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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た5  作者: 椎家 友妻
第一話 微妙な二人と、衝撃の事実
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8 ここからは尾田先輩のターン

 その声の方に顔を向ける俺と南野先輩。

するとそこに、澄み切った夜空のように深く黒い髪を背中までのばした、

美貌(びぼう)と知性をそのまま人の形で表現したような女子生徒が現れた。

 ミナ高三代美女の一人にして新聞部部長、

更には『裏の生徒会長』という通り名もある、尾田(おだ)清子(きよこ)先輩だ。

 「はぅあっ⁉」

 「かっはぁっ⁉」

 突然の尾田先輩の登場に、内臓が飛び出るほどに驚く俺と南野先輩。

やはり尾田先輩に対する苦手意識は、俺と南野先輩は似たものがあるのかもしれない。

それはともかく、その尾田先輩に南野先輩は上ずった声で尋ねた。

 「お、尾田さん⁉いつからそこに⁉」

 南野先輩はいかにもまずい話を聞かれてしまったという顔をしている。

それに対して尾田先輩はいつになく朗らかな笑みを浮かべながらこう返す。

 「あら、たった今よ。たまたま近くを通りかかっただけ。

決して、南野君が稲橋君に連れられて屋上に行くのを見かけたから、

これは何か面白い話が聞けそうだと思って後をつけて来た訳じゃないのよ?」

 絶対そう思って後をつけて来たな。

俺は今までの経験でそう直感したが、それは南野先輩も同じみたいだった。

そんな中南野先輩は、自分への関心をそらそうとするように尾田先輩に尋ねる。

 「そ、それはそれでいいんだけど、尾田さんがさっき言ってた、こいつのお目当ての女の子ってのは、本当に涼美じゃないの?」

 それに対して尾田先輩は、俺の方をチラッと見やって言った。

 「ええ、そうみたいよ。

稲橋君はミナ高三代美女の一人で、彼氏も居るお涼じゃなくて、

もっと身近に居る女の子の事が気になっているんだもの」

 「そ、そうなんだ・・・・・・」

 尾田先輩の言葉に、

ホッとしたような、拍子抜(ひょうしぬ)けしたような、

何とも言えない表情を浮かべる南野先輩。

それに対して俺は、

尾田先輩の言葉が恥ずかしいような、疑わしいような、

南野先輩とは違う意味で何とも言えない表情を浮かべている事だろう。

 そんな中尾田先輩はさも愉快(ゆかい)そうな笑みを浮かべて俺に言った。

 「それで、稲橋君はあの(・・)()に告白する為に、南野君にその方法をアドバイスしてもらおうと、そう考えたのよね?」

 それに対して俺は咄嗟(とっさ)に両手をブンブン横に振ってこう返す。

 「い、いや、そんな具体的な話じゃなくて、

その、南野先輩が田宮先輩と付き合うようになったキッカケはどんな感じだったのかなって、

ちょっと気になったんです。

南野先輩って、ずっと田宮先輩一筋だったんですね」

 と、俺がそう言った、その時だった。

尾田先輩の左の眉がピクンと動いたかと思うと、全身からドス黒いオーラがにじみ出したような気がした。

表情こそ笑みを浮かべていはいるけど、その内面は怒りで燃え上がっているようにも見えて、それがかえって恐ろしかった。

そんな尾田先輩にギョッとした俺が、南野先輩の方に目をやると、南野先輩はさっきよりもさらに動揺している。

 あれ?

これはもしかして、地雷を踏んでしまったというやつなんだろうか?

南野先輩と尾田先輩の間には、以前何かがあったという事なんだろうか?

そんな事を考える俺に対する、南野先輩の言葉はこうだった。

 「そ、そう、だよ」

 するとそれを聞いた尾田先輩のドス黒いオーラが、さっきよりも五倍増しくらいに(ふく)れ上がり、そのオーラで尾田さんの長い黒髪がユラユラと浮き上がりそうな程だった。

こ、怖いぞ!

一体どうしたんだ尾田先輩は?

いつもクールで余裕にあふれている尾田先輩が、こんなに感情をむき出しにする所を見るのは初めてだ。

そんな尾田先輩に対し、俺はこう問いかけずにはいられなかった。

 「あ、あの、どうしたんですか尾田先輩?何か、怒ってます?」

 そんな俺の間の抜けた質問に対し、尾田先輩はひとつ息を吐き、マグマのように煮え立つ怒りを孕みながらも、決して理性と気品は失わない口調でこう答えた。


 「罪多き 男懲()らせと肌清く 黒髪長く 作られし我」

 

 これは確か、情熱と魂の女流歌人、与謝野(よさの)晶子(あきこ)の歌のひとつだったような気がする。

ちゃんとした意味は知らないけど、その字面(じづら)から意味は何となく察しがつく。

これはまさに、今の尾田先輩の心情をドンピシャで表現した歌なんだろう。

ちなみにそれを聞いた南野先輩はその歌の矢が心の臓に突き刺さったらしく、

今にも尻餅をつきそうなくらいたじろぎながら声を絞り出した。

 「いや、でも、あれは、結局何もなかった訳だし、

罪というにはあまりにも大げさな表現なんじゃないかな?」

 それに対して尾田先輩は、石化させた言葉を南野先輩の頭にぶつけるようにこう返す。

 「私の清く気高い心を傷つけ、恥をかかせたというだけで、

それはひとつの王国を滅ぼすよりも罪深い事よ。この罪は一生消える事はないでしょう」

 尾田先輩はそこまで言うと黒髪をふわりとひるがえして(きびす)を返し、屋上から去って行った。

その後ろ姿は優雅で気品に満ちあふれていたが、

それ以上声をかける事を許されないような、怒りに満ちたオーラが(ただよ)っていた。

 その姿が見えなくなった所で、俺は南野先輩におずおずと問いかけた。

 「あ、あの、南野先輩と尾田先輩の間に、一体何があったんですか?」 

 しかし南野先輩はそれには答えず、俺の胸ぐらを乱暴に掴み、怒りに満ちた表情でこう言った。

 「いいか、今あった事は誰にも言うなよ?特に涼美にはな!」

 「は、はぁ・・・・・・」

 俺がため息とも返事ともつかないような声を出すと、南野先輩は俺を突き飛ばすように胸ぐらを放し、

そのままズカズカとした足取りで屋上から去って行った。

誰かに何かを言おうにも、あの二人の間に何があったのか、俺は全く知らないんだけど・・・・・・。

まあ、何かあったんだろうな。

それが何なのか、とても聞く度胸なないけど。

 そんな事を考えていると、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 キーンコーンカーンコーン。



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