1 胃がもたれるほどの甘い過去
俺の生きる道は【ヴィラン】だ。
産んだ母親は知らない。ドクターが言うには父親も誰か分からない俺を産んで病院に捨てたらしい。そうして捨てられた俺はドクターの管理下で、表向きは保護と言う名目でヴィラン連合が統括する実験所で育てられた。
おおよそに個性が発動する七歳まで、シェルターに俺と同じような境遇の子供と生活し、過酷な訓練を生き残った。
その過程で掃き捨てられた子供の数は生き残った数を軽く上回り、それは俺達に仲間意識を持たないようにするには十分で‥。
軽く話し、面倒を見てくれた存在が翌日物言わぬ死体となって悲しみ明け暮れることのないように、自分の精神を守るために、よっぽどの馬鹿以外他の子供と干渉する奴はいなかった。
年が経つに連れ、目は酷く濁り表情は死に絶えとなる。その一方で死ぬ数も比例する。結果個性が発症する七歳まで生き残った人数は七人。同期生147人いた中で、たったの‥。それでも蠱毒のようなことを繰り返した結果と言えば必然だろう。
当然生き残った七人の結束は固かった。あの地獄で生き残ったからこその信頼がそこにはあった。お互いの距離が深まるのに一週間もかからなかった。人間不安を感じれば他者からの温もりを求める。それは自然の摂理であり、本能に直結しているからだ。
長女としての役割を背負っていたのがNo.002。あの時点では七人の中で最も強かったといっても過言ではない、生まれながらに才を持っていた人。
自分に厳しく、家族に優しい人。特にあの中で最弱だった俺にとっては欠かせない存在だった。お調子者のNo.053が俺をからかう度に叱ってくれた。
そんなNo.002に憧れと尊敬を向けていたのがNo071。ハツラツであの地獄の中でも眩しいくらいに善であった人。将来家族を守れる個性が欲しいと願ったヒーローになるべくして生まれた人。
No.071の影にいつも隠れて、あまり自己主張をしないのがNo.064。喋り方ももどもどとして俺と似たような子だった。それでもいざと言う時に逃げない強さは俺にはなかった。違いはそれだけだろう。No.053は自由気ままな奴だった。
今にもあの実験所から飛び出していきそうで、本当は俺の憧れだった。いつもからかわれはしたけど、確かなときに助けてくれる頼りになる人。きっとそんな立派な人に、俺はなりたかった。
No.080は俺に知識を与えてくれた。No.080は戦闘能力に限らず頭脳で生き残った経験を持っていたからこそ、何より知識の重要性を説いた。人としての理も、倫理も、いつか俺達が人間でなくなってしまった時のために、教えてくれた。
No.23は退屈を嫌う子だった。いつも空想の世界を話しては、皆で夢を語った。俺はいつも振り回されてたけど、こんな監獄で自由に輝くNo.23の瞳に魅入られていたことは否めない。
俺は皆が、大好きだった。今になって思えば、ふざけた茶番に見えるのかもしれない。まだ現実を少しも理解できていない子供の、胃がもたれるほどの甘い理想‥。