8 このシリーズに必ず確保されている『尾田枠(わく)』
購買で何個かのパンとカフェオレとオレンジジュースを買った俺(間違っても卵サンドとメロンパンとフルーツオレは買わない)は、
由乃さんを探すべく、学校の色々な場所を歩き回った。
学校の屋上、体育館裏、体育倉庫、保健室、
図書室、校舎裏の草むら、資料室、視聴覚室等等等、
思いつく限りの場所をしらみつぶしに探してみたけど、
その何処にも、由乃さんの姿は見当たらなかった。
やっぱりもう帰っちまったんだろうか?
と思い、沢凪荘にも電話をしてみたけど、沙穂さんは不在で(日中は色んな怪しいバイトをしているそうだ)、誰も出なかった。
まあ仮に由乃さんが沢凪荘に帰っていたとしても、沢凪荘に設置された電話に出る事は考えにくいんだけど。
さて、どうしたものやら。
と思いながら校庭の端にある石段に腰を下ろして途方に暮れていると、
「隣、いいかしら?」
と言って背後から声をかけて来た人物が一人。
ミナ高三大美女にして新聞部部長であり、裏の生徒会長とも呼ばれる、尾田清子先輩だった。
「ど、どうぞ・・・・・・」
ダメだとも言えないので、俺は遠慮がちにそう答える。
ちなみにこの人は、
美しさにおいても頭の良さにおいても観察力や洞察力においても、
人並はずれたモノをお持ちなので、俺はいささか、いや、なかなか苦手な人である。
この人と居ると、自分の全てを見透かされているようで、異様に緊張するというか、
心が休まらないというか、何ともいたたまれない気持ちになるのだ。
そしてそんな俺の心を見透かしたように、尾田先輩は俺の隣に腰を下ろしながらこう仰る。
「そんなに警戒しなくてもいいのよ?
私はただ単に、稲橋君とおしゃべりしたいと思って隣に座っただけだから」
「そ、そうですか・・・・・・」
顔を引きつらせながら答える俺に、尾田先輩は
「ところで」
と話を切り出してきた。
「稲橋君はさっきから学校中をウロウロしてるけど、誰かを探しているのかしら?」
「なっ⁉まさか後をつけてたんですか⁉」
「まさか、そんな事しないわよ。ただ私は、人を尾行する練習をしていただけ」
「それはつまり俺の後をつけてたって事でしょう⁉尾行の練習なんかしてどうするんですか⁉」
「将来の役に立つかもしれないでしょう?」
「尾田先輩の将来には、一体どんな青写真が描かれているんですか?」
「あら、聞きたい?」
「いえ、遠慮しときます・・・・・・」
「そう?まあそれはともかく、稲橋君は今、
午前中に居なくなった転校生の山本由乃さんを探し回っているけど、
その子が見つからなくて途方に暮れているのね?」
「だから、どうしていつもいつもこっちの事情を隅々(すみずみ)まで知り尽くしているんですか⁉
もうホントに怖いんですけど!」
「あら、聞きたい?」
「いえ、遠慮しときます・・・・・・」
「そう?ちなみに私はその子がどこに居るのか知らなくもないんだけど、知りたい?」
「そ、そりゃまあ、知っているなら・・・・・・」
俺が絞り出すような声でそう言うと、
尾田先輩は船乗りを海に引きずり込むセイレーンのような妖しい笑みを浮かべながらこう続ける。
「それじゃあ教えてあげなくもないけど、
私も随分稲橋君の為に、色々と有益な情報を提供してあげてるわよねぇ。
しかも、タ・ダ・で」
「そ、それは俺も重々分かってますよ!
この御恩は毎度毎度とてもありがたいと思ってるし、一生涯忘れません!」
「その言葉が本当なら、そろそろ形として返して欲しいわねぇ」
「一体俺にどうしろっていうんですか⁉
俺、特に何の取り柄もないただの男子高校生ですからね⁉」
「あら、そんな事はないと思うわよ?
まあ、どんなお返してをしてもらうかはまおいおい考えて、思いついたらまた言うわ。
それじゃあね」
と言って尾田先輩は立ち上がり、この場を立ち去ろうとしたので、俺は慌てて呼び止める。
「あ、あのっ!それで、彼女、由乃さんはどこに居るんですか⁉」
それを完全に忘れていた様子の尾田先輩は、
「ああ、そうだったわね」
と言って立ち止まり、俺の方に振り向いてこう言った。
「ゴミの焼却場よ」




