5 矢代、ガッカリのポックリ
じぃ~っ。
沢凪荘の住人で、俺や美鈴より一学年上の先輩(だが見た目は小学生にすら見える)の張馬矢代先輩である。
「や、矢代先輩、いつからそこに居たんですか?」
俺がたじろぎながら聞くと、矢代先輩は死んだサンマのような目で俺を眺めながら言った。
「聖吾お兄ちゃん(矢代先輩は年下の俺をそう呼ぶ)、ウチはガッカリしたわ。
せっかくこの前男らしい事を言って男らしくみっちゃん(美鈴の事)を助けたのに、
あれからまっっっっっっっっっっったく何の進展もないやんか。
ウチ、ガッカリしすぎてポックリいきそうやわ」
「ちょ、ちょっと何言ってるのか分かんないです・・・・・・」
「つまりウチが言いたいのはな、あそこまでしたんやったら、
もう聖吾お兄ちゃんとみっちゃんは、次のステップに進まなあかんと言いたいんや」
「つ、次のステップって、どんなステップですか?」
俺が尋ねると、沙穂さんがズズイッと体と口を割りこませてこう叫んだ。
「それはもちろん!子供を作って幸せな家庭づくりを――――――モガガッ!」
色んなステップをすっ飛ばした発言をする沙穂さんの口を、
すこぶる小さな両手でふさいだ矢代先輩は、いつになく真剣な口調で言葉を続ける。
「とりあえずはこれからは一緒に学校に行くとか、
学校では一緒にお昼を食べるようにするとか、
休みの日は一緒にどこかに出かけるとか、
するようにしたらええんと違う?」
「い、一緒に、ですか・・・・・・」
「そうそう。それでお風呂も一緒に入って、
寝る時も一緒の布団で寝れば、二人はあっという間にゴールインやで?」
「ちょっとちょっと⁉そのゴールインは流石に早すぎるでしょ!
結局矢代先輩も沙穂さんと同じ事言ってるじゃないですか!」
「あれ?そうやった?」
そう言って矢代先輩がペロッと舌を出して自分の頬をポリポリかくと、
矢代先輩の手から逃れた沙穂さんが再び声を荒げた。
「それでいいのよ!男と女が行きつく所は結局はそこなのだから!妄りに淫らに乱れて見せて!」
「結局エロい妄想がしたいだけでしょ!」
「そう!」
「認めるな!」
すると今度は矢代先輩が目を輝かせながら声を荒げる。
「ウチはちゃうで!ウチは聖吾お兄ちゃんとみっちゃんが恥じらいながらも、
段々お互いイチャイチャしていく様を覗き見したいだけやから!」
「それはそれで嫌ですよ!」
そして再び沙穂さん。
「大丈夫!私達が応援するから安心して!」
「それが一番心配だ!」
そして再び矢代先輩。
「大丈夫!ウチらが聖吾お兄ちゃんとみっちゃんの、恋のキューピッドになってあげる!
そして恋の矢を縦横無尽に放ちまくるで!」
「そんな事したらまた話がややこしくなりますから!」
はぁ・・・・・・美鈴が最近おかしな調子だという事をのぞくと、
沢凪荘でのにぎやかな毎日は相変わらずだ。
本当に、俺と美鈴はこの先どうなっちまうんだろう?
べ、別に、あいつとどうにかなりたいだなんて、思ってないんだからね!