3 彼女は家では下着のようだ
それはともかく、顔面に多大なダメージを負った俺は、
壁に顔をめり込ませたまましばらく動く事ができなくて、
その背後で、美鈴と由乃さんのやりとりが聞こえた。
「ちょっと由乃さん!あんた何ていう格好をしてるのよ⁉」
「あ、その声は美鈴さんですね?おはようございます」
「おはようございますじゃないわよ!
ここは確かにお風呂の脱衣所も兼ねてるけど、どうして鍵もかけずに下着姿でここに居るの⁉」
「あ、すみません。実は私、春香さんの家ではずっと下着姿で家をウロウロしていたので、そのクセが抜けてなくて」
「ダメよそれじゃあ!ここは女の子の方が多いけど、本能むき出しのスケベな男だって居るのよ⁉」
えらい言われようだ。
「た、確かにそうでした。あの人はいきなり私の体に触ってきたし、
ちょっと、いえ、かなりエッチなオーラを感じました」
体じゃなくて肩と言ってください。
「そうでしょう⁉現に今だって――――――」
と、美鈴はここで言葉を切って黙り込む。
どうやら眼鏡を外した由乃さんは周りが見えておらず、
俺に下着姿を見られてしまった事も分かってなくて、
それを本人に伝えるべきかどうか、葛藤しているのだろう。
そして二秒ほどの沈黙の後、美鈴はこう言った。
「とにかく!下着姿で沢凪荘をウロウロするのはダメ!早く自分の部屋に行って制服を着てきなさい!」
「は、はいっ」
由乃さんが返事をすると、ドタドタとその場を立ち去る二人の足音が聞こえた。
どうやら美鈴は、由乃さんが俺に下着姿を見られた事は伏せておく事にしたようだ。
とりあえずは、美鈴に助けられたという事だろうか?
そう思いながら俺はめり込んだ自分の顔を壁から引きはがすと、
由乃さんの後に続いて歩いて行く美鈴が、
こっちに振り返って俺の事を般若の形相でにらんでいる事に気付いた。
そしてその目はこう言っているようだった。
『この事は黙っててあげるから、あんたも余計な事を言うんじゃないわよ!』
それに対し、俺は心の中で
『はい、わかりました』
と返事を返す。
どうやら美鈴はすっかり元の美鈴に戻ったようだ。
いや、むしろ前と比べて凶暴さが増しているようにも思える。
まあ、とりあえずはよしとしよう。うん、よしとしよう・・・・・・。




