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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た5  作者: 椎家 友妻
第一話 微妙な二人と、衝撃の事実
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1 アタックチャーンス!

 「いや~、春やねぇ」

 あの後、いつものように俺と自転車二人乗りで沢凪荘を出た矢代先輩は

(沢凪荘には自転車が二台しかなく、

行きは美鈴が一人乗りで先に行き、

俺と矢代先輩が残りの一台に二人乗りをして登校している)、

俺の後ろで気持ちよさそうに言った。

それに対し、春の心地よいそよ風を全身にあびながら自転車をこぐ俺も、

「そうですねぇ、御撫町の景色も、春爛漫(はるらんまん)って感じですもんねぇ」と返事を返す。

 俺達が住む御撫(みなで)(ちょう)は、広大な山に囲まれた田畑に、綺麗な川が流れる自然豊かな田舎町だ。

五月も終わりに差し掛かり、様々な花や草木が道端(みちばた)や山の木々を(おお)い、

個性豊かな昆虫たちが春の陽気に誘われるように顔を出し、

鳥が春の空に舞い、美しい歌声を響かせている。

特に植物や生き物に詳しい訳じゃないけど、

御撫町に住んでいると、そんな自然の豊かな恵みを、知識がなくても感じる事ができる。

都会みたいに遊ぶ所や色々な物を買うお店はないけど、俺はここでの暮らしがすこぶる気に入っていた。

沢凪荘や学校やバイト先での日常は、少し賑やか過ぎる気もするけど・・・・・・。

 と、そんな事を考えている俺に、背後の矢代先輩はいたずらっぽい声色で言った。

 「ちなみにウチが今言うた春は、『季節』の春やなくて、『恋』の春の事やで?

誰の恋の事かは、もう分かってるよね?兄さんの事でっせ!」

 そう言って俺の背中をバシバシ叩く矢代先輩。

 「痛い痛い!俺には恋の春はまだ来てませんよ!」

 俺はそう言うが、矢代先輩は俺の背中を叩き続けながら言葉を続ける。

 「何言うてんの!

さっきも言うたけど、みっちゃんはこの前の事でもう聖吾お兄ちゃんにメロメロなんやで?

あとは聖吾お兄ちゃんのアタックあるのみ!アタックチャーンス!」

 「それってこういう時に叫ぶ言葉なんですか?」

 「それは知らんけど、ウチが言いたい事は分かるやろ?

今がみっちゃんをモノにするチャンスなんやで?

お兄ちゃんが沢凪荘に来た頃はあんなにツンケンしてたみっちゃんが、今朝はどうや?

お兄ちゃんがみっちゃんのオッパイをモミモミしても、全く怒りもせんかったやんか」

 「モミモミはしてませんからね?」

 「五十歩百歩やがな。要はそれだけみっちゃんがお兄ちゃんに心を許してるって事やんか。

あとはお兄ちゃんがみっちゃんのなよやかな肩を抱き寄せて、

『俺の女にお(・)なり(・・)よ』

って言いさえすれば、みっちゃんはしなしな(・・・・)とお兄ちゃんにしなだれかかって

『はいよ、あんた』ってなるんやんか」

 「何でそんな演歌のワンフレーズみたいな感じなんですか?」

 「日本人の心は演歌が一番うまい事表現してるから」

 「恋愛ドラマでは絶対にない告白の仕方ですけどね」

 「うるさいなぁ!とにかく何でもええから早い事告白しぃや!

問答無用でブチュッとチュウしてギュッと抱きしめて

『お前が好きや!』って言うたらしまいや!」

 「何か順序がバラバラじゃありませんか⁉」

 「順序なんかどうでもええねん!とにかく終わりよければ全てよしや!さあ!レッツ告白や!」

 「何でそんなに告白させようとするんですか⁉美鈴が俺の事をどう思ってるかも分からないのに!」

 「だってここの所みっちゃんはずっとあんな感じで元気がないんやもん!

あれは完全に恋の病やで!そしてその病を治せるのは聖吾お兄ちゃんしか()らへん!」

 「ええ?そ、そうなんですかねぇ?」

 「当たり前やんか!このままお兄ちゃんがモジモジしてたら、みっちゃんはどこぞのスカタン男に盗られてしまうで⁉それでもええんか⁉」

 「そ、それは、よくは、ないですけど・・・・・・」

 「そやろ⁉それやったら一刻も早く告白するべきやで!

今日中にでもするべきや!

お昼休みとか放課後バイト先に行く時とか、告白するチャンスはいくらでもあるんやから!」

 「えええ?で、でも・・・・・・」

 「でもやなぁあああいっ!」

 何故か怒り爆発の矢代先輩はそう叫ぶなり、俺の頭に思いっきり噛みついてきた。

 「いってぇええっ⁉」



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