2 フタマタ疑惑と、ニューハーフ祭り計画
そう心に決めて洗いものを一通り片づけると、俺の背後に、
ガタイがごつくて筋肉ムキムキでスポーツ刈りでニューハーフの岩山鉄五郎店長が、
何やら浮かない顔をして歩み寄って来た。
いつもはテンションが高くて何かにつけて俺につきまとってくるけど、
今日は思わせぶりなため息なぞをついている。
別に心配という訳ではないけど、このままここに居られても困るので、俺は岩山店長に声をかけた。
「どうしたんですか岩山店長?ため息なんかついて」
と俺が問いかけると、岩山店長はもうひとつ思わせぶりなため息をついてこう言った。
「私と聖吾君の仲がなかなか進展しないから、この胸の奥がもどかしくて切なくて、どうしようもないのよ」
「はぁ、そうですか。それじゃあ俺はまだ仕事が残ってるんで、これで失礼しますね」
「んもう!聖吾君たらつれないわねぇ!そんな事じゃあ男の子にモテないわよ!」
「男になんかモテたかないですよ俺は!」
「嘘おっしゃい!そんな事言って私の他に、あなたのクラスの担任教師の男にも二股をかけようとしてるじゃないの!」
「二股なんてかけようとしてませんよ!
しかも何ですでに俺と店長が付き合ってるみたいになってるんですか⁉」
「なってないと言うの⁉信じられない!」
「なっていたと言う方が信じられない!」
「ホントに聖吾君は照れ屋さんなんだから♡」
「店長は他にもうちょっと店長らしい悩みはないんですか⁉」
「それはもちろんあるわよ。
最近はお店の売上もちょっと下がり気味だから、
何か大きなイベントでもやって、お客さんをどっと呼び込みたいのよねぇ」
「はぁ、大きなイベントですか。例えばどんな?」
「ニューハーフ祭りとか」
「何ですかその祭り⁉まさか俺達にまで店長みたいなニューハーフになれと⁉」
「違うわよ。そうじゃなくて、その日はニューハーフのお客さんしかお店に入れないようにするの」
「それはそれで嫌だな!しかもニューハーフのお客さんばっかりがお店に来る訳ないでしょ!」
「あら、稲橋君はそっち系の人達に凄くモテるから、うまく宣伝すれば、
きっとたくさんニューハーフを呼べるわよ♡大丈夫♡きっとうまくいくわ♡」
「うまくいくとしてもその案は却下ですよ!
店長みたいなのがわんさか店にやって来たら、俺のメンタルが持ちませんよ!」
「あら、それは残念だわ」
「バカな事言ってないでさっさと仕事してください!」
俺がそう言って岩山店長をおっぱらっていると、
お盆を両手で抱えた美鈴が歩み寄って来て、何やら不安そうな表情で俺に声をかけて来た。




