」


山中は、トランクから何やら持ち出したかと思うと、乗客側のドアを開けた。


「お客さん、さぁ降りて降りて! 何が何でも間に合わせますよ!」


「え、あの、どういう……?」


混乱する女性客。それはそうだろう、車道で降ろされるのだ。

加えて目の前の運転手が、"算盤が靴底に付いた奇妙な靴"に履き替え始めたのだから。


「困っているお客さんを放っておけない性分でしてね。会場まで責任をもってお送りしますよ!」


「あ、いやそれはありがたいのですが……その靴、何なんですかァッ?」


山中は返事も待たず、女性客をお姫様抱っこして走り出した。


いや、滑り出した。


「ちょっと揺れますが我慢してくださいね~!」


「えええええ、ちょっとぉ~~~~!!」


抱えられたのも驚いたが、算盤靴?で颯爽と走っていることで、さらに彼女はパニック。


いきなり抱えられた嫌悪感を抱くどころではないまま、開演予定時刻ギリギリにベロニカに到着する。


「会場内までお運びしますよ~!」


山中は入口スタッフをひょいとかわし、会場まで突っ込む。

山中と女性客が中に入ったところで、丁度照明が落とされた。


「間に合いましたね!」


「は、はいぃ……」


にこやかな山中と、ヘロヘロの女性客。

が、前奏が始まると、すぐに生気を取り戻す女性客。


「あ、新曲!!」


というやいなや、ステージに見入る女性客。


山中もつられてステージに目をやると、キレキレダンスのイケメン二人。

それだけでなく、狭いステージとはいえ、移動がかなり速い。

あんなに速く動けるのか、と思っていたら、足元にローラースケートを履いていた。


(ほー、今時ローラースケートのアイドルが居るとは…… ん、片方の子は何だか見覚えがあるような?)


山中が記憶を探っていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。

振り返ると、スタッフらしき人が睨んでいる。


(あ、見つかったか。しゃーない、出るか)


と、そのとき、ステージで大きな音がした。ほどなく曲も止まる。

どうやら、2人のうち1人のローラースケートが壊れて転倒した音だったようだ。

場内もざわつき始めた中で、立ち上がったイケメン君がしゃべりだす。


「あちゃー、ゴメンみんな。すぐに履き替えて、も一回頭からやるよ!」


山中はその声を聞いて、ようやく思い出す。

転倒したイケメンが、甥のカズオだということに。


(最近会ってなかったが、カズオ、アイドルやってたのか。知らなかった……次に姉さんと会ったときの話のネタにしよう)


今度こそ出て行こうとしたところで、カズオがしゃべりはじめる。


「え? 予備無いの? 困ったな……誰かー、会場でローラースケート持ってる人いませんかー? って、いないかー、あっははー。」


イヤモニを通して裏方から連絡があったのだろう、交換できないらしい。


「ごめんね、今日は新曲初披露なのに。ダンスは完璧に出来ないけど、歌だけは楽しんでいって!」


そう言って、カズオが裏方に再開の合図を送ろうとしたとき、山中は履いてきた靴をステージに投げ入れた。


ドサッ!


「おーい、カズオ! それ使え!」


「え? おじさん、何でここに!? っていうか使えって……!! これなら確かに行けそう!」


カズオがその靴を履いて、裏方に合図すると、また曲が頭から始まった。

どうやら順調に歌い始めた、というのを確認したところで、山中は会場を出た。



ハプニングは有ったが(むしろそれがあったからこそか)、ライブは大成功の盛り上がりを見せたらしい。





3時間後、山中はベロニカに戻ってきた。


あの後タクシーまで戻ったところ、もう大渋滞は解消していたようで、警察はじめ関係各所にだいぶ絞られた。


この後も、事務所に帰って後始末が残っているのだが、カズオからのメールでここに舞い戻ってきた。


さっきの今なので、スタッフに無茶苦茶睨まれているが……


「あ、山中のおじさん! こっちこっち!」


カズオが山中に手を振る。隣には山中が乗せた女性客も居た。


「はい、おじさん。靴返すよ。助かった~、っていうか何? この靴。算盤ついてるようにに見えるけど、操作感が普通のローラースケートだし、わけわからん丈夫さだし」


「まあいろいろあってな。話せば長くなるんで今度にしないか? それより、その……お客さんは何で一緒に?」


「あ、あの、ここまで運んでいただいたお礼を改めて言いたかったというか。無事に新曲も聞けて、カズオ君にお花も渡せましたし。それに、お代も渡していませんし。」


「あー、おじさん。この子、いつもチェキ券買ってくれる常連さんなんだけど、トラブル話の流れで、おじさんが乗せてきたって聞いて。お代も渡しそびれてて、ぜひ渡したいってことで、オレなら連絡先もわかってるし、待ってもらってたんだ。」


「そんな、別にこっちが勝手にやった事だから気にしなくてもいいのに」

(というか、ほとんどタクシーじゃないけどな)


「いえ! そういうわけには。そ、それにその、今後もお会いしたい、です……」


頬を染める女性客。


「……は、はい?」


戸惑う山中。


「彼女、どうやらおじさんのこと気に入っちゃったみたいなんだよ。大活躍だったみたいじゃない」


カズオの補足で、今度は体をクネらせる女性客。


「いやまてまて、え? お客さんは、カズオの事が好きなんだよね?」


「もちろんそうですが…… 推しを恋愛対象とはしないタイプなんです、私」


「はぁ、そうですか……」


「そ、そういうわけで…… 連絡先を交換してください!」


(こんな若い子が自分を? 本当に?)


まだ信じられない山中。


「せっかくだし交換しなよ、おじさん独身でしょ?」


「本当にこんな40越えのおじさんがいいのか? お客さん」


「はい! というか、ガッチリした筋肉、特に抱えられていたときに感じた上腕二頭筋が素敵で、見た目も若々しいです」


「そ、そうですか。まだ信じられませんが…… 連絡先交換くらいなら、まあいい、のかな?」


山中は、何だか押し切られた気がしつつも連絡先を交換した。

タクシー代も受け取り、今日はこれまで、と帰りかけたところでカズオの相方が現れた。


「おい、カズオ! 俺にもおじさん紹介してくれよ! マッスル山中さんでしょ? お前のおじさん」


「マッスル山中?」


(なぜその名を! こんな若い子が!?)


困惑するカズオと、ドキッとする山中。


「お前身内なのに知らないのか? まあ20年くらい前のアイドルで、活動期間半年で忽然と消えたし、不思議じゃないか。極々一部では今でも語られる、伝説のマッチョアイドル、マッスル山中。その代名詞が、算盤ローラースケートさ! 投げ入れられたときにまさかとは思ったんたが……年齢、山中、筋肉。ピースが揃いすぎで確信したね!」


熱っぽく語るカズオの相方、しかし羨望とは、ベクトルの違う興奮の仕方をしているように見える。


「そ、それはどうも…… まさかこんな若い子に名前を知られているとは思わなかったよ」


「では! やはり! ご本人!! キターーーー!!」


一段と興奮するカズオの相方。


「ぜひ! 今夜! 俺を大人にしてください!」


スルー出来ない爆弾発言が飛び出した。

山中だけではなく、その場にいるスタッフも含めて全員が固まった。


「お、お前、そっち系なの?」


なんとかフリーズから回復したカズオが、相方に問いただす。


「おう! といっても俺の好みはガチマッチョだからな! カズオは残念ながら守備範囲外だ。スマンな」


残念と言われて、何とも複雑な表情となるカズオであったが、山中はそれどころではない。

一刻もはやくここを離れなければ、とフリーズから回復し、ダッシュした。


「カズオ! ぜったいにそいつには連絡先教えるなよ! じゃあな!」


「わ、わかってますよ! 逃げ切ってくださいね! おじさん!」


幸い、相方君は足は速くないようで、追いつかれずに無事にタクシーまで戻り、サッと発車してホッとする山中。


「まいったな…… 今後カズオに会いにくくなる気がする。というか、この近辺でタクシー運転手続けるのも危険な気がしてきた。ちょっと場所を変えるか……」


女性といい雰囲気になれそうと思った矢先に、やばい奴にもロックオンされてしまった山中。


その悩みが、今後どうなるかは、また別の機会に。

3題:花、運転手、算盤


はじめてやってみましたが、なかなか難しいですね。

算盤と残り2つを絡ませる方法が思いつかず、変な話に仕上がりました。


1時間、1000文字以内、を目指したのですが、全然まとまりませんでした。

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