7 二人の喧嘩はマジハンパない
何だ?春香さんは彼女を迎えに出るのが嫌?って事はないだろうけど、
何か気まずい事でもあるんだろうか?
なので俺はその辺の所を春香さんに聞いてみた。
「あの、春香さん?まさかとは思いますけど、ここに来る前に、彼女と喧嘩でもしましたか?」
それに対して春香さんはゆっくりと頷き、つぶやくように言葉を続けた。
「今朝、一緒に家を出ようとしたら、あの子がどうしても部屋を出たくないとダダをこねるので、
思わずカッとなってしまって・・・・・・」
「ビンタでもしちゃいましたか?」
「はい・・・・・・馬乗りになってデコピン十五発とビンタ十発をお見舞いしました」
「ちょっとちょっとちょっと⁉女の子相手にそれはやり過ぎじゃないですか⁉
もう虐待の域ですよ⁉」
「ですが前の晩にも言い合いをして、私はあの子に両手両足を十カ所以上噛みつかれていたので・・・・・」
「相手も負けてねぇな!どんだけ激しい喧嘩をしてるんですか!
まるで野生動物の戦いみたいになってますよ⁉」
「あの子は普段大人し過ぎるくらい大人しいんですが、
一度キレると全身全霊でかかってくるので、
こっちも全身全霊でやり返さないと太刀打ちできないんです」
「は、はぁ・・・・・・」
春香さんの言葉に呆れた声を漏らす俺。
本当に、一体どういう関係なんだこの二人は?
本当の家族でもこんなに激しい喧嘩はしないんじゃないのか?
ウチの場合は、姉ちゃんに一方的に虐げられていたし。
まあそれはともかく、彼女があれだけ春香さんから距離をとっていた理由が、
単に初対面の俺を警戒していただけじゃないという事は分かった。
なので俺は深くため息をつき、頭をかきながら立ち上がって言った。
「じゃあ、俺が彼女を呼んできます。
初対面の俺が行ったら余計に逃げ出すかもしれませんが、
それでも今の春香さんよりはマシな気がするので」
それに対して春香さんは本当に申し訳なさそうに、
「お手数かけますが、どうかよろしくお願いします」
と消え入るような声で言って頭を下げた。
そんな春香さんの姿を見て、俺は一層不安が募って来た。
沢凪荘に入居する前からこんな調子で、本当にこの先ここで生活していけるんだろうか?
そう思いながらも俺は玄関の土間で靴を履き、
建てつけの悪い木製の引き戸をガコガコ言わせて開け放ち、すっかり日が暮れて暗くなった外に出た。
さて、山本由乃さんはこの近くに居るんだろうか?
と思いながら辺りを見回してみると、
居た。




