1 あっさりOKした
「いいわよ」
翌日の夜。
バイト先のファミレス『ニューハーフ』のスタッフルームで、
俺は岩山店長にダメ元で、今度の日曜日の夜、
彩咲綾音の一夜限りの復活ライブがしたいので、
ここを会場として使わせてもらえませんかと頼んでみた所、返って来た返事がこれだった。
てっきり断られるものと思い込んでいた俺は、思わず
「い、いいんですか?」
と聞き返してこう続ける。
「だってここ、ファミレスでしょう?ライブをするステージとか音響の機材とか、どうするんですか?
頼んでおいて何ですけど、ちょっと難しくないですか?」
しかし岩山店長は事もなげにこう答える。
「あら、ステージはフロアの奥のテーブルとソファーを一時的に撤去すれば即席で作れるし、
音響機材は、私の友達でライブハウスをしている子がいるから、
その子に頼めばちゃんとライブもできるような音響機材を手配してくれるはずよ?
だからここをライブ会場として使うのは全く問題ないわ」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
「それよりも、彩咲綾音ってついこの前アイドル活動の休止を宣言した、あの彩咲綾音よね?
どうして聖吾君が、彼女とつながりがあるの?」
「えぇっ⁉いや、その、知り合いの知り合いに、彩咲綾音のマネージャーさんが居て、
その人が、この辺でシークレットライブをしたいって聞いて、
それならここがいいかなと思って、あ、あはは」
まさか今沢凪荘にその彩咲綾音が住んでいるとも言えないので、俺は下手な言い訳でごまかした。
岩山店長はそれを疑う様子もなく、体をクネクネさせながらこう返す。
「そういう事なら大歓迎よ♡
私はいつだって聖吾君の愛の下部なんだから、他のお願いだって聞いちゃうわ♡」
「あ、いえ、他に店長にお願いする事はありません」
そう言って岩山店長の言葉を制し、そそくさとスタッフルームを後にした。
な、何か、あっさりライブ会場が決まっちまったぞ。
でもそこに由乃さんの母親を呼び出す事なんて本当にできるのか?
今何処に居るかも分からないのに・・・・・・。
と思いながら頭をかいていると、美鈴が早足で歩み寄って来て、いささか取り乱した口調で俺に言った。
「稲橋君、来た、来たわよっ」




