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7 No.517

 いつものように野草が生え切った敷地内を適当に歩く。何十分か歩くと錆び切った長椅子が見える。違和感なくそのまま座るとまた同じ景色。


 首を上に見上げれば雲は無数に浮いて太陽の光で目を薄める。空に果ては無い。


 ピュー…、ピュピュピュー…。


 俺の視界の中、一羽の鳥が迂回する。今日ものどかで、破壊欲求だけが俺の身体を満たす。この日和みきった世界を消してしまえれば…、俺は満足できるのだろうか。


 そのまま数時間居座り、また部屋に戻る。それが毎日の反復だったのに、その日はいつもと違った。


 「わわわっ…!」

 

 見知らぬ声と共にズドンっと人間が転ぶ音がした。別段興味がなかったのでそのまま何をするでもなく空を見つめた。


 「うぅう…、いたた。…どうしよう。このまま帰ったらまたNo.067に怒られちゃうよ…~っ」

 

 記憶を無くしたにも拘らず懐かしい名前の呼び方に少しだけ目線を移す。少女も此方に気づいたのか急に頬を赤らめる。


 「ご、ごめんなさいっ。変なとこ、見せちゃったよね…」


 返事は面倒だからしなかった。俺が何の反応もしないのが逆に不思議に思ったのか少し経つと好奇心の視線を向けた少女。


 「ねぇ、貴方シェルターにいない人よね?」


 またなにか懐かしさを感じる名前だが、知りたくもない記憶の扉に手を掛ける気はない。


 「私、No.517。貴方は?」


 返事は無い。これ以上喋るなら殺しても良いかと考えるだけだ。


 「名前がないの? それなら私がつけても良い?!」


 前のめりな少女に嫌気が差す。


 「そうだなぁ。No.879、う~ん…。No.683? これも違うなぁ」


 番号で呼ばれることに尋常でない嫌悪が溢れ出す。それは未だしがみついている過去の自分だ。変な名前を付けられる前に言った方がマシだと「ハク」、とだけ小さく呟く。


 「ハク…? それってどういう意味なの?!」


 さらに近寄る少女に本気で殺意が芽生え始める。だが番号を持つ人間は勝手に殺すなとドクターから言いつけられている。

 

 「近寄るな。殺すぞ」


 殺気を込めてはなった言葉に少女は少し呆けた後…、笑った。


 「殺してくれるの? 私を…」


 つい先ほどまでの屈託ない、表の世界しか知らない無邪気な笑みが消え、哀愁漂う切実な声に、一瞬誰かと重なった気がした。


 「誰か」は深く荒い映像のようで分からないが、あの諦めた表情がどことなく『彼女』を連想させた。…いや、待て。


 『彼女』とは誰だ?


 疑問に思い過去を遡ると何かに遮られ代わりに激しい頭痛が襲う。


 「グッ、ぁああああアッツ…!」


 「だ、大丈夫?!」


 少女が此方に手を伸ばす手を見て、「触れるなッ!」と、思わず拒絶してしまう。


 「ご、ごめんなさいっ…」


 はぁ、はぁ…。息が段々と落ち着いてようやく冷静に戻る。この少女が「誰か」を重ねたせいでもう壊す気は無くなってしまった。  


 「…はぁ。お前、死にたいのか?」


 殺すと脅した相手に対し心配する神経が知れない。俺の問いにパチクリと一度瞬きをすると小さく微笑んだ。その姿は外見的な年齢からはかけ離れている。少女の微笑みに、胸がチクりと痛む。


 まだ俺に残された残骸が、呼応したようだった。


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