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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た5  作者: 椎家 友妻
第三話 彼女の事情と、彼女の素性
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4 由乃、美鈴になつく

 それからしばらくして、沢凪荘の食堂に、ミナ高のセーラー服を着た由乃さんが現れた。

それを見た矢代先輩と沙穂さんが、歓喜の声を上げる。

 「わぁ、よう似合ってるやんか由乃ちゃん」

 「ホント、とっても可愛いわよ♡」

 矢代先輩と沙穂さんが言うからではないけど、ミナ高のセーラー服を着て、

丸ブチ眼鏡をかけてお下げ髪にした由乃さんは確かになかなか可愛かった。

言うなれば、真面目で大人しい文科系美少女という所か。

図書室の受付にこの子が座っていたら、思わず毎日図書室に通いたくなるかもしれない。

とか思いながら由乃さんの事を眺めていると、そんな俺の視線に気づいた由乃さんは、

スッと美鈴の背後に隠れた。

すると美鈴が針を刺すような口調で俺に言った。

 「ちょっと、由乃さんをそんなイヤラシイ目でジロジロ見るのはやめてもらえるかしら?」

 「なっ⁉イヤラシイ目でなんか見てねぇよ!」

 確かに由乃さんをジロジロ見た事は二百歩譲って認めるが、

決して、決して(大事な事なので二回繰り返しますが)イヤラシイ目で見ていた訳じゃあない。

それにイヤラシイ目で見ているのは、美少女大好きエロエロ妄想(もうそう)症候群(しょうこうぐん)の沙穂さんだ。

見ろ、あの今にもよだれを垂らしそうな沙穂さんのゆるみきった顔を。

おそらく頭の中では、俺なんかよりも百倍エロイ妄想が渦巻(うずま)いているに違いない。

そしてその妄想の中で由乃さんをあられもない姿にして、あんな事やこんな事をしているに違いない。

 そんなやりとりの後、俺達は食卓を囲んで朝食を取り、それが済んだ後、由乃さんは

「ごちそうさまでした」

と言って、立ち上がりながらこう続けた。

 「それでは私は部屋に戻りますので、皆さん、学校頑張ってくださいね」

 「ちょっと待ちなさい、あなたも学校へ行くのよ」

 自分の部屋に戻ろうとする由乃さんの右腕を、そう言ってむんずと掴んだのは美鈴だった。

そして掴まれた由乃さんは立ち止まり、気まずそうな表情で振り返りながら言った。

 「いえ、私は、学校へ行くのが苦手なので、遠慮しておきます」

 「そんな理屈で学校へ行かなくていいなら誰も苦労はしないわよ!

さあ、私と一緒に学校へ行くわよ!」

 「いや、でも・・・・・・」

 美鈴が語気を強めて由乃さんを連れて行こうとするが、

それでも由乃さんは気が進まないようなので、見かねた俺は美鈴に声をかけた。

 「まあまあ、そんな無理矢理連れて行こうとする事はないだろ?

由乃さんは、その、前の学校でもあんまり登校してなかったみたいだし」

 それを聞いた矢代先輩は、心配そうな顔で由乃さんに問いかける。

 「もしかしてヨッシー(由乃さんの事のようだ)、は、前の学校でいじめられとったん?」

 それに対して由乃さんは、首を横に振ってこう返す。

 「いじめられていた訳ではないんですが、私はこの通り人と接するのが極端に苦手なので、

できるだけ周りと距離を取るようにしていたら、

自然とクラスで孤立してしまって、そのうち学校に行く事自体も(つら)くなって、

自分の部屋にこもるようになったんです・・・・・・」

 「由乃ちゃんと親しくしていたお友達は居なかったの?」と沙穂さん。

 しかしその問いかけにも由乃さんは首を横に振ってこう返す。

 「双子の姉はとても人気者で友達も沢山(たくさん)居ましたが、

ネクラで陰気(いんき)な性格の私に、友達なんて一人も居ませんでした・・・・・・」

 そう言ってしょんぼりうつむく由乃さん。

が、そんな由乃さんの肩をポンと叩き、美鈴はニッコリ笑ってこう言った。

 「何暗い顔してるの!私はもう由乃さんの友達よ!」

 「み、美鈴さん・・・・・・」

 美鈴の言葉にジーンと感動した様子の由乃さん。

そこに矢代先輩も駆け寄ってこう続ける。

 「ウチももう友達やで!歳はウチの方がイッコ上やけど、仲良くしてな!」

 「え⁉・・・・・・あ、はい!よ、よろしくお願いします矢代先輩(・・)!」

 由乃さん、絶対矢代先輩は自分より年下だと思っていただろうな。

まあ見た目は小学校の高学年くらい(本人には言わないでください)にしか見えないから仕方ないけど。

それはさておき、矢代先輩にも友達と言ってもらえて、由乃さんは嬉しそうだ。

更に沙穂さんも続けてこう言った。

 「ここが由乃ちゃんの新しいお家で、

ここに居る皆は友達であり家族みたいなものなんだから、私とも仲良くしてね♪」

 「沙穂さん・・・・・・」

 沙穂さんの言葉にも感激した様子の由乃さん。

という事はここは俺も、気の利いた事を言っとかないといけないよな?

でもあんまりキザな事を言っても逆にドン引きされるだけなので、俺は遠慮がちに由乃さんに言った。

 「えと、夕べは色々あったけど、それはまあ水に流して、これからよろしくお願いします」

 それに対して由乃さんは、俺に向かってペコリと丁寧にお辞儀をしてこう言った。

 「ごめんなさい、私、度が過ぎてエッチな人はちょっと・・・・・・」

 告白をした訳でもないのにフラれたみたいになってしもうた!

しかも相変わらず誤解されてるし!

しかし周りの人達はその事には何のフォローも入れてはくれず、

由乃さんは美鈴に(うなが)され、ミナ高に向かうべく沢凪荘を出て行った。

何か、由乃さんはすっかり美鈴になついたみたいだな。

海亜グループのお嬢様である理奈(りな)の時もそうだったけど、

美鈴はちょっとひと(くせ)ありそうな女の子にモテるのかもしれない。

それが何故なのかは、よくわからねぇけど。



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