8 彩咲綾音の呼び出し方
「あのぉ、春香さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう?」
春香さんの言葉に、俺はおずおずと尋ねた。
「春香さんはさっき、ある(・・)方法を使って、極度の引っ込み思案である由乃さんに、
アイドルとしてのレッスンを積ませたって言いましたよね?
確かに今の由乃さんを見ても、姿こそは彩咲綾音そのものですけど、
中身はやっぱり変わってないって言うか、
俺達がこの前のパーティーで見た彩咲綾音と同一人物だとはとても思えないんです。
一体どんな方法で、この極度の引っ込み思案である由乃さんを、
あんなに人前でも物おじせず、
誰とでも打ち解けるような明るい性格の彩咲綾音に変身させたんですか?」
それに対して春香さんは俺をまっすぐに見据え、そして極めてハッキリとした口調でこう言った。
「それは、催眠術です」
「さ、催眠術⁉」
俺が驚きの声を上げると、春香さんは至って真剣な表情でこう続ける。
「そうです、催眠術です。
由乃を姉の由穂の代わりに彩咲綾音として活動させる事に決めたものの、
由乃はこの性格なので、ステージに上がる事はおろか、
人と話す事すらままならない状態でした。
そこで私は催眠術で由乃を洗脳し、アイドルとして物おじしない彩咲綾音の人格を、
由乃の中に作り上げたのです」
「な、何か凄い怖い事をサラッと言いましたね!ていうか春香さんって、催眠術ができるんですか⁉」
「はい、由乃の為に、通信教育で習いました」
「通信教育っ!由乃さんもよくそれを受け入れたな!」
「わ、私も、お姉ちゃんみたいに、なりたかったので・・・・・・」
と、由乃さん。
由乃さん自身も、自分の引っ込み思案の性格を何とかしたいとは思っているのか。
しかし催眠術とは・・・・・・。
と思いながら唖然としていると、春香さんはこともなげにこう言った。
「それでは今から由乃に催眠術をかけますね。
『綾音、仕事よ』」
そう言って春香さんが右手の指をパチンと鳴らすと、
由乃さんは急に意識を失い、そのままちゃぶ台の上にバタッと倒れ込んだ。
「由乃さん⁉ちょ、これ、大丈夫なんですか⁉」
突然の出来事に取り乱す美鈴。
しかし春香さんは至って冷静な様子で
「大丈夫です」
と言い、ちゃぶ台に突っ伏している由乃さんを見守っていた。
するとしばらくして由乃さんは急に顔を上げ、ガバッと立ち上がり、
さっきまでの暗くよどんだ顔とはまるで別人のような、輝く笑顔と明るい声でこう言った。




