9 吐露した【個性】
また黙ってしまった俺の顔をじっと見つめる。その視線に疑問を感じ顔を上げると同時に言葉が発された。
「ねぇ、ハクはどうしてそんな悲しい顔をしてるの?」
虚を突かれた気がした。
「…悲しい顔とは、どんな顔だ?」
「う~ん。誰かの帰りを待っているような、捨てられたような…。そうだなぁ…。この世界でたった一人ぼっちになったみたいな顔」
「ハッ、なんだそれ」
笑えてしまう。とっくの昔に壊れた俺がそんな顔をして見えるという少女に…。
「No.517~! どこにいる~?!」
「あ、No.567だ! あちゃぁ…、絶対怒ってるよぉ」
そろそろ俺も呼び出されるだろうと長椅子を立つ。元来た道へ歩くと後ろから声が響く。
「ハク! またいつかここで会えるかな?!」
不確定の返事をするつもりはなく、一度歩みを止めて振り返っただけですぐに歩みを進めた。だが何をそれで確信したのか、満面の笑みで「待ってるから!」と叫び、少女もまた後ろ姿を向け走り去っていった。
久しぶりの会話という会話をしたのか、いや、〈ハク〉としては初めての会話だったのか、部屋に戻っても少女の姿形を忘れることなく、短い眠りに落ちた。
ハクは次の日も、その次の日も、訓練と命令がない日は必ずと言っていいほどあの長椅子に座った。
少女が来ることを望んでか、はたまたただの気まぐれか。元からの反復作業ではあったが、今では別の期待の意味が隠れながらに含まれている。
運が良いとたまに会う時があった。それも一か月に一度ほどだが、まだ未熟な幼い二人にとっては交流を深めるのには十分な時間だったと思う。
少女、No.517は会えば必ず弟の話をした。
「今日はこんなことがあったから可愛かった」
「この間はこんなことで盛り上がった」
なんて何気ない日常を聞くだけ聞いて夕日が落ちる前には別れた。以前のハクであれば煩わしいと思いすぐに殺していただろうはずが、回数を重ねるごとに心地良いと思っていた。
「ハクはどんな個性なの?」
質問されることは多々あったが、思わず目を見張るぐらいには衝撃的な問いだった。どうやら弟の個性の話から俺のことへと繋がったらしい。
今までは別に意図せずとも俺の個性については触れられなかったから余計に驚いた。もし言ってしまえば、No.517はもう此処に来ることは無くなるだろうか…。
それは嫌だとハク自身が拒絶する。この時間を失くすことだけは、嫌だと下手な言い訳を並べて内心子供の様に駄々を捏ねた。
けれども、今言って拒絶された方がまだ良いのかもしれない。そう思う俺もいる。駄々を捏ねる俺よりもずっと大人びた、もう既に全てを失くした俺が…。
これ以上この関係が続いていしまう前に。
もっと深く彼女に魅入ってしまう前に。
でなければ…、もっと、もっと…。
「【崩壊】」
気づけば声は勝手に出ていた。無意識のことで気づくと同時にバッと口を押える。
No.517は、…少し固まった。