3 絶望の個性
個性検査当日。機械的な音でいつもと同じ時刻に起床する。皆緊張を隠しきれていないのか、そわそわと身に入らない動きを繰り返している。
No.順にドクターの待つ部屋へ入り、個性の診断が下される。一番最初に検査結果が知らされたのはNo.002だ。
何の個性かは教えてもらえなかったが、泣き笑い安堵している様子に臨んだ個性であったことに一同喜んだ。
次に入ったNo.023は「重力操作」の個性だった。早速コントロールもままならない個性で遊ぶNo.023に、最初の緊張は随分とほぐれている。
この調子でNo.053は「空間変動」を、No.064は「大地創造」を、No.071は「物質改変」を、No.080は「言語理解」の個性を手に入れていた。
皆己の夢を実現するために相応しい個性だった。だから僕も、きっと良い個性だと…、馬鹿な想像を信じて疑わなかったのが最大の過ちだろう。
六人に背中を押され、目の前に光で照らされた道があると信じて疑わなかった。ドクターの前の椅子に座り、浮かれきった気持ちで聞かされた個性に、その後のドクターの説明は耳に入らなかった。
ガラッ…。
扉を開けるとまるで悪魔の住処から逃げ出したような気分だ。先ほどまでの高揚感など、当に消え失せ残ったのは希望や期待だったモノの残骸。
案の定期待して僕の報告を待っていた皆に、僕は初めて「嘘」を吐いた。今まで自分の為に嘘を吐いたことが無かった。誰かのミスを庇ったり、命の危機を逃れたりするようなときにしか。
だから、胸の辺りがジクジクして、痛くて痛くてしょうがなかった。涙がこぼれ落ちないように必死で口角を上げて、「筋力増強」の個性だと言った。
皆僕が非力であることを気にしてたから、口々に「良かった」と言ってくれた…。
…っごめん、ごめんなさいっ…。ごめんなさいッツ……。
心の中で必死に謝って、謝って、謝り続けた。こんなにも喜んでくれ皆に、『怒り』の感情を覚えてしまった自分が醜くて、無様で、死にたくなった…。
シェルターに戻った僕達は個性を用いた訓練へと移り変わり、僕は隔離されながらの訓練となった。皆には個性をコントロールできないから別で訓練をしているとだけ言ってある。
だけれども、その日から夜が怖くなった。自分だけが違う、人を気づ付けることしかできない個性に毎晩涙を流した。もし、本当の個性を知られたらと、ありもしない想像で皆を貶めた。
そのことでさらに自分が醜い穢れたもののように映った。まさに負の連鎖だ。ただ不幸が散り積もるだけの何の生産性もない感情が生み出す塵。
今日も碌に寝付けないまま訓練が始まる。いつも通り用意される『訓練用備品』。僕は『それ』の身体に触れ、ゆっくり、じっくり、長時間かけて【崩壊】を浸食させていく。
自分の身体が何時間もかけて崩される感覚は想像に難くないほどの苦痛だろう。
実際顔を布で覆われていようとその絶叫や暴れ方でどれほどのものかある程度予想は付く。いっそ、一瞬で崩壊させてあげた方が彼らにとっても幸せだろう。
初めはあれほど泣き叫んで抵抗していたのに、今ではもうそんな思考回路に辿り着いてしまった。それは一種の自己防衛か、単に壊れただけか。僕にも分からない。
ただ一つ言えるのは、僕の個性は人を「癒す」ことも、「守る」ことも、「笑わす」ことも到底できない最底辺の、【崩壊】だということだ。