14 美鈴さんがドえらい事になっていた
そう思いながらホッと息をついていると、
そんな俺の背中をツンツンつつきながら矢代先輩が声をかけて来た。
「なぁなぁお兄ちゃん、みっちゃんはどこに居るん?
ウチ、アイドル姿のみっちゃんを間近で見たいんやけど」
「ああ、美鈴ならスタッフルームに居ると思いますけど、もう着替えてるんじゃないですか?」
俺がそう言うと、矢代先輩の背後に現れた沙穂さんがからかうような口調でこう続ける。
「聖吾君も、いつもと違う美鈴ちゃんが見られて、すっかり見とれちゃったんじゃない?」
「なっ⁉ま、まあ、いつもと違って、可愛いなとは、思いましたけど、
俺は別に、見とれるとか、そんな、ゴニョゴニョ・・・・・・
と、とにかくスタッフルームに行きましょう!
きっともう着替えも済ませて待ってるはずですから!」
俺は両手を振り回しながらそう言い、そそくさとスタッフルームへ向かった。
その後を沙穂さんと矢代先輩が付いて来る。
そしてスタッフルームの前に着いた俺はドアをノックし、
「美鈴居るか?入るぞ?」と言った。
すると俺がドアノブに手をかけるより先にドアが内側からガチャッと開け放たれ、
さっきのアイドル衣装姿で、ピンク色の髪のウイッグもつけたままの美鈴が、
いきなり俺に抱きついて来てこう言った。
「あぁん聖吾君♡やっと来てくれた♡美鈴、ずっと待ってたんだからね♡」
「・・・・・・」
あまりに予想外の美鈴の振舞いと言葉に、思考停止状態になる俺。
え?何?これ、誰?美鈴?
俺の事、聖吾君って呼んだ?
しかもずっと待ってたとか言った?
しかもこんな甘え声で?
は?どういう事?
背後の沙穂さんと矢代先輩も、美鈴の様子にさすがに目が点になっている。
するとそこに、本坂先輩と一緒に由乃さんを抱えてやって来た春香さんが、至って冷静な口調でこう言った。
「ああ、今の美鈴さんは私の催眠術の影響で、
羞恥心やら照れやら恥じらいの心が一切ぶっ飛んでいますので、
日頃抑え込んでいる感情が暴走している状態です。
「どえぇっ⁉それってマズいんじゃないですか⁉早く美鈴の催眠術を解いてくださいよ!」
俺は慌ててそう叫んだが、春香さんは、
「私は由乃の介抱をしなければならないので、ちょっと今は手が離せないです。
でも安心してください、今の美鈴さんは内に秘めた感情をおっぴろげにしているだけで、
何も害はありませんから」
「それが一番害があるんじゃないですか⁉これじゃあ美鈴は、何をするか分かりませんよ⁉」
俺は必死にそう訴えたが、春香さんは
「大丈夫です」と言い、
そのまま本坂先輩とともに、由乃さんをつれて行ってしまった。
え、これ、本当に大丈夫なの?
日頃の感情が暴走するって事は、いつもの倍以上の罵詈雑言を浴びせられるって事じゃないのか?
美鈴はその為に俺を待ち構えていたって事だろ?
そう思いながらアワアワしていると、そんな俺に美鈴はやけに甘ったるい声でこう言った。
「ねぇ聖吾君、こっちに来て♡」
そしてスタッフルームのパイプ椅子を指差す美鈴。
下手に逆らうと怖いので、俺は言われるままにその椅子に腰かける。
すると美鈴も隣のパイプ椅子に腰かけ、ズズイッと俺に顔を寄せて来た。
ち、近い近い!
鼻先がぶつかる!
何だこの甘い香りは⁉
頭がクラクラする!
もはや俺はパニック状態です。
そんな俺に、美鈴は上目づかいで言った。
「ねぇ、今日の美鈴、可愛かった?」
「ええ?」
パニック状態の俺はその質問の意図が理解できず、言葉を詰まらせた。
何なんだよこれは?
催眠術にかかっているとはいえ、今の美鈴は本当におかしいぞ?
一体どういうつもりでこんな事を聞くんだ?
でもまあステージの上での美鈴は確かに可愛かったので、俺は素直にそれを言葉にした。
「あ、ああ、とっても、可愛かったよ。可愛過ぎて、ビックリした」
するとそれを聞いた美鈴は
「~~~~~っ♡」
と声にならない声を出し、両拳を自分の顎の前でギュッと握り、両足を子供のようにバタバタさせた。
な、何だ?
今、俺の目の前で何が起こってるんだ?
こんな美鈴、見た事ないぞ?
まさかこれが、日頃抑え込まれた美鈴の感情だってのか?
マジで?
全く信じられない・・・・・・。
しかしそんな俺の心情に構わず、美鈴は再びガバッと俺に顔を寄せてこう言った。
「ねぇ、今日の美鈴、ちょっと恥ずかしかったけど、いっぱい頑張ったんだよ?えらい?」
「あ、ああ、よく頑張ったよな、えらいぞ」
俺がそう言うと、美鈴は何やらモジモジしながらこう続ける。
「じゃ、じゃあね、ご褒美が欲しいなぁ・・・・・」




