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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た5  作者: 椎家 友妻
第四話 春香の願いと、母親の狙い 
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5 春香の正体

 とりあえず俺達沢凪荘の面々は食堂に集まり、そのちゃぶ台を囲んで春香さんと向かい合った。

その春香さんは丁寧にお辞儀をして口を開いた。

 「こんな時間に申し訳ありません。

本当は当分ここへは来ないつもりでいたんですが、どうしても由乃の事が心配で、つい来てしまいました」

 それに対して沙穂さんが、春香さんにお茶を出しながらこう返す。

 「そんな事で気を(つか)わないでくださいな。いつ訪ねて来てくださっても、私達は大歓迎ですよ♪」

 その言葉に矢代先輩と美鈴も頷く。

そんな中俺は、至って神妙な口調で春香さんに尋ねた。

 「ええと、それじゃあ、この状況の説明をしてもらえますか?

由乃さんの母親が凄く怖い剣幕で由乃さんの事を探している事と、

それの事実を知った由乃さんが、自分の部屋に引きこもってしまった訳を」

 すると春香さんは、

「はい、わかりました」

と言って、この状況の説明を始めた。

まずは由乃さんの家庭での()い立ち。

由乃さんの両親が、優秀な双子のお姉さんばかり可愛がり、

何をやっても不器用な由乃さんにはほとんど愛情を注がなかった事。

そのせいで由乃さんは自分に全く自信を持てなくなり、極度の人見知りになってしまった事。

そしてある日双子のお姉さんが突然姿を消し、そのせいで両親は由乃さんに辛く当たるようになった事。

それを見かねた春香さんが、由乃さんを連れて東京を飛び出し、沢凪荘へ住まわせるように手引きした事。

ここまでは俺が昨日春香さんに聞いた話だった。

が、この話をこの場で初めて聞いた美鈴や矢代先輩は、怒りを(かく)す事なく声を荒げた。

 「ヨッシーの両親はロクでもない人間なんやな!それはヨッシーが可哀想(かわいそう)や!」 

 「マッタクです!私だってそんな両親が居る家だったら、絶対家出するわ!

あの人をここに連れて来なくて正解でした!」

 が、そんな中冷静な様子の沙穂さんは、首をかしげながら春香さんに尋ねる。

 「お話は大体分かりましたけど、失礼ですが、春香さんは由乃ちゃんとどういうご関係なんでしょう?

お話を聞いていると、姉妹や親戚(しんせき)とは違うけれど、とても強い(きずな)を感じます」

 ふむ、その辺は俺も分からない所だった。

が、今日の昼休みに由乃さんの正体が分かった今、春香さんが何者なのか、ある程度予想はつく。

が、それは春香さんの口から出るのを待つ事にした。

そして春香さんはうつむいて少し間を置き、すがるような口調で言った。

 「あの、これからお話しする事は、くれぐれもここだけでの話にしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 その言葉に俺を始めとする沢凪荘の面々が真剣な表情で頷くと、春香さんも真剣な表情で頷き、

「それでは、お話しします」

と言い、ハッキリとした口調でこう言った。

 「実は由乃は、先日アイドル活動を休止した彩咲綾音で、私は、そのマネージャーなんです」

 う~む、やっぱりそうだったか。

由乃さんの身内じゃなくて、アイドルだった由乃さんと深く関わりのある立場っていったら、それくらいしか考えられないもんな。

でも、いきなりこんな事を言われて、美鈴達は信用するだろうか?

俺でもまだ完全には信じられない。

するとそんな中、美鈴の示した反応はこうだった。


「えええええっ⁉由乃さんの正体が彩咲綾音ちゃん⁉えええええっ⁉」


 とりあえず声がでか過ぎる。

まあ、それくらい驚いたって事だろう。

目ん玉をこれでもかというくらい大きく見開き、

立ちあがってムンクの『叫び』のポーズになっている。

そして美鈴ほどではないが、春香さんの言葉に驚いた様子の矢代先輩は、

声を上ずらせながら春香さんに尋ねた。

 「で、でも、こう言っちゃあ何やけど、あの彩咲綾音ちゃんとここに居るヨッシーとじゃ、

見た目も性格もあまりにもかけ離れ過ぎてないですか?

そりゃあアイドルやってる時とプライベートじゃあ違って当然やろうけど、

ヨッシーの場合は同じ人物とは思われへん・・・・・・」

 「確かに、今の由乃ちゃんとあの彩咲綾音が同一人物だとは、誰も気づかないでしょうねぇ」

 矢代先輩の言葉に沙穂さんもそう続けると、春香さんはすっくと立ち上がり、毅然(きぜん)とした態度で言った。

 「皆様のお言葉、とてもよく分かります。

では今から由乃が彩咲綾音だという証拠をお見せしますので、少し待っていて下さい」


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