5 転校生の身の上話
「ちなみに筒井さんは、山本さんの身内の方なんですか?」
「いえ、そうではないんですが、遠い親戚みたいなものというか、
まあ、深いかかわりを持った人間です」
「そ、そうなんですか。えと、山本さんは、前の学校ではどんな感じだったんですか?」
「あの様子を見ていただければ分かると思いますが、
元々引っ込み思案で口下手なあの子は、前の学校でも全く友達ができず、
学校にもほとんど行ってなくて、ずっと家に引きこもっていました。
まあ、典型的な登校拒否というやつです」
「そうなんですか。でもどうして、そこまで極端に人と接するのが苦手になったんですか?」
「それは、あの子が育った家庭環境に原因があるのかもしれません。
実はあの子には顔が瓜二つの双子の姉がいるんですが、
こちらは妹と正反対で、社交的で人見知りをする事もなく、
誰とでも仲良くなれるような明るい性格だったんです。
おまけに何をやってもソツなく、いえ、天才的な才能を発揮するタイプで、
勉強やスポーツはもちろん、音楽的感性や芸術的な素質にも恵まれていて、
少し練習すればすぐにコツを掴んで、人並以上の成果を出すんです。
それに対して由乃は不器用というか物覚えが悪いというか、
何をやってもなかなか身にならないタイプで、
同じ事を何度も何度も繰り返し練習して、
やっと少しできるようになるという具合なんです。
なので由乃達の両親はいつの間にか天才肌の姉ばかり可愛がるようになって、
不器用の塊のような由乃には構わなくなってしまって。
その結果由乃はますます自分に自信をなくして、
人と接するのを極端に恐れるようになってしまったんです」
「な、なるほど」
春香さんの言葉に深くうなずく俺。
ウチの姉ちゃんも典型的な天才肌の人間なので、
山本由乃さんの抱く劣等感というやつはよくよく分かった。
そんな中春香さんは続ける。
「そんなある日の事でした。
由乃の姉が突然海外に留学すると言い残し、家を出て行ったんです。
それを知らされていなかった由乃達の両親はひどく取り乱し、
怒り狂い、その反動でますます由乃に冷たく、辛くあたるようになったんです。
学校だけでなく家にも居場所がなくなってしまった由乃を見かねた私は、
由乃を引き取り、私のマンションで一緒に暮らすようになりました。
ですが相変わらず学校には行かず、部屋にこもったまま出てこようとしないので、
私は思い切って由乃を誰も知り合いの居ない田舎の学校に転校させ、
そののどかな環境で暮らせば、少しはあの子も変わってくれるんじゃないかと思い、
こうしてあの子を連れてやって来たのです」
「そ、そうだったんですか。何か、色々大変なんですね」
「すみません、初対面のあなたに、いきなりこんなに重い話を聞かせてしまって。
これだけ言っておいて何ですが、今言った事はどうかあまり気にしないで、
あの子とは普通に接してあげていただければ幸いです。
少し、いえ、相当に人見知りで引っ込み思案でとっつきにくい性格ではあるんですが、
基本的に素直で頑張り屋のとてもいい子なので、
そこは大目に見ていただければありがたいです」
「まあ、それは大丈夫だと思います。
沢凪荘に住んでいるのは皆賑やか過ぎるくらい賑やかで、
誰かを仲間外れにするような人達じゃあないんで、
すぐにとはいかなくても、いずれは打ち解けられると思います」
等と話しているうちに、俺達は沢凪荘の前にたどり着いた。
おもむろに後ろに振り返ると、山本由乃さんは相変わらず五十メートルくらい距離を置きながらもちゃんとついて来ていた。
ついて来てるって事は、一応ここに住む意志はあるんだろうか?
それとも今すぐにでも家に帰りたいんだろうか?
まあ、今の彼女にはその帰る家がないみたいだけど・・・・・・。




