5 自我の【崩壊】
断片的にある記憶の中に、僕の姿をした獣が皆を襲っている。最初は一番近くにいたNo.023の首を掴み、涙を零すNo.023を殺した。
次に俺の変化に動揺してしまったNo.053が僕を呼ぶと同時に崩れ去り、攻防を交わしたものの一瞬の隙をついてNo.080を殺した。
皆を守る個性が欲しいと願ったNo.071は涙で顔をぐちゃぐちゃにし、僕にダメージを与えたもののNo.064を庇うと同時に崩れた。
普段は大人しく自己主張の少ないNo.064が個性の真価を発動し、丸一日ほどの攻防で衰弱させ、殺した。
モニターはとっくの前に壊れ、部屋は見る影も残さず建物と同時に崩れ瓦礫の上に僕とNo.がいた。
丸一日のNo.064との交戦で薬の効能が弱まり、理性と暴走状態の狭間の感覚で、僕達は対峙した。
膝から崩れ、座り込むNo.002に一歩、一歩と近づく。俯きながら涙を流すNo.002にもはや抵抗の意志など感じなかった。
「ねぇ、No.099。やっぱりこの世界はどうしようもなく理不尽で、優しさなんて欠片もないね…」
自虐気味に無理をして笑うNo.002を横目にザッと距離を詰める。
「私達、どうしたら良かったんだろう。どうすれば、あの頃に戻れるのかな…」
もう『僕』は死にたいのに、身体は勝手にNo.002へと近づいていく。
「いつかどうせ死ぬなら、皆の腕の中で死にたいとは願ったんだけど。…幾ら何でも早すぎだよ」
僕とNo.002の距離は0となり、涙で頬を濡らし顔を見上げる。
「No.099。いつか言った約束、守ってね。そして…」
そっと壊れモノに触れるかのようにNo.002の手が頬へと触れる。
「どうか、私達のことを忘れて生きて…。愛してる。私の可愛い弟」
触れた手から腕へと、身体まで崩壊が広がる。それと同時に身体が呪縛から解き放たれる。腕の中には夥しい量の血液とNo.002だったモノ。
それを狂ったように握りしめればさらに崩壊は進み灰へと化した。風の流れに乗り、己の手を離れ上昇する灰を見て【僕】は弾けた。
「ハ、ハハハッ、ハハ…、ハハハッツツツ!!! 『壊す』って、『楽しい』ことだッツ?!!」
壊れたオモチャみたいに嗤って笑ってわらってワラって…、〈俺〉は【僕】を殺した。