10 秘密兵器
「実は今日、私のライブの為に、一人の女の子が駆けつけてくれました。
その子は私の大切なお友達で、彩咲綾音のとっておきの秘密兵器♡
それじゃあ紹介しちゃいます!
花吹ベルちゃんでーす!」
彩咲綾音がそう言うと、舞台袖から青色の花のようなアイドル衣装に身を包み、
ピンク色の髪をツインテールにした女の子が現れた。
理屈を吹き飛ばす圧倒的な可愛さに加え、
幻想的で魅惑的な存在感。
この世に妖精が実在するなら、それは彼女の事だろうと、大げさではなく言い切る事ができる。
ステージに現れた彼女には、それほどの魅力が備わっていた。
そんな彼女を見て、会場のファンはどよめきの声を上げる。
「誰だ?」
「初めて見るよな?」
「でも、かわいい!」
どうやらファンの人達も初めて見るようだ。
という事は、現役のアイドルじゃあないのか?
しかし彼女の顔立ちには見覚えがあった。
あの髪はおそらくウイッグで、メイクで別人のようになっているけど、
あれはまさか、もしかして・・・・・・。
「美鈴、なのか?」
と、俺が呟いたその時、いつの間にか俺の背後に立っていた春香さんが、
「その通り、彼女はあの美鈴さんです」
と、やけに誇らしげに言った。
「マジですか⁉まさかさっき春香さんが言ってた秘密兵器って、美鈴の事だったんですか⁉」
驚きの声を上げる俺に、春香さんは大きくうなずいて続ける。
「そうです。初めて見た時から、彼女のキレイな顔と、整ったプロポーションには目をつけていました。
しかも彼女は彩咲綾音の大ファンで、綾音の歌はもちろん、
振付まで完璧に再現できると言うじゃないですか」
「はぁ、まあ、確かにあいつはそれくらい、彩咲綾音が大好きみたいですからね」
「なのでいっそ綾音と一緒にステージに上がってもらって、
シンクロ率抜群の歌とダンスを披露すれば、
サプライズでファンの皆さんを更に喜ばせる事ができるのではないかと思い、
美鈴さんにも協力してもらったのです」
「そ、そうだったんですか。でも、よく美鈴がそれを引き受けましたね?
由乃さんほどじゃないにしても、あいつも結構人前に立つのは苦手だし、
ましてやこんな大勢の前で歌やダンスを披露するなんて、絶対に嫌がるだろうと思うんですけど」
「はい、この話をお願いした時、美鈴さんはとても自分にはできないとおっしゃいました。
でも、綾音と一緒にステージに立つという事には少なからず興味があったようなので、
羞恥心と恥じらいをマヒさせる催眠術をかけて同じお願いをしたところ、喜んで引き受けてくれました」
「美鈴にも催眠術を使ったんですか⁉ていうか春香さんの催眠術って本当に凄いんですね!」
「心にスキがある・・・・・・いえ、素直な人は催眠術にかかりやすいのです」
「今、怖い事をサラッと言いませんでした?」
「気のせいです。それより、生まれ変わった美鈴さんを見てあげてください。
きっと綾音にも負けないようなパフォーマンスを見せてくれるはずですから」
「ほ、本当ですか?ただのファンであるあいつが、綾音さんと同じように歌ったり踊ったりなんて、
とてもできないと思うんですけど・・・・・・」
と、不安の声を上げる俺。
そんな中、花吹ベルに変身した美鈴は、隣に立つ彩咲綾音とともに、
次の曲である『二人の力は百万馬力☆』を歌い始めた。




