11 一夜限りの復活ライブ
「いい事思いついた!」
「び、びっくりした!何だよいきなり⁉」
俺がひっくり返りそうになりながらそう言うと、美鈴は目を輝かせながらこう続けた。
「ライブをしましょう!彩咲綾音の、一夜限りの復活ライブ!
そしてその様子を由乃さんの母親に見せつけて、最後にこう言い放つの!
『私はもうあなたの元には戻りません!自分の力で生きて行きます!』って!
彩咲綾音として完璧なライブを見せつけて、今の由乃さんの想いをそのままぶつければ、
いくら強欲な母親でも、それ以上は何も言えないはず!
そうなれば由乃さんは両親に縛られる事なく、自分の人生を歩んで行けるはずよ!」
「ええ?いきなり何を言い出すんだよ?そんな事できる訳ないだろ?」
美鈴の突飛な発言に俺は思わずそう言ったが、
春香さんも両拳を握りしめて立ち上がり、美鈴に負けない勢いで声を上げた。
「いいえ!やりましょう!
こうなったら真っ向勝負で由乃の母親をギャフンと言わせてやります!
会場は小さくてもいいし、お客さんが来なくたって構いません!
だけど近くに居るはずの由乃の母親は必ず連れて来て、由乃の想いと覚悟を、思いっきりぶつけるんです!」
「は、春香さんまで・・・・・・でも、由乃さん本人の気持ちも確かめないと・・・・・・」
俺がそう言うと、その場に居た皆の視線が由乃さんに集中した。
その由乃さんは不安そうな顔で一旦うつむいたが、
やがて勇気を振り絞るように顔を上げ、力強い声でこう言った。
「私も、ライブをやりたいです!そして自分の気持ちをお母さんに伝えたい!」
「えらい!よう言うた!これで彩咲綾音の一夜限りの復活ライブ決定やね!」
「これは面白い事になってきたわね♡ウフフ♡」
由乃さんの言葉に、矢代先輩と沙穂さんも盛り上がる。
しかし一人不安な俺は、色々と気になる問題点を口にした。
「ちょ、ちょっと皆落ち着きましょうよ!
そんなその場の勢いだけでライブをするとか決めちゃっていいんですか⁉
そもそも会場はどうするんです⁉
それに由乃さんの母親が何処に居るかも分からないし、この計画は無謀過ぎますよ!」
が、そんな俺の不安を吹き飛ばすような声で美鈴が言う。
「会場は『ニューハーフ』を使わせてもらえばいいじゃないの!
岩山店長も、人を呼べるようなイベントをやりたいって言ってたし!
稲橋君が頼めば、店長も絶対に許可してくれるわよ!」
「そりゃまあ、そうかもしれないけど、でもなぁ・・・・・・」
反論しようとする俺に、今度は春香さんが力を込めて口を開く。
「お願いします!由乃もやる気になってる事ですし、これが由乃のアイドルとして、
そして人間として成長する、大きなチャンスだと思うんです!」
「い、いや、だけど、由乃さんのお母さんがどこに居るのかも分からないし・・・・・・」
と俺が反論しようとすると、次は由乃さんが俺にズイッと詰め寄ってこう言った。
「私の母は執念深い人ですから、一日くらいで東京に帰ったりはしません。
明日も稲橋君のバイト先の近くに居るかも知れないので、見つけられる可能性は十分にあります!」
「そ、そうなの?でもなぁ・・・・・・」
何だか嫌な予感しかしない俺。
そんな俺の背中をバシンと叩き、矢代先輩が言う。
「大丈夫大丈夫!
聖吾お兄ちゃんが会場の手配をして、ヨッシーのお母ちゃんを見つけ出してさえくれれば、
全てうまくいくんやから!」
「でえぇっ⁉何か面倒事を全部俺に押しつけようとしてません⁉」
嫌な予感がかなりの確率で的中しつつある事態に俺が声を荒げると、
それにトドメを刺すように、沙穂さんが笑顔で言った。
「それだけ聖吾君が頼られているって事よ♡頑張ってね、聖吾君♡」
「・・・・・・」
もはや何を反論する気力もありません。
かくして彩咲綾音の一夜限りの復活ライブが決定したのだが、
本当にそんなにうまくいくのか?
もうどうなっても知らないぞ⁉




