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断罪・ざまぁシリーズ

王族と貴族と平民と

作者:

私の勝手な思い込みの貴族社会と、最近ハマッている悪役令嬢とざまぁものを混ぜてみた結果、こうなりました。何番煎じか分からないくらい有りふれた内容です。

誤字脱字、辻褄が合わない部分があるかもしれませんが、ご容赦ください。


6/29 加筆修正しました

「きゃっ」

「ッッ!」


貴族の子息令嬢や、優秀さを見出された平民の子供が通う王立学園の廊下。一人の平民の少女が、王族に次いで権力を持つ公爵家の令嬢にぶつかり、そして勢いよく床に転げる。ぶつかられた公爵令嬢は、側にいた友人たちに支えられたこともあるが、そこまで衝撃を受けた様子がないにも関わらず、派手に転んでみせたことに対して、見ていたものは一種の不快さを顕わにする。


「アリスさん、廊下は走らないようにと注意をしたはずですが?何度繰り返せば学習してくださるの?」


公爵令嬢を囲む一人である伯爵家の令嬢が、冷たい声と視線で少女に問う。


「危うくエリザベート様がお怪我をされるところでしたわ。学園内の事故ですので騒動に至ることはございませんが、これが外での出来事ですと、あなただけでなく、ご家族にも咎が及びますことよ?」


伯爵令嬢が言う通り、学園内では平民に限り、生徒間での身分差による処罰は設けていない。罰則は学園内の規則に基づき、慎重な協議がなされた上で適正な処罰がされる。しかし、外の世界ではそうはいかない。公爵令嬢と平民ほどの身分差があれば、罪状によっては一家処刑なども普通にありうることで、平民といえど優秀な人材を貴族社会のルールを知らないがために失うことないよう、こうやって学園内で学ぶのだ。


「そんなのおかしいです!平民だからって、どうしてそんな酷い差別を受けなければならないのですか!?」


しかし、このアリスと言われた少女、再三にわたる忠告に耳を傾けることなく、その度に身分差へと話をすり替え反論するのだ。常識を持った人間であれば、学内のルールを破り廊下を走り、相手にぶつかったことへの謝罪を述べるのだろうが、毎回にわたって、しかも狙いすましたかのように公爵令嬢であるエリザベートの近くで問題を起こすアリスに対して、エリザベートも彼女を囲む友人たちも辟易していた。そして、彼女たちの悩みの種はもう一つ。


「どうしたんだアリス!!」


これまたタイミングよく現れる高位貴族の令息たち。その中にいる侯爵令息は、エリザベートの婚約者であるジークフリート・レーベン。率先してアリスに駆け寄り、彼女を支えて立ち上がるのを助ける。

義姉上(あねうえ)、またですか…」

呆れたようにため息をつくのは、エリザベートの腹違いの弟であるアレキサンド・スピネル。彼らの他にも、国の主要な役割を担う大臣を父に持つ子息等がアリスの取り巻きとして学園内では有名だ。いずれにも既に幼い頃からの婚約者がいるが、何故かどうして全員がアリスに心を奪われてしまっている。高位貴族の子息が傾倒する少女なのだから、さぞ美少女なのだろうと思われがちだが、実際のところの彼女の容姿は10人並みといったところ。街ですれ違っても目立つこともなくスルーされるであろう平凡な顔に髪の色、体つきも同年代の少女と同程度。つまり、普通なのだ。だが、平民の特権ともいえる学園のルールを盾に積極的に金と権力のある子息に声をかけ、貴族としての責務や重圧に喘ぐ彼らにやさしい言葉で慰める。要するに、落ち込んでいるところを優しくされるとコロッと落ちてしまうやつだ。

しかし、全員が全員アリスに惚れるというわけではなく、己の立場をしっかり理解して、婚約者のことを尊重している子息には逆に評判が悪い。


さて、アリスにコロッと籠絡されたジークフリート御一行様が、まるで悪者を見るかのようにエリザベートとその友人たちを睨む。エリザベートはチラリと義弟に視線をやれば、アレキサンドは小さく首を横に振るだけ。

「エリー!貴様、性懲りもなくまたアリスを虐げていたのか!!」

「嫉妬に狂った女は醜いですね」

「そんな心根だから、ジークに愛想を尽かされるんですよ」

ジークフリートの言葉を皮切りに、次々と子息たちから図れる罵詈雑言。この一連の騒動は、ことある毎に人目のある場所で行われるため、他の生徒たちは「またか始まったのか」と、遠巻きに眺めるだけ。うっかり口を出して巻き込まれでもすれば、とんでもないことになる。

「いいの、ジーク。エリザベート様は貴方からの寵愛をもらえなくて、寂しいだけなの」

立ち上がったアリスは、ジークフリートの腕に自分のそれを絡ませ、涙で潤んだ瞳で見上げる。「はしたない…」と、エリザベートの友人だけでなく、野次馬からも侮蔑の言葉が漏れるのは当然のことだ。婚約者ではない男女が身を寄せて愛を囁きあう。男女のどちらから見ても、それは不義理であり好ましい光景ではない。

「あぁ!なんて君は優しいんだ」

だというのに、感極まったかのようにアリスを抱きしめるジークフリートに続くように、彼女を慰めようと他の子息たちも我先にと言葉をかける。貴族間の婚約がどういった意味を持つのか、その考えに至れない彼らは、学園内外で関わりたくない人物と密かに噂され、その実、アリスの取り巻き以外の友人知人がいない。


平民と高位貴族の恋愛物語で盛り上がり、段々と収拾がつかなくなってきて、そろそろ何とかしなければと、この場で一番爵位の高いエリザベートが口を開きかけたその時。


「廊下で何を騒いでいらっしゃるのかしら?」


どこか威圧を感じる声が響く。そして、廊下に面した教室の中から、一人の令嬢が現れた。

お義姉様(おねえさま)、一体何が起こってるのですか?それと、ジーク様。貴方は一体何をなされているのですか?」

彼女はエリザベートの腹違いの妹であり、アレキサンドと同じ母親から産まれたシャルロッテ・スピネル。この国の第一王子にして王太子の婚約者でもある。前妻はエリザベートを産んですぐに儚くなり、急遽迎えられた後妻の子がアレキサンドとシャルロッテだ。腹違いではあるが、姉妹間の仲は良好だ。

「あら?今日は登園していたのね」

「えぇ。偶には息抜きでもしていらっしゃいと、王妃様からのお心遣いです」

普段は王妃教育の傍ら、すでに学園を卒業して政務に携わっている王太子の補佐をしており、学園には籍だけを置いてほとんどを王城で過ごしているシャルロッテだが、友人の輪を広げ、同じ年ごろの友人からしか得られない流行や話題を知ること、また、交流をすることで気分転換の目的で登園することがある。王妃教育を受けているだけあり、その優秀さは公爵家の長子として研鑽を積む姉よりも更に上だ。

「それよりも。ジーク様、貴方の婚約者は私のお義姉様だったはずですが、そこのご令嬢とはどのようなご関係で?」

エリザベートに向けた柔らかな笑みとは打って変わり、ゴミを見るような目をジークフリートに向ける。

「アリスは私の愛する人だ。エリーのような会えば小言しかない女よりも、よっぽど私に相応しい!それに、エリーは俺に見向きもされないからと、アリスに嫌がらせまでしている」

「ジーク、まだアリスがお前を選んだとは限らないぞ。だが、アリスは貴族社会で疲弊した俺たちの心を癒してくれたことには変わりない。エリザベート嬢のような高慢な女は見ていて嫌気がさす」

「こんな女だから、王太子殿下の婚約者がお前ではなく、妹が選ばれるんだ」

シャルロッテにとって、エリザベートはずっと憧れの存在だ。小さい頃は手を引いて一緒に遊んでくれたし、たくさんの本も読んでくれた。成長するにつれて難しくなる勉強が分からに時には、彼女が理解するまで根気よく教えてくれた。貴族としてのマナーや教養、社交界での身の振り方もエリザベートを手本にしていた。辛く厳しい王妃教育に心が折れた時には一緒に泣いてくれたし、その後には何が出来ないのか、どうして出来ないのかを考えてアドバイスしてくれた。

そんなシャルロッテの前で口々にエリザベートの暴言を吐く子息たちに、彼女の機嫌は更に降下する。

「おだまりなさい。あなた方は、公爵家の長子である我が姉を侮辱できるような身分でして?学園で設けられている身分差の免除は平民に限りです。この件については、兄のアレクからも父に報告があがってきておりますので、家同士でゆっくりと話し合いをさせていただきます。お覚悟なさいませ。そして、私が婚約者に選ばれたのは、公爵家を継ぐのがお義姉様だったからです」

周囲から誤解を受けているが、アレキサンドは決してアリスを慕っての取り巻きではない。エリザベートの婚約者としてジークフリートが相応しいのか、また最近良くない方に話題が上がっているアリスの監視をするために同行しているだけで、その報告は逐一、父親へ上げている。最初は穏便に済ませられるようにと手を回していたのだが、徐々に彼一人の力では誤魔化しきれなくなり、最近では妹とその婚約者である王太子に助言を求めていた。

「それに、ジーク様。義姉様が貴方様に嫉妬?笑わせないでくださいまし。貴方のような不誠実な男に想いを馳せる時間等、次期公爵としての勉学に忙しい義姉様にはございませんわ。そうそう、婚約者であるお義姉様に対しての不義理、公爵家から貴方の家へ抗議を申し入れます」

さて、シャルロッテの言葉に、ヒッ!と声を上げたジークフリートを含むアリスの取り巻き達は、漸く現実が見え始めたようで、その顔色は真っ青だ。当然だ。自分たちよりも高位の貴族である令嬢に暴言を吐いた。ただそれだけのことであるが、貴族社会において序列を無視し、自分よりも身分の高い相手を侮辱する行為は、一族を巻き込んでの問題となる。ジークフリートに至っては、婿養子としての婚約だったのにも関わらず、婿入り先のしかも家格が上の家に対して無礼極まりない行動をしてしまっている。

「そんなのおかしいです!身分をかさに着て虐げるなんて、そんなの間違っています!!」

ここぞとばかりに、身分差別を糾弾するアリス。だが、それに反論したのは今まで無言を貫いていたエリザベートだった。

「アリスさん。彼らは貴族です。貴族は領民からの税収で豊かな生活をしています。だからこそ、規律を守る義務がある。領民を守る義務がある。国のために命を捧げる義務がある。そして、家格が上になればなるほど、背負うものが重くなる。つまり、背負う責任に応じて身分差が生まれるのです。社交界へ出れば、格差に応じた礼儀が必要となる。身分が下の者が上の者に粗相をすれば、それは当然処罰の対象となります。貴族の婚約にしても、家や領民を巻き込んだ一種の契約なのです。平民の皆様から見れば、貴族は贅沢な暮らしをしているよう思われるかもしれませんが、個人で選択できる自由など僅かなものです」

「そんなの酷すぎます!彼らは好きで貴族に生まれたわけじゃないのに…!」


「ならば、辞めてしまえばいい」


更にアリスが言い募ろうとした時、第三者の声がした。

「王太子殿下ッッ!」

突然の王太子の登場に、シャルロッテやエリザベート、その友人たちは美しいカーテシーを、令息達は片膝をつき敬意をはらう。

「楽にしてくれ」

許しを得て、周囲の者たちは姿勢を崩すが、礼儀作法を全く勉強してこなかったアリスは今の今まで、王太子に見とれて呆けているだけだった。苦言の一つも飛んできそうなものだが、御前の前でそんなことが出来るわけもなく、ただ一堂に王太子の次の言葉を待つことしかできない。

「ジークフリート侯爵令息だったかな?」

「はい!」

突然に名を呼ばれ、ジークフリートは姿勢を正す。

「君は貴族社会での疲れを、そこの平民に癒してもらっていたとか」

「はい。アリスは疲弊した私の心を優しく包み、癒してくれる素晴らしい女性です。それなのに、婚約者のエリーは俺の心がアリスにあるからと、彼女に嫌がらせを何度も繰り返す、卑しい女なのです」

先ほどのシャルロッテの言葉に顔を青くしていたジークフリートだが、既に喉元を過ぎてしまったのか、エリザベートを悪女と罵り、アリスがいかに素晴らしい女性であるかを熱弁する。

ふむ…と、王太子は何やら考える素振りをしながら、アリスに視線を移す。その視線をどう勘違いしたのかは分からないが、アリスは頬を染め、呼ばれていないのに彼の目の前まで来ると勝手に自己紹介を始めたのだ。

「あの、はじめまして。アーサー様」

王太子の名前――アーサー・グランディエ――を口にした瞬間、アーサーの護衛として控えていた数人の兵士が剣を抜き、切っ先をアリスへと向ける。令嬢たちからは小さな悲鳴が上がり、令息達は助けようと手を伸ばすも、兵士に睨まれ体を竦ませた。当のアリスは何が起こったのか分からず、目を白黒させている。

「俺は君に発言も名を呼ぶ許可もしていない」

「え…?学園では――」

「発言は許可していないと言ったはずだが、貴様は言葉が理解できないのか?それに、『平民に限り、生徒間での身分差による処罰』は設けていないが、俺はもうこの学園の生徒ではないから関係ない。衛兵、この女を連れていけ」

王太子の指示で、護衛の兵士の内数名が、何やら喚くアリスを拘束し、どこぞへと連行していった。その様子を呆然と見ているだけだった、ジークフリート達。

「さて、話を戻そうか。君たちは揃いも揃って、貴族としての責務を放棄し、平民の少女に現を抜かしている。どうしたものかと、側近候補のアレクと愛しい婚約者殿から相談を受けていたのだが…そんなに貴族としての身分が窮屈なら、貴族籍を抜けて平民になったらどうかな?レーベン侯爵家は、君の姉君が継がれるようだし、他の者も兄弟姉妹がいるから問題なかろう」

「そうですわね…お義姉様の婚約者としてジーク様は不相応ですし、公爵を継がれるお義姉様には、もっと良い縁談があるはずです!」

若干、興奮気味にシャルロッテがアーサーに同意し、アレキサンドもエリザベートの友人たちも力強く頷いている。

本人の意見を聞かずに婚約破棄の方向へと話が進んでいることに小さなため息を吐くエリザベートだったが、王太子を巻き込み、更にはアリスを捕縛させるなどの大事に至ってしまえば、これ以上ジークフリートとの婚約を続けることは難しい。彼女としてはもう少し穏便に事を進めたかったのだが、義弟も義妹もエリザベートを蔑ろにするジークフリートを毛嫌いしていたので、遅かれ早かれ同じ結果となっていたに違いないと無理矢理自分を納得させるほかなかった。


「ジーク…いえ、ジークフリート様。今晩にでも我が家から侯爵家へ婚約破棄の申し入れが届くはずです。お帰りになられて、じっくり侯爵様とお話し合いくださいませ」


この場をおさめるにも、そして彼らが厳しい現実と向き合う為にも告げられた別れの言葉。

何の感情も見えない声色のエリザベートの言葉に、ジークフリートは膝から崩れ落ち、呆然とするしかなかった。他の令息達も同じような状態だったが、興味を失ったとばかりにエリザベート達は視線を外す。


「皆様、お騒がせして申し訳ございません。もうじき休憩も終わるでしょうから、教室にお戻りなさいませ」


エリザベートの美しいカーテシーで締めくくられ、貴重な休憩時間を浪費した騒動は終結したのだった。



ちなみに、アレキサンドは将来的に父親の持つ伯爵位をもらって独立します。

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