2 個性検査前日の食卓
個性検査前日。訓練を終え夕食の時間。食事の時間だけが俺達に許された自由だった。
俺は言わずもがなあの中でも最も非力で間抜けだったのだから、誰もが一番に死ぬと考えたのだろう。少しでも生き残れるようにと、皆は俺の個性が強いものであることを望んだ。
自分達だって、個性が戦闘系じゃなければ使い捨てにされる可能性が高かったのにも関わらず…。今になって言えば、馬鹿馬鹿しく、酷く羨ましい。
カチャ…、カチャ…。
食器同士が当たって耳障りな音が無言の食卓ではよく響く。
「ねぇ、No.099。明日の検査、どんな個性が欲しい?」
No.002が緊張と不安で満たされた空気を和ませるように朗らかに笑って俺に、…No.099に問いかけた。
「…分からない。個性は選ぶことはできないから」
頭を下に向けて、夢も希望もない返答をしたのは僕だ。
「全く、No.099は夢のないこと言うなぁ」
No.071がむすぅと頬を膨らませあからさまに不満を告げる。
「そういうNo.071は?」
「私? 私はもう決まっているさ。皆を守れる個性だ!」
「ははっ。No.071らしいなぁ」
No.053がおちゃらけたように言う。
「わ、私はお花を咲かせる個性が欲しい…」
滅多に自分のことを言わないNo.064が珍しく口を開いた。
それに続いてそれぞれに夢を語る。
「俺はテレポート! この目で世界がどんなに広いのか見てみたい!」
「私も! 空を飛べる個性が欲しい!」
「僕は動物と話せる個性…かな」
その時だけは、戦闘人間なんかじゃない普通の子供として、皆それぞれに己の夢を叶える個性を言い合った。
「No.002は、どんな個性が欲しいの?」
ひとしきり言った所でNo.053がNo.002に問いかける。
「私は……」
哀愁が漂う顔で少し考えた素振りをするNo.002。誰もが興味津々でNo.002の返事を待っている。
「そうだなぁ…。私は、皆が安心して帰って来れる居場所を作る個性、かな」
返ってきたものはあまりにNo.002らしいものだった。その場にいる全員がやっぱりと思ったのだから。訓練時は誰よりも冷酷で正確な判断を下すが、本当の意味で闘いが好きな人間など誰一人としていない。
No.002だって、よく研究者達に連れていかれ帰ってくる度に裏で声を殺して泣きじゃくっていたのは誰もが知っている。強さはもちろん、人間としての優しさ、弱さを兼ね備えていたNo.002には皆からの尊敬と信頼が一身に集まっている。
「明日で、決まっちゃうんだね…」
No.064が呟く。その一言でつい先程まで活気付いていた食卓はシンッ…となる。
いくらこの地獄の七年を生き残ったとしても個性が戦闘系、もしくは治癒系統のものでない限り、使い捨てにされて死ぬかあるいは実験材料として処分される道しかないことを、皆理解していた。
あのNo.053やNo.071ですらも表情は固い。それだけ、個性は生死に直結するのだ。沈んだ空気の中僕はそっと横にいたNo.002とNo.064の手を握る。
二人して顔を見られたがいいからと皆輪になるよう手を繋ぐように言う。不思議な顔でとりあえず言うがままに輪になった面々に、僕は真っ直ぐと見つめる。
「僕達の誰かが、明日の結果次第で死んでしまうとして…。自分を責めないで。個性を恨まないで。死者に囚われないで。夢を諦めないで。自分の人生生きたいように生きて。そして願うことなら、僕達のことを、…忘れないで。それが、僕からの唯一のお願い」
本当に、傑作だろう。あんな適当に吐いた言葉で全員が泣いた。死んだように生き、夢を諦め、死者に囚われ、個性を呪い、自分を責め続けている。
こんな俺が吐いた言葉に、あの場は安心したのだ。心の底から…。俺自身が道化のようだ。己の醜悪に気づかず、自身にも嘲笑われている道化。
なのに、最後に願った「皆を忘れない」という言葉だけは望んだ方向とは裏腹にこびりついて離れないものだからまたお笑い草だ。
No.002の最後の<願い>も守れずに…。