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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た5  作者: 椎家 友妻
第一話 微妙な二人と、衝撃の事実
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9 美鈴の感じ

 放課後になった。

俺と美鈴はバイト先のファミレス『ニューハーフ』に行く為、

自転車に二人乗りをして御撫町のバス停へと向かった。

 朝の教室では彩咲綾音の事でいきまいていた美鈴だが、

今はまたすっかりしおらしくなり、うつむき加減で後ろの荷台に、横向きに腰をおろしている。

そんな美鈴の前で俺はサドルにまたがり、ぼんやりと浮かぶ夕陽の空の下、

カァカァ鳴きながら飛んでいくカラスを眺めながら、キーコキーコと自転車をこいでいる。

 さて、こういう状況を、いいムードと言うんだろうか?

それとも気まずいギクシャクとした雰囲気と言うんだろうか?

う~む、分からん。

美鈴は今、どういう気持ちでこういう感じになっているのだろう?

矢代先輩が言う所の、アタックチャンスというやつなんだろうか?

ここはやはり、南野先輩みたく、

 『好きだ』

 の一言を美鈴にぶつける所なんだろうか?

 いや、でも、ちょっと待て。


 俺は本当に、美鈴の事が好きなんだろうか?


 確かに、正直、嫌いじゃあない。

だけど、何かにつけてすぐ怒るし、

ぎゃあぎゃあうるさいし、

よくわからない所で機嫌が悪くなるし、

黙ってりゃあ可愛いけど、

口を開くと可愛くない事を言うし、

学校ではしっかり者で通ってるみたいだけど、

沢凪荘では割と(というか大概(たいがい))、

食堂でゴロゴロしながらテレビ見てるかマンガ読んでるかだし・・・・・・

こうやって考えてみると、俺は美鈴の事を

『ぎゃあぎゃあうるさいヤツだなぁ』とか

『いつもグウタラなヤツだなぁ』

とか思う事はあっても、

『そんな美鈴が好きだ!』

と、ハッキリ感じる事はないような気がする。

そりゃあ、この前のパーティーの時は無我夢中で美鈴を助けはしたけど、

それは人間の本能というか、ちょっと正義感の強い人間ならそうするでしょう?

 あの時俺の姉ちゃんも、人を好きになるっていう事がよく分からないって言ってたけど、

今ならあの時の姉ちゃんの気持ちがよく分かる。

この辺は姉弟(きょうだい)ゆえの感覚なんだろうか。

 とにかく、このままじゃあ何ともモヤモヤして変な感じなので、

俺はその辺の所を、美鈴に直接聞いてみる事にした。

さて、こういう場合はどういう聞き方が適切なんだろう?

 『美鈴、俺の事、どう思ってんの?』

は、直接的過ぎるし、何か(えら)そうでダメだ。

 『美鈴、俺に、ときめいてんの?』

アホか!

美鈴でなくともアホかって言いたくなるわ!

これもダメだ!

 『この状況における美鈴の心情を、四十字以内で説明せよ』

国語のテストか!

ますますダメだわ!

 いやー、聞き方って難しいな!

特にこういうデリケートな気持ちを(たず)ねる時はどう聞けばいいのか分かんねぇよ!

もういい!

ゴチャゴチャ考えても仕方がない!

今の気持ちをそのまま言葉にしよう!

 と、いう訳で、俺は今の気持ちをそのまま言葉にしてみた。

それが、これだった。


 「美鈴、最近、どんな感じだ?」


 何だよこのフワッとし過ぎな質問は⁉

自分で言っておきながらビックリだわ!

どんな感じってどんな感じだよ⁉

『う~ん、そうだなぁ、以前はあんな感じだったけど、最近はこんな感じ。

いや、そんな感じのような気もするなぁ』

バカか⁉

何が聞きたいんだ俺は⁉

こんなんじゃあ美鈴に白い目で見られるのがオチだろ!

できるものならこのまま自転車ごと穴に飛び込みてぇわ!

 と、半ばヤケクソな気持ちになっていると、

しかし背後の美鈴からは、こんな答えが返ってきた。

 「自分でも、よく分からない・・・・・・何か、変な感じ。

モヤモヤするような、チクチクするような、

今までに感じた事のない気持ちが、今の私の心の中に、(ただよ)ってるの」

 おお、何か、俺のフワッとし過ぎな質問に、ちゃんと美鈴は答えてくれたぞ。

言ってる事はよく分からないけど、

それが今の美鈴の気持ちなんだという事は、

その(しぼ)り出すような話し方から感じ取れた。

 そうか、美鈴のヤツも、自分の気持ちがよく分からないのか。

分からないのなら、今は無理に分かろうとしなくてもいいのかもしれない。

うん、しばらくはそっとしておこう。



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