9 メソメソ、メソメソ
という訳で俺は、尾田先輩に言われた通りゴミの焼却場にやって来た。
けど、本当にこんな所に由乃さんが居るんだろうか?
放課後は掃除で出るゴミを生徒達がわんさか持って来るので人が多いけど、
昼休みのこの時間は人っ子一人居ない。
見た所今も、由乃さんはおろか他の生徒の姿も見当たらないけど、
まさか焼却炉の中に入ったなんて事はないだろうな?
それはないだろうと思いながらも、俺は一応焼却炉の分厚いフタを開けて中を確認してみたが、
やっぱり中に由乃さんは居なかった。
そりゃそうか。
じゃあどこだ?
もしかして、その隣にあるゴミ置き場の倉庫の中か?
そう思い中った俺は、ゴミ倉庫の引き戸をガラガラと開けて中を覗いてみた。
すると、
居た、由乃さんが。
由乃さんはパンパンにふくれたゴミ袋の山の中にちょこんと三角座りをしていて、
自分の膝に顔をうずめてメソメソ泣いていた。
「メソメソ、メソメソ・・・・・・」
メソメソ泣くという表現は使うけど、実際にメソメソ言いながら泣いている人は初めて見た。
それはともかく、俺は由乃さんを怖がらせないよう、できるだけ優しい声で話しかけた。
「よ、由乃、さん?大丈、夫?こんな所に、居たんだね」
すると由乃さんはピクッとなり、顔を上げて俺の方を見た。
その顔は涙で目が真っ赤に腫れ、鼻水もズルズルに垂れている。
こういうのをあられもない顔だと言うのだろうか。
とにかく俺は由乃さんのそばに歩み寄り、ポケットティッシュを差し出して言った。
「あ、あの、とりあえず、どうぞ」
すると由乃さんは一瞬ためらったが、
「ありがとう、ございます・・・・・・」
と消え入るような声で呟き、ポケットティッシュを受け取り、
それで涙を拭いて鼻水をズビビィッとかんだ。
そしてそれを近くのゴミ袋に捨てて、俺にペコリと頭を下げて言った。
「あの、ありがとうございます。この御恩は、一生忘れません」
「いや、別にすぐに忘れてもらってもいいんだけど、それより、美鈴が凄く心配してるよ?
いきなり教室を飛び出して、ずっと戻って来ないから」
俺が遠慮がちにそう言うと、由乃さんは表情を曇らせてうつむき、呟くように口を開く。
「私には、美鈴さんに心配されるような資格はありません。
だって、私は美鈴さんとあんな言い争いをしてしまったんですもの。
あんなに親切にしてくれた美鈴さんに歯向かうなんて、私は何て罪深い人間なのでしょう。
その罪を償う為、私をこのままここのゴミと一緒に焼却炉に入れて、
この汚れた魂ともども焼き払ってください。そして残った灰は海にまいてください」
「嫌だよ!そんな物騒な事できる訳ないだろ!
しかも何で最後だけそんなロマンチックな結末にしようとしてるの⁉」
「どうせ死ぬなら、ロマンチックな方がいいと思って」
「学校の焼却炉で焼け死ぬ事のどこがロマンチックなんだよ⁉
バカな事言ってないでさっさと美鈴と仲直りしろよ!」
「それができるなら警察は必要ありません!」
「いや必要だよ!つまりは気まずくて顔をあわせづらいだけだろ!」
「・・・・・・はい」
由乃さんはそう言うと、再び自分の膝に顔をうずめてメソメソ泣きだしてしまった。
「メソメソ、メソメソ・・・・・・」
これはふざけてやっているんだろうか?
それとも天然なだけなのだろうか?
それはともかく、俺は頭をポリポリかきながら声をかける。
「まあ、とりあえず教室に戻ろうよ。
美鈴は全然怒ってないし、むしろ由乃さんと仲直りしたがってるはずだから」
しかし由乃さんは首を横に振ってこう返す。
「そんな事ありません!きっと美鈴さんは私の事を嫌いになったはずです!
もう私の事はほっといてください!」
う~む、流石はベテランの引きこもりというか、マイナスの思いこみがハンパないな。
これはいくら口で説得しても無理そうなので、俺はとりあえず食べ物で釣る、
いや、由乃さんがお腹を空かせているだろうと思い、購買で買ったパンの袋を差し出して言った。
「ところでさ、お昼ごはんまだでしょ?購買でパンを買ってきたんだけど、よかったら食べない?」
しかし由乃さんは一層膝に顔を深くうずめて言った。
「私、食欲がありません・・・・・・」
その直後。
ぐぅ~・・・・・・。




