12 美鈴は同性にモテるタイプ
美鈴は俺の言葉なぞ全く信じる様子もなくそう言い、プイッとソッポを向いて再び由乃さんに声をかける。
「とにかく、こんなスケベな人はほっといて中へどうぞ。
ていうか、あなたはどちら様?
沙穂さんか矢代ちゃん先輩の知り合い?
まさか、稲橋君の関係者ではないわよね?」
その問いかけに由乃さんはうつむいて黙り込んでしまったので、俺が代わりに美鈴に答える。
「その人は今日から沢凪荘に住む事になった、山本由乃さんだよ。
ある事情でミナ高に転校する事になったんだと」
すると美鈴は
「へぇ、そうなんだ」
とあっさり頷き、由乃さんにニッコリとほほ笑んで言った。
「私は沢凪荘の住人の河合美鈴。あなたがこれから通う御撫高校の一年生。
山本さんも一年生?あ、もし私より上級生だったらごめんなさい。
いきなりなれなれしくしゃべっちゃって」
しかし由乃さんは首をフルフル横に振って言った。
「私も河合さんと同じ一年なので大丈夫です。
でも、あの、私、人と接するのが凄く苦手で、
沢凪荘で、他の皆さんと一緒に生活できるのか、凄く不安で・・・・・・」
そう言ってまた泣きそうになる由乃さんに、美鈴は力強く
「大丈夫だよ!」と言ってこう続けた。
「ここに住む人は誰かさんを除いてはとっても面倒見がよくて優しいし、
ちょっとイタズラ好きで困った所もあるけど、誰かさんを除いては皆いい人達だから大丈夫!」
誰かさんというのは俺の事か?
ああん?俺の事なのか?
等とつっかかるとまたしょうもない喧嘩が始まってしまうので、大人な俺はその言葉をグッと飲みこんだ。
するとそんな美鈴の言葉に少しばかり心が動いたのか、由乃さんはポツリと呟くように言った。
「私みたいに不器用で、何をやってもダメな人間でも、受け入れてもらえるでしょうか?」
それに対して美鈴は、これまた力強くこう返す。
「もちろんよ!私達は心から山本さんを歓迎するわよ!これからよろしくね!」
そう言って美鈴が由乃さんに右手を差し出すと、由乃さんはその手にそっと自分の右手を重ねて言った。
「よ、よろしく、お願いします・・・・・・」
かくして心の扉を(美鈴にだけ)ほんの少し開いた由乃さんは、新たな住居となる沢凪荘に足を踏み入れた。
食堂で待ち構えていた春香さんは、
前日から激しい喧嘩を繰り広げた由乃さんと気まずい再会を果たしたが、
沙穂さんや矢代先輩がうまく仲立ちし、すんなり仲直りする事が出来た。
その後は沙穂さんが大急ぎで用意してくれたごちそうに皆で舌鼓を打ち、
由乃さんは口数が少ないながらも、美鈴や矢代先輩と打ち解けたようで、
そんな由乃さんの様子を、春香さんは少し安心したような笑顔を浮かべながら眺めていた。
さっきの事があったからか、美鈴はまた俺にツッケンドンな態度を取るようになったが、
それはある意味元の美鈴に戻ったという事なので、それはそれでよしといしよう。
こっちの方が俺も調子が狂わなくて済むからな。
結局俺と美鈴の距離は縮まらなかったが(別に縮めたかった訳じゃないんだけどね!)、
沢凪荘に新しい入居者が加わる事となり、
ここでの生活に、またちょっとした変化が訪れそうな予感である。
はてさて、この先どうなる事やら。




