王都の武闘大会の本選を前に所属チームから追い出されたのですが、なんと故郷のチームに誘われ、元所属チームを破って優勝し、チームリーダーの幼馴染から告白されて幸せになってしまいました。
王都は今日開催される武闘大会を祝うかのような澄んだ朝を迎えました。
まるで嵐の前の静けさといった様相の穏やかな日差しが降り注いでいます。
私は窓から差し込む優しい光を浴びながらベッドから立ち上がり、水の精霊アクアに頼んで桶に貯めてもらった水で顔を洗い、風の精霊シルフィの優しい風で乾かしてもらい、さっぱりした気持ちで窓を開けました。
「う~ん、気持ちいい」
朝の涼やかな風が私の頬を撫でて流れていきます。
今日の大会ではこれまでに予選を勝ち抜いた4チームが優勝旗を巡って戦います。
私が所属するのは王都のギルド選抜チーム"鋼の意思"です。リーダーの戦士ゴレアスは好色で下品なのであまり好きではありませんが、メンバーの剣士フリード、魔術師サイクス、神官リオメル、精霊術師の私で、バランスの取れたチームです。補欠として騎士グレアムがいます。全員Aランクのギルドメンバーです。
戦い方は、魔術師と神官の支援魔法及び私の精霊術で防御を固め、相手を揺さぶりながら勝機を見出したら戦士、剣士、魔術師、私が攻撃をしていくという正統派のチーム戦を得意としています。不調なメンバーが出たとしても、支援魔法も回復魔法も使えて自ら盾役も攻撃役もこなせるグレアムが穴を埋めます。
窓から流れ込む風になびく髪を艶やかな紐で縛った私はこれから繰り広げられる戦いに向けて気持ちを整えていきます。少し癖のある私の髪ですが、今日は良い子でうまくまとまってくれて、気分爽快です。切ればいいのかもしれませんが、精霊たちが美しいと言ってくれるので伸ばしています。
他には騎士団と共によく国境防衛で活躍している傭兵団のチーム、王都の騎士学院の選抜チーム、それからそして直前まで勧誘してくれていた私の地元であるルーヴィア公爵領のチームが残っています。
ルーヴィア公爵領のチームは申し訳ないことに勧誘を断ってしまいましたが、リーダーのエルロッドは幼馴染で、断った私にも決勝で戦おうと言ってくれました。
ちなみに聖騎士団員たちは出てきません。あくまでも市井のものを対象とした戦いなのです。
今の世界では珍しい精霊術師である私は契約している光の精霊ルクシエラ様をはじめ様々な精霊様達の力を借りた精霊術を武器に戦います。
今まで誰にも手の内のすべてを見せたことはないのですが、今日の優勝賞品である"大精霊の指輪"を欲するルクシエラ様のために頑張るつもりです。
どうやら思い入れのある指輪のようで、誰かに渡したいようですので、お世話になっている恩返しのためなんとしても手に入れたいのです。
私は準備を整え、意気揚々と武闘会場へ向かいました。
しかし……
「今日の大会は俺と剣士フリード、魔法使いサイクス、神官リオメル、騎士グレアムで行く。補欠は騎士のオルネだ。リシュアナは残念ながら外す。悪いが」
「なっ……」
リシュアナは私の名前です。
つまり目の前の筋肉ゴリラ……失礼、リーダーであるゴレアスはあろうことか私をメンバーから外したのです。
確かに今日の戦いが始まるまではメンバー変更が認められています。しかし、予選を勝ち上がったメンバーを普通外したりしません。まるで踏み台にするような行為なのですから。
「なぜ?理由は説明してくれるのでしょうね」
私は怒りを込めてゴレアスに尋ねます。
「メンバーはリーダーである俺が選ぶ。そういう決まりだ。予選を勝ち上がったチームはいずれも高い攻撃力を持っている。それも剣や斧、槍などによる物理的な攻撃力だ。であれば、我々の戦術から行けば騎士グレアムを出して盾で防ぐのが効果的だ。仮に初戦でグレアムが大きなダメージを負う場合がありうるから、補欠も騎士を選んだということだ」
さも当然のように説明するゴレアスですが……
「(お前は俺の誘いを断ったしな……俺の女になるなら当然出していた。まぁもう遅いがな)」
なんのことはありません。この男はより自分がカッコよく活躍することがすべての男です。そして好色で下品です。欲望を隠しもせず小声で囁いたそれは最低な言葉でした。オルネはそういったことを気にしない豪快な性格ですから、きっと受けたのでしょう……。
「それに精霊術は不安だ。精霊の機嫌次第なのだろう? 自らの力で戦うものたちに失礼だと思わないか?」
割り込んできたのはフリードです。綺麗な名前とは裏腹に力至上主義者であり、精霊の力を借りて戦う私を認めないし、仕事で一緒になったとしても仕事だけの関係と割り切っていると面と向かって言われたことがありましたが、こんな時にその思いを発揮してきましたか……。
「武闘大会は厳しい戦いになると思うが、その中でどれだけ戦い続けられるのかは疑問だ」
グレアムもですか。大柄な騎士であり頼りがいがあると思っていましたが……。
「……」
リオネルは無言です。彼は常に神に祈っているような不思議な人なので仕方ありませんが、少しはこちらにも興味を示してくれてもいいのではないでしょうか?予選では私の精霊たちがフォローしていたと思うのですが。
そしてオルネはうっすらと笑みを浮かべてこちらを見ているだけです。
私にはゴレアスに寄り添って愛を囁くなど口が裂けてもできませんので、ある意味尊敬します。
「わかっただろ? だれもお前の擁護もしないんじゃ仕方ない。予選通過に協力してくれたのは確かだから観戦チケット位やるよ」
汚い顔で下劣な笑みを浮かべながら私に向かって1枚のチケットを投げてきました……。
私は周囲を見渡しますが、ギルド職員は申し訳なさそうに頭を下げる者もいましたが、誰も何も言えないようです。
もういいです。
ルくシエラ様には謝るとして、私は望まれてもいませんし、帰りましょう。
会場を出ると、相変わらずの良い天気です。
来る時と違って、その生暖かさが不快にも感じてしまうのが不思議です。
「ルクシエラ様、すみません。メンバーから外されてしまったので、"大精霊の指輪"は手に入れられそうにありません……」
「リシュアナ?」
私が精霊様への謝罪を呟きながら下を向いて歩いているとふいに話しかけられたので、顔をあげるとそこには……
「エルロッド?」
幼ないころから見慣れた銀髪の貴公子然とした長身の青年が黒地に青糸と金糸で飾られた服を着て立っていました。
不覚にも見とれてしまいました。
この幼馴染はとても見目がよいのです。
見目だけではなく性格もいいので、王都に旅立つ前、地元にいるときには密かに憧れていたのは内緒です。
そんな彼に泣きそうな顔を見られてしまったのは、ちょっと恥ずかしいですね。近くに穴でもないでしょうか?
「どうしたんだ? 今日は戦えるのを楽しみにしているよって、そんな顔をしてるということはまさか……」
そして勘もいい。1つ希望を言えるのであれば、顔を見た瞬間に理解してさらっと離れてもらえたら。
「エルロッド。今日は頑張ってね。応援してる……」
私は説明するのも気が重く、その言葉をひねり出すので精一杯でした。
そして顔を伏せて足早にその場を後にしようとしたのですが……
「待ってくれ!」
腕を掴まれました。
「ほっといて!」
私はその腕を振り払おうとしましたができません。彼は力も強い……。
「まさかメンバーから外されたのか? キミほどの精霊術師を? 王都のギルドは何を考えているんだい?」
彼はまっすぐに私を見ながら聞いてきますが、話しても私が武闘大会に出場することはできないのです。もう放っておいて……。
「本当に外されたのかい? でも、そんな顔をしているということは出たかったんだろう? なら、ついてきてくれ!」
なんと、あろうことか私の願いとは正反対に、彼は私の腕を無理やり引っ張って武闘会場に戻っていきます。なにか魔法を使っているようで私は逆らえず、痛くもありませんが、こんなのはあんまりです。
どうして私がこんな目に?
「エルロッド隊長、おはようございます……って、なにやってるんですか? 女性を無理やり引っ張り込むなんて」
すらっとした騎士然とした方がエルロッドに挨拶しながら私に気付いて驚いています。
見渡すとエルロッドに連れていかれて入った部屋には彼のチームのメンバーがいて、みんな目を見開いて驚いています。
それはそうでしょう。この場はチームの控室のはずで、部外者の私……それも対戦する可能性のあるチームの私がいていい場所のはずがないのです。
もうチームから外されたので対戦することはありませんが。
「みんな聞いて……」
「なぜ私をここに引っ張ってきたの? 私は帰る!」
「ちょっ……ちょっと待って!」
ようやく腕を話してくれたので何かを話そうとしているエルロッドを避けて帰ろうとしたらまた腕を掴まれました。
「驚きました。あのエルロッド先輩がまさか……」
「私もです。少女誘拐に加担させるのはやめてほしいです……」
よく似た容姿の子たち……双子の姉妹とかでしょうか?……が何やら勘ぐっています。
「ちっ、ちが……」
「なにが違うというのだ。明らかに嫌がる女性の腕をつかんで引っ張ってくる。これのどこが誘拐じゃないのだ?」
「あっ……いや、その……リシュアナ……ごめん」
威厳のある大柄な人に言われてようやくどう見られていたのかに気付いたエルロッドは申し訳なさそうに頭をかきながら謝ってきます。
なんなのでしょうか……。
「で? その女性は確か王都のチーム"鋼の意思"の精霊術師だろう? そう言えばエルロッド隊長の幼馴染と言っていたか?」
エルロッドは若くしてルーヴィア公爵領軍で隊長になったと聞いています。幼い頃からその剣技や魔法には目を見張るものがあったので当然なのかもしれませんが。
「あぁ、そうだ。彼女は精霊術師リシュアナだよ。僕の幼馴染なんだけど、様々な精霊に会うためといって3年前にルーヴィアを旅立った」
なぜかエルロッドが私のことを説明しています。早く帰りたいのですが。
「片思いしていた相手がいなくなって寂しかったんだね。それを偶然見つけていても立ってもいられなくなって誘拐してきたと」
「なっ!?」
双子の片方の子がエルロッドに哀れんだ目を向けています。
「えっ……私はかどわかされたの?」
「ちがっ……」
つい、反応してしまいました。
「お嬢さん。見知った相手とはいえ、我らが隊長が失礼しました。幼馴染のよしみで出来心だと許してもらえるとありがたいのですが……」
「おいっ!」
騎士然とした人がうっすらと笑みを浮かべながら私に演技がかった口調で謝ってきます。
「お姉さん、すみません。隊長にはきつく言っておきますから」
「ふふ……」
双子のもう片方の子はエルロッドにメっという視線を送っています。
ルーヴィア公爵領のチームのみなさんは完全にエルロッドで遊んでいるようです。
さっきまで悲しくてしょうがなかったのですが、つい笑ってしまいました。
「よかった、笑ってくれましたね。で、なにがあったのですか? 一応こんなのでもエルロッド隊長は酷いことや無茶はしないと思うのですが」
騎士然とした人が私に真摯な表情で聞いて来ます。
やられました。答えないわけにはいかない。
「言いづらいのですが、王都ギルドのチームから外されまして。それで、少し落ち込みながら歩いていたら幼馴染のエルロッドに見つかって、腕を引っ張られて無理やりここに連れ込まれました」
「なっ!?」
「「隊長、サイテ~」」
一応ありのままを伝えたのですが、双子が口をそろえてエルロッドを非難しています。
「違うんだ。いや、違わないけどさ。チャンスだと思って!」
「まさか落ち込んでいる幼馴染に優しくして口説くチャンスだと……」
「ちがっ……」
騎士然とした人が蔑むような目でエルロッドを見ています。
「お前たち、話が進まないから少し黙っていなさい」
威厳のある人が3人を黙らせました。やっぱりみなさん遊んでいましたね。
「ふぅ、ありがとう、グラムエル」
威厳のある人……グラムエルさんは強力な魔法騎士だったはずです。大柄な体躯と、重厚な鎧をまとっているにもかかわらず速度上昇系の支援魔法を使いながら多彩な攻撃を放つ人で、王都ギルドのチームでも警戒している相手の1人です。
「僕たちは5人で登録したから、メンバーは1人空いているだろ? だからルーヴィア出身のリシュアナを加えたらどうかって思ってね。意見を聞きたい」
「なっ……」
今度は私が絶句してしまいました。
「賛成!」
「「賛成~」」
「賛成だ」
え~と、騎士然とした人、双子、グラムエルさんの順番で意見表明がなされました。エルロッドの質問から、わずか数秒です。
「えっ?」
「えっ?」
私が戸惑うのは当然だと思うのですが、なぜ驚く私を見てエルロッド、あなたが驚くのですか?
「リシュアナの精霊術が最も厄介で、底が見えない状態でどう対処するか昨晩までずっと頭を悩ませてきたんだから当然だろ? そもそも何を考えて王都ギルドのチームはキミを外したんだ?」
「精霊術は精霊の機嫌次第だから戦力的に不安だと言われたわ」
「「「「「……はっ?」」」」」
この人達、仲いいですね。5人そろって目が点になっています。私に言われても困ります。私だって理解不能な理由で外されたのですから。
「じゃあ、ここに名前を書いてもらえるかな? うん、そうそこだよ。よし、これで僕たちのチームは6人になったね。よし、登録してくるよ!」
状況が理解できていない私の手を使ってエルロッドが勝手にサインを書いて持っていきました。あれは参加登録用紙だったような……。
「ちなみにスルーされたけど、エルロッドは絶対キミに何か想いを持っていると思うんだけどそこについてはどう思う?」
双子の片方が可愛らしい悪い顔をしてエルロッドがいない間に聞いてきます。
「幼馴染ですから仲は良かったですが、それ以上はないですよ? 友人関係です」
ドサッ……。
私が答えると、部屋の入り口で転んでいるエルロッド。なにをしているのでしょうか?
騎士然とした人が立ちあがったエルロッドの方をポンポンと叩いています。
そして武闘大会が開幕しました。
私たちルーヴィア公爵領チームの初戦の相手は王都の騎士学院の選抜チーム"若葉騎士団"です。
王都で活動する私たちギルドメンバーは騎士学院に教えに行ったり、試験監督をしたり、討伐遠征に同行したりする関係でよく知っているメンバーなので情報提供をしようと思ったら断られました。ルーヴィア公爵領チームはなかなか公正で真面目なチームでした。
そして強いチームでした。
リーダーで魔法騎士のエルロッドを中心に、よくまとまっています。先制を旨とするチームのようで、開始と同時に双子ちゃんたち……ミラとエラが複数の魔法を撃ちまくります。
それによって行動範囲が狭まったところに騎士然とした人……シュルターさんとエルロッドが斬り込み、"若葉騎士団"は防戦一方に追い込まれました。
そこにグラムエルさんが炎を纏った大剣を振り回しながら突っ込むと、順番に叩きのめしていきました。
圧勝ですね。
私たちは今、ルーヴィア公爵と、ルーヴィア騎士団長と一緒に昼食を採っています。私は本当にここにいてもいいのでしょうか?
「紹介するよ。決勝戦の切り札、精霊術師のリシュアナです」
「えっ……あっ、すみません。リシュアナです。メンバーに加えて頂きました。よろしくお願いいたします」
突然のあんまりな紹介に驚きながらもなんとか挨拶をしました。
どういうことなの?
「そうか。頑張るといい」
ルーヴィア公爵は落ち着いていて、それでいて優し気な表情でそう言ってくださいました。
「うんうん……って、あぁ、覚えているよ。エルロッドと幼い頃から仲良くしてくれていただろう」
それに対してルーヴィア騎士団長は予想外の反応をされます。えぇ???
「そうなんだ…‥いや、そうなんですよ。彼女は優秀な精霊術師です。もっと多くの精霊と会いたいといってルーヴィア公爵領を出て行ってしまったのですが、間違いなく公爵領出身の僕の幼馴染です」
なぜそんなに自信満々で答えているのだ、幼馴染よ……。
「そうであったか。エルロッドが幼い頃から世話になっていたのなら、父として礼をせねばならぬのぅ」
そして混乱する私にルーヴィア公爵が爆弾を落としてきた。はい???
「礼だけではだめかもしれない。こんなに美しい幼馴染がいて、かつ優秀なのであれば、エルロッドが婚約候補者を片っ端から蹴るのも頷ける……」
はい???????????
「兄上には叶わないな。その通りです」
すたん……。
「あぁ、リシュアナさん!?」
「「お姉ちゃん!!!」」
私は驚きで体の力が抜けてしゃがみこんでしまいました。
シュルターさんと双子ちゃんたちが支えてくれたおかげで倒れなくてよかったです。
「どうしたのじゃ?大丈夫か?」
ルーヴィア公爵も心配してくれています。
「もしかしてエルロッド……何も言っていないのかい?」
ルーヴィア騎士団長がエルロッドを睨んでいます。
「えぇと……」
それに対して気まずそうにエルロッドは頭をかいています。むかしから気まずくなるとやる癖ですね。
「まったく……。リシュアナ嬢、失礼した。少し弟をからかってやりたくなってしまってな。突然のことで驚いただろう」
騎士団長は公爵に似た優しい表情で私を気遣ってくれました。
「このエルロッドはルーヴィア公爵の次男で、将来私が公爵領を継いだ後、騎士団長となって支えてくれるよう修業中の身だ。同時に、次男として私に何かあった場合には公爵を継ぐことになるし、たとえ公爵にならなかったとしても最低限子爵位くらいは渡せるから将来の見通しは明るいと思う」
そしてなぜかエルロッドのことを教えてくれます。
「しかしそんな未来に責任があるにもかかわらず婚約者を作らない困った男でな。どうじゃろう。もしよければ」
さらになぜか公爵がまるで縁談でも組むかのようなことを仰います。えぇ???
「さすがに全部喋られるのは恥ずかしいというか……」
「全て黙っていたお前には何も言う権利はない」
申し訳なさそうに、そして少し恥ずかしそうに絞り出した言葉を騎士団長にぴしゃっとやられたエルロッドが消沈していきました。
「公爵様、騎士団長様。申し訳ありませんが、何かを誤解されていらっしゃるようですわ。私はエルロッド……様と幼馴染ではありますが、その、よき友人ではありますが……」
ガクッ……。
もしエルロッドが公爵家の人なんだとすると当然ながら平民の私では釣り合わないですし、私は一方的な憧れを持ってはいましたが友人なのですし、誤解は申し訳ないのでそう言おうとしたのですが、なぜかエルロッドが崩れ落ちました。
「ここはどうだろう。過去の関係は過去の関係として、未来の関係をどう作っていくのかということについて、2人で少し話してみては?」
騎士団長は仕方がないなぁという表情をしています。
「いや、なんかもう思い描いていたものがすべて崩れ去ったから逆に恥ずかしさもなくなったよ」
それでいいのか友よ?
誤解は解いておかないとダメだと思います。
「リシュアナ。僕はキミが好きだ」
はい??????????????????????
「キミの言う通り、本当に幼い頃は一緒に遊んでいて楽しい友達だった。でも、次第にそれは恋になり、愛になって、気付いた時にはうまく言えないくらい大きくなって……そしてキミは出て行ってしまった。先日の大会開幕式のときにキミと会っただろ? その時に決めたんだ。この大会が終わったら告白しようって。だから、お願いする。僕と一緒にルーヴィア公爵領に戻ってきてくれないか?」
……。
「(なんでそこは優勝して告白するって言わないの?)」
「(いや、大会が始まる前に言うべきじゃないか?なんで終わったあとなの?)」
「(そこはあれじゃないかな。対戦する可能性があるんだし、変にそこに関係づけずに純粋に告白したかったんじゃないかな?)」
「「((なるほど))」」
え~と、ひそひそと話しているのかもしれませんが、全部聞こえています。
私だって、エルロッドのことは好きです。
カッコよさに気付いたのは大きくなってからですが、幼い頃から優しいし、助けてくれるし、頼みを聞いてくれるし、理想も高くて話していて楽しいし。
騎士になってしまったら、あまり会えなくなってしまうなって寂しかったのも覚えています。
そんな風に考えていてはじめて好きなんだなって。
だから、私は忘れるためにもルーヴィア公爵領を出ました。
もちろんより精霊術師として成長したいというのも確かな私の気持ちです。
おかげで光の大精霊ルクシエラ様とも契約できましたし、他にも多くの精霊と出会いました。
結婚とかは全く考えていなくて、いつかルーヴィア公爵領に帰って、私も騎士となるエルロッドと同じく公爵領に貢献出来たらいいなって。
穏やかで温かい公爵領は大好きですから。
「エルロッドさま。嬉しいです。私でよければ……」
想いが昂って言葉が出てきません。
もっと穏やかに話せると思ったのですが、顔が熱いです。
「リシュアナ!」
そしてエルロッドに抱きしめられて、私はゆでだこの様に真っ赤になってしまいました。
「決勝戦は王都ギルドにリシュアナ殿の力を見せつけてやろうと思っていたが、これはメンバーを変えない方がいいだろうか?」
グラムエルさんが真面目に言っていますが、ちょっと待ってほしいです。
「いえ、やります。いや、やります。お願いですから出してもらえないでしょうか? このままではただの居候です」
「はっ、はい!!!!」
私はきっと私のかわりに補欠になるであろうシュルターさんに申し出ました。
彼はひきつった顔をしながらも了解してくれました。
あとで何かお礼をしなければなりませんね。
「よし、では、決勝のメンバーはグラムエルとミラとエラ、それから僕と、リシュアナだ!」
エルロッドが宣言してくれました。
エルロッド様と呼ぶべきでしょうか?
「頑張ってくるがいい。期待しておるぞ。それからリシュアナは今日からルーヴィア公爵家の分家であるオレアノ子爵家の娘とするので、気兼ねなく戦ってくるがいい」
えっ???
いざ決戦の時。
私はルーヴィア公爵領のチームの一員として入場しますが、それを見た一部の観客や王都ギルドのチーム"鋼の意思"のメンバーが目をぱちくりしています。
「まさか本当に出てくるとはな」
そして"敵"のチームのリーダーであるゴレアスが険しい視線を私に向けてきます。
「登録メンバーを見たとき目を疑いましたが、どうしてあなたがそちらに?」
そして怪しい笑みを浮かべてオルネがたずねてきます。
「そちらのチームを外された後、勧誘されたのですよ。私はルーヴィア公爵領出身なので問題ないと」
「なんだと? 卑怯な!」
私が答えると、ゴレアスが怒鳴り声をあげてきました。なにが卑怯なのでしょうか?
「卑怯とは失礼だな。引き抜いたわけではなく、そちらがメンバーから外したので勧誘しただけだが?」
エルロッドがとてもまじめな顔をしています……カッコいい。そう思ってしまうのは告白されたからでしょうか?
「くっ……俺たちの情報でも売って取り入りやがったんだろう? それを卑怯と言わずになんというんだ!?」
しかしゴレアスは退かないようです。ただの癇癪を起した子供のようですね。
「バカじゃないのか? だったら補欠にすればいいだけだ。我々は彼女を非常に強力な戦力だと思っているからこそ、こうして決勝の場に出場させたのだ」
ありがとう、エルロッド。こういうとき、自信満々に援護してもらえるのは嬉しいです。見ていてね。きっと期待に応えるから。
「それでは、試合を開始する。双方、構えよ……、はじめ!!!」
そして大会長でもある国王陛下が高らかに開始を宣言されます。
「「ダブル・フレア!!」」
その宣言とほぼ同時に双子ちゃんたちが強力な魔法を撃ち込みます。
見たところ"鋼の意思"メンバーは全員防御態勢です。
「すみません、エルロッド」
「ん?」
「思ったより、私は怒りを抱えているみたい。はしたないかもしれないけど……」
「あはははは。いいよいいよ。やっちゃおう。こんなところで我慢してはいけないよ」
幼い頃から知ってる間柄なので、今さら隠すようなことはありませんね。
「ルクシエラ様!」
私が手を天に掲げて呼ぶと、空が光始めました。
「くっ、攻撃しろ! やつの精霊は気まぐれだ。それに防御結界が貼ってあるここでは気分も阻害されるはずだ!」
私の精霊召喚を見てゴレアスが仲間に指示を出しています。なるほど。観客が怪我をしないよう防御結界が貼られていますが、精霊が防御結界が嫌いということはないのですが……。いえ、確かにルクシエラ様の表情はすぐれませんね。
『ふむ……小賢しいのぅ』
パリィィイイイイン!!!
「なっ……」
防御結界……ではないですね。もう一つ貼られたものをルクシエラ様が割ると、オルネが驚いています。まさか……。
『精霊結界じゃのう。どこで覚えたか知らぬが、おおかたリシュアナの出場を懸念して張ったのじゃろう』
そういうことですか。
ルクシエラ様の威容に、"鋼の意思"のメンバーが硬直していますね。
ゴレアスなどはへたり込んでいます……。
『我の前では無駄じゃがな。喰らうがいい……”無慈悲なる聖者の処断"』
世界から音が消えた……。
目の前は光の海……。
その様子に見入ってしまう私たちと観客たち……。
『(心配はせずともよい。完全なるオーバーキルだが、敵は回復させて気絶だけさせておこう)』
いや、そんな心配はしていなかったのですが。そもそもなぜここまで強力な魔法を???
光が晴れると"鋼の意思"のメンバーは全員気絶していました。
すみません、ルクシエラ様。そしてエルロッド。一度だけはしたない真似をお許しください。
ゴレアス、ざまぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
"鋼の意思"、ざまぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふぅ、すっきりしました。
二度だったことを謝罪いたします。
「そこまでじゃ!勝者はルーヴィア公爵領チーム!」
えぇ、圧勝でしたね。
そして表彰式。
「優勝はルーヴィア公爵領チームだ」
拍手に包まれ、エルロッドが優勝旗と賞品を受け取っています。
「しかし、見事な精霊術であった。王都ギルドを通して噂は聞いておったが、驚いたぞ。それほどまでに精霊に愛される才能は稀有じゃ。どうじゃろう、平民ということじゃが、どこかの家に養子に入った後、我が息子の誰かと結婚するというのは?」
そして国王陛下がとんでもないことを言いだした。えぇ??????
「大変失礼ながら、このリシュアナは私の婚約者です。すでにオレアノ子爵家に養子に入っておりますので、申し訳ございません」
驚く私をよそに、あれほどまでに初々しかったエルロッドが凛々しい表情で国王陛下に応えていました。
「まぁ、そうだのぅ。力を理解していれば当然か。あいわかった。ルーヴィア公爵家は我が王国の忠臣であるゆえ、その家族になるということであれば邪魔をする気はない」
そしてあっさり国王陛下が折れてくれました。
エルロッド、ありがとう。
私は今、王都にあるルーヴィア公爵家の庭園にいます。
エルロッドと2人です。
ルクシエラ様は"大精霊の指輪"を渡すととても喜ばれていました。
なんでも、昔仲の良かった精霊術師が一度この指輪をルクシエラ様に贈ったそうなのです。
しかしその精霊術師が老いて亡くなるときにルクシエラ様は指輪を返してしまったそうです。
自分のために使えと言って返したとき、その精霊術師がとても悲しい表情をされたのを覚えていて、後悔していたようです。
無事、ルクシエラ様の手元に戻って良かったです。
今後なにがあっても手を貸してやろうと言ってくださいました。
脱線しましたね。
だって恥ずかしかったのです。
エルロッドが私を抱きかかえて庭園に座っているのですが、どう考えても恥ずかしいのです。
でも、恥ずかしがってばかりではダメですね。
まさかのエルロッドサイド……
まさかこんな日が来るとは夢のようだ。
あの日……ルーヴィア公爵領からリシュアナが旅立った日……僕の視界はどんよりとしたものに変わってしまった。
それほどまでに心惹かれていたにもかかわらず、何も言えずに見送った自分をなんど罵ったことか。
彼女と一緒に野を駆けまわった記憶。
彼女と一緒に雄大な景色を眺めた記憶。
彼女と一緒に学んだ記憶。
彼女と……あの頃は気にしていな過ぎて今考えると恥ずかしいけど、剣を手に戦った記憶。
彼女が初めて精霊術師として精霊を契約した時の嬉しそうな表情……その記憶。
思い出すのは優しく、美しく、それでいて活気に満ち溢れたあの顔。
明るいブロンドで穏やかなウェーブがかかった長い髪。
まるで木で作った楽器の音色ような明るく優しい声。
あんなに可愛いのに、少し男っぽい性格とノリの良さ。
しなやかな肢体……。
考えれば考えるほど、なぜ密着するほど近かった彼女をこの腕にとどめておかなかったのかという後悔……。
一筋の希望を秘めて王都で行われる武闘大会に申し込んで勧誘したけど断られたときは悲しかった。でも諦めずに戦ったら、まさかこんなに上手くいくなんて。
なんて幸せなんだろう。
そして彼女を手放した王都ギルドのチームはなんてアホなんだろう。
僕はぜったいにキミを大事にするよ。
大事にしすぎたら蹴られそうだけど。
必ず……。
そう思いながら、彼女の方と背中に手を回して抱きしめ、リシュアナにキスをした。
彼女も受け入れて僕の首に手を回し、情熱的に答えてくれた。
もう死んでもいいな……。
いや、ダメか。
読んでいただいてありがとうございます!
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