3 いつもと違う美鈴
が、
一、二、三、四・・・・・・
五秒経っても何も起こらないので、俺は恐る恐る顔を上げ、
上目遣いに目の前の美鈴の様子をうかがった。
美鈴はすでに、俺達が通う御撫高校のセーラー服に着替えていた。
その美鈴は俺の目の前でやけに礼儀正しく正座をし、顔を真っ赤にして俺から目をそらしている。
あれ?
もしかして、怒っていらっしゃらない?
俺を殴る気もなければ、怒鳴り散らす様子もない。
とりあえず危険はないと分かってホッとしたけど、
それでもさっきのはやっぱり俺が悪いので、
俺は上半身を起こし、改めて美鈴に謝る事にした。
「あ、あの、美鈴、ごめんな?俺、寝ぼけてて、えと、ワザとじゃないんだよ?」
すると美鈴はそんな俺に声を荒げるようすもなく、むしろ消え入るような小さな声でこう返す。
「うん、わかってる・・・・・・」
おいおいどうしたんだ今日の美鈴は?
どっか具合でも悪いのか?
それとも怒りを通り越してもう泣きそうなのか?
そう思いながらハラハラしていると、美鈴は一層小さな声で続けた。
「でも、こういうのは、やっぱり困るから、あんまり、しないで欲しい・・・・・・」
「は、はぁ・・・・・・」
何か、いつもとまるで違う美鈴の反応に、俺は目を丸くしてマヌケな声を上げた。
本当にどうしたんだよ美鈴のヤツ?
何か悪いモンでも食ったのか?
それとも誰かに催眠術でもかけられてるのか?
そんな事を考えていると美鈴は、
「じゃあ私、もう行くから。早く起きて、学校に行く準備をしてよね。
矢代ちゃん先輩を待たせちゃダメよ?」と言い、
「お、おう」
とこれまたマヌケな返事を返す俺を残し、そそくさと俺の部屋から出て行った。
「一体、どうしたんだよ?」
俺は独り言をつぶやきながら、ポリポリと頭をかいた。
すると美鈴が出て行って少しもしないうちに、この沢凪荘の管理人である伊能沙穂さんが、廊下からにゅっと顔を出した。
そしてその顔はやけに怒っており、ズカズカと俺の部屋に入って来たかと思うと、美鈴の代わりに俺のほっぺたに強烈なビンタをお見舞いした。
ぶゎちこぉん!