15 美鈴さんはご褒美をご所望されていた
「へ?ご褒美?って、何が欲しいんだ?」
まさか、何か金のかかる物でも要求されるのか?
と一瞬不安になったが、美鈴の口から出た言葉はこれだった。
「頭、ナデナデして欲しい・・・・・・」
「あ、頭、ナデナデ?そんなんで、いいの?」
「うん、ダメ?」
「い、いやいや、いいよ。いくらでも、ナデますよ、はい」
「えへへ、やったぁ♡」
俺の言葉を聞いた美鈴は心から嬉しそうにそう言い、
頭にかぶっていたウイッグを脱いでテーブルに置き、
俺の肩によりかかって(はわわわっ!)、
「じゃあ、お願いします♡」と言って目を閉じた。
ダックン、ダックン・・・・・・。
これは、高鳴る俺の心臓の鼓動だ。
もう、頭はパニックで、心臓はドキドキし過ぎて、細かい事は何も考えられない。
とりあえず俺は、美鈴の頭を優しくなでた。
すると美鈴はうっとりとした様子で更に俺にもたれかかってきて(ほわわわっ⁉)、
練乳とカスタードとみたらしとはちみつとイチゴジャムとホイップクリープとその他もろもろを混ぜわせたような甘い声で言った。
「はぁ~♡幸せ♡美鈴、聖吾君に頭をナデナデしてもらってる時が、一番幸せだよぉ♡」
「そ、そうなの?」
俺が美鈴の頭をなでた事なんてあったか?
あ、そういえば一度だけあったな(第一巻参照)。
あれ、そんなに良かったのか?
と思っていると、美鈴もその時の事を思い出しているのか、ちょっと頬を膨らませながら言った。
「それなのに聖吾君、あれ(・・)以来美鈴の頭、全然ナデナデしてくれないんだもん。
どうして?美鈴が可愛くないから?」
「えええ?いや、そういう訳じゃないけど、えと、そんな事したら怒るかなと思って・・・・・・」
「怒る訳ないよぉ。美鈴はこれがして欲しいんだもん。
聖吾君が頭をナデナデしてくれるなら、美鈴はずっと可愛い子で居るよ?」
改めて問う。
こいつは、誰だ⁉
一体何がどうなってこうなってるんだ⁉
しかもここには沙穂さんや矢代先輩も居るんだぞ⁉
その辺の事、ちゃんと分かってんのか⁉
しかし美鈴はそんな事は全くお構いなしに、俺の頭ナデナデに身をゆだねている。
もはや俺の力でこの場を収める事は不可能。
一体どうすりゃいいんだ⁉
そう思いながら途方に暮れていると、美鈴が更に俺に寄りかかって来た。
つ、次は一体どんなおねだりをする気だ⁉
と、不安なのか期待なのかよく分からない感情に襲われていると、
「くぅ・・・・・・」
という寝息が聞こえ、美鈴は目を閉じてスヤスヤと眠りに落ちていた・・・・・・・。
その後俺達は、春香さんが乗って来た車で送ってもらい、沢凪荘に帰り着いた。
沢凪荘に着いてからも、由乃さんと美鈴はスヤスヤと眠ったままだった。
今日は二人ともすげぇ頑張ったもんな。
このままぐっすり休んでくれ。
そして目覚めた頃には元に戻っていてくれ。
こうして彩咲綾音の一夜限りの復活ライブは幕を閉じた。
次に彼女がステージに戻るのは、由乃さんが春香さんの催眠術に頼らず、
自分の力でステージに立てるようになった時だ。
つまりこれは、彼女の新たな出発でもあるのだ。
由乃さんは今日という日を忘れずに、
本当の意味で彩咲綾音として復活できるよう頑張って欲しいものだ。
そして美鈴には、今日の出来事はキレイさっぱり忘れていて欲しいものだ。
そう心から願う中、沢凪荘の夜は更けて行くのだった。




