10 どこさわってるんですか!
ため息交じりの返事をする俺。
どうやらこの子はなかなかに頑固な性格らしい。
まるで誰かさんみたいだな。
こうなったらある程度実力行使で行くしかないのかもしれない。
そう考えた俺は、山本由乃さんの肩に手をかけて言った。
「とにかく中に入りましょう。あなたの言い分は沢凪荘の中で聞きますから」
するとその瞬間彼女は
「きゃああああっ⁉一体何処を触ってるんですか⁉」
とキンキン声で悲鳴を上げた。
ちなみに何処を触っているのかと問われれば、俺はこう答える。
肩だ。
なので俺はその事を彼女に伝えた。
「肩だよ!そこまで騒ぐ事かよ⁉
あんたがテコでも動こうとしないのが悪いんだろうか!」
俺は思わず声を荒げたが、山本由乃さんも負けないくらいの勢いでこう返す。
「だって嫌なものは嫌なんですもの!
私は何処にも行きたくないし、誰にも会いたくないんです!
もう私の事はほっといてください!」
そう言ってリュックに顔をうずめ、彼女は肩を震わせて泣き出してしまった。
ど、どうしよう、泣かせてしまった。
これってやっぱり、俺のせい?
こういう時はどうすればいいんだ?
全く分からない。頭が真っ白になっちまった。
シクシクと泣き続ける彼女を前に、俺は頭をかきながらその場に立ち尽くす事しかできない。
その姿は何ともマヌケで情けない。
こんな所をあいつに見られたら何て言われるか。と、思ったその時。
キキィッという自転車のブレーキ音がしたかと思うと、俺の背後から声が聞こえた。
「稲橋君?そんな所でどうしたの?」




