4 沙穂、激ギレ
「いってぇっ⁉」
ちなみに一応説明しておくが、沙穂さんは別に、俺が美鈴の胸を触った事に怒り、俺にビンタをお見舞いした訳ではない。
沙穂さんは俺の胸ぐらをガシッと掴んで言った。
「どうしてあそこで押し倒さないのよ⁉」
そう、この人は、あの場で俺が美鈴を押し倒し、テゴメにしなかった事を本気で怒っているのだ。
ちなみに沙穂さんは相当エロい妄想癖を持った相当困った人である。
それに対して俺は声を上ずらせながらこう返す。
「そ、そんな事できる訳ないでしょう⁉朝っぱらからこんな所で!
しかも俺と美鈴は、そういう関係じゃないし!」
しかし沙穂さんは更に声を荒げてこう続ける。
「そういう関係じゃない訳ないでしょ!
聖吾君はこの前、美鈴ちゃんの前でハッキリと、
『その子は俺の女だ!』
って宣言したじゃないの!」
そう、俺は数日前、美鈴の友達(?)の海亜理奈に社交パーティーに招待された時、
美鈴がスケベ親父に襲われそうになり、思わずさっきのセリフを口走ってしまったのだ。
しかしこれについては俺は色々弁解したい事があったので、その事を沙穂さんに言った。
「だから、あれはその場の勢いというか、頭に血が上って思わず口走っただけなんです!
俺は別に、美鈴が俺の女だなんてこれっぽっちも思った事はありません!」
すると沙穂さんはまるで肺ごと吐き出してしまうんじゃないかと思うほどに深いため息をつき、
眉間を右手の人差指と親指でつまみながら言った。
「聖吾君、どうしてそんな嘘をつくの?嘘つきは下着泥棒の始まりよ?」
「泥棒の始まりでしょ。下着は付かないでしょ」
「私はね、聖吾君に、もっと自分の気持ちに素直になって欲しいのよ」
「素直って言っても、俺は別に嘘なんかついてませんし」
「いいえ、ついているわ。聖吾君は美鈴ちゃんの事を、自分の女だと思っている。
そして今すぐにでもテゴメにしたいとも思っている」
「だから思ってませんて!しかもテゴメにしたいとも思ってませんから!」
「私は思っているわ!」
「思うな!」
「聖吾君も、少しは私のように素直になれないかしら」
「沙穂さんは、少し遠慮と自重を覚えた方がいいんじゃないかしら」
「人間、素直が一番なのよ」
「そういう素直さを一番にしちゃいけないと思います」
「じゃあ聞くけど、聖吾君は美鈴ちゃんの事をこれっぽっちも何とも思ってないの?
『俺の女だ』って言ったのは、本当にその場の勢いだけの事だったの?」
「う、それは、まあ、これっぽっちも何とも思ってない事はないですけど、
でも、美鈴が俺の事をどう思っているのかも分からないし、
そんな美鈴の気持ちを無視して、俺の女だなんて言うのはおこがましいというか何と言うか・・・・・・」
俺はそう言いながら言葉が続かなくなり、思わずうつむいてしまった。
何なんだよこれは⁉
自分で言ってて恥ずかしいやら情けないやらで、穴があったら(例えそれが虎穴だとしても)入りたい気分だぞ!
そう思いながら両手で頭を抱えていると、そんな俺を、沙穂さんの背後からじぃ~っと眺めている人影があった。