7 あの人に相談
と、いう訳でその日の昼休み、俺はあの人に相談する為にあの人の居る三年の教室に出向き、
頭を下げて屋上まで一緒に来てもらった。
それではご紹介しましょう。
ミナ高三代美女の一人である田宮涼美先輩の彼氏である、南野響先輩です。
学年は田宮先輩と同じ三年生で、俺より背が高く、まるで女の子のように整っていてキレイな顔立ちをしている。
尾田先輩いわく、そう言われるのが南野先輩は嫌らしいが。
ちなみに南野先輩は、これまでに不幸な誤解が重なるなどして、俺にあまり良い印象は持っていない。
むしろ嫌われていると言っても過言ではないだろう。
本来ならば、そんな俺が南野先輩に何か相談するというのは筋違いな話なのかも知れないけど、
それでも今の俺には南野先輩くらいしか、この事を相談できる相手が居ないのだ。
なので俺は下手な愛想笑いなぞを浮かべながら、露骨に俺を警戒している南野先輩に向かって口を開いた。
「あの、いきなりこんな所に呼び出したりしてすみません。
えと、実は、南野先輩に相談したい事があるんです」
すると南野先輩の右の眉がピクンと動き、心なしかこめかみに青筋が浮き出た。
そして俺をまるで親の敵のような目で睨みつけながら言った。
「何だよ?てめぇまさか、いよいよ涼美を賭けて俺と決闘したいだなんて言うんじゃないだろうな?
そうか、分かったよ。その決闘、受けてやるよ!」
そう、この人は、俺が南野先輩の彼女である田宮先輩を狙っており、隙あらば自分の彼女にしてしまおうと企んでいると誤解なさっているのだ。
確かに田宮先輩はミナ高三大美女に数えられるほどの超美少女。
おまけにミナ高バレー部のスーパーエースで、成績も優秀。
性格は爽やかで面倒見がよく、男子だけではなく女子のファンも非常に多い(美鈴もその一人だったりする)。
そんな田宮先輩だから、俺でなくともその辺の男子なら彼女に憧れるのは何も不自然な事じゃないんだけど、南野先輩はどういう訳か、特に俺の事を目の敵にしているのだ。
まあ、あんな事(第二巻おまけドラマ参照)があったので、仕方ないのかも知れないが・・・・・・。
けど、あれは完全な誤解だし、田宮先輩を南野先輩から奪い、
自分の彼女にしてやろうなんて考えは本当にこれっぽっちもありゃしない俺は、
両手と首を全力で左右にブンブン振りながら答えた。
「ち、違いますよ!前にも言いましたけど、
俺は南野先輩から田宮先輩を横取りしようとなんかしてませんし、
ましてや彼女を賭けて決闘だなんてとんでもないですよ!」
「ああ⁉じゃあどうして俺をここに呼び出したんだよ⁉」
南野先輩が怒りながらも一応聞いてくれたので、
俺はひとつ深呼吸をし、おごそかな口調で口を開いた。
「実はですね、南野先輩にお聞きしたい事があるんです」
「な、何だよ改まって?一体何を聞きたいってんだよ?」
「あの、南野先輩って、田宮先輩の家に下宿しているらしいですね?」
「な、何でそれをお前が知ってるんだよ?」
「えと、以前尾田先輩が教えてくれました」
「そ、そうか・・・・・・」
尾田先輩の名前を聞いて顔を引きつらせる南野先輩。
もしかしてこの人も尾田先輩の事が苦手なのだろうか?
まあそれは今は置いといて、俺は話を続けた。
「それで、あの、いつごろから田宮先輩の事を、ハッキリ好きだって意識するようになったんですか?」
「は?はぁっ⁉何でそんな事をお前に言わなきゃなんねぇんだよ⁉」
「いや、あの、参考までに聞きたいと言うか、
俺、人を好きになるっていうのがイマイチよく分からなくて、
南野先輩なら、そういうのが分かるのかなと思って」
俺がそう言うと、南野先輩は腕組みをして険しい顔になり、
自分の感情を絞り出すように言葉を続けた。
「いや、別に、これといったキッカケがあった訳じゃねぇけど、
気がついたら好きになってたと言うか、好きになってた自分に突然気が付くというか、
だあああっ!何を言わせるんだよお前は⁉」
「じゃ、じゃあもうひとつだけ聞きたいんですけど、
南野先輩と田宮先輩が正式に付き合うようになったのって、
やっぱりちゃんとどっちかが告白とかしたんですか?」
「何でそこまで暴露しなくちゃいけぇんだよ⁉お前は尾田さんか⁉」
「い、いや、そうじゃないんですけど、これは大事な事なんです!
今後の俺の人生を左右するほどに!」
俺が両拳を握って南野先輩に詰め寄ると、
南野先輩は気圧されたようにたじろぎ、ぽつりぽつりとつぶやくように言った。
「ま、まあ、詳しい事は言えないけど、それはそれは色々あった末(リバースガール参照)に、
俺の方から、告白、したんだよ」
「何て言って告白したんですか?」
「『好きだ』って」
「・・・・・・それだけ、ですか?」
「・・・・・・それだけ、だよ」
「・・・・・・そういう、ものですか」
「・・・・・・そういう、もんなんだよ。
実際に好きなんだからそれ以上言いようがないだろ。
っていうか何が目的でこんな事聞くんだよ⁉
やっぱりお前、どうすれば涼美を口説けるのかを考えてるんだろ⁉」
「ち、違いますよ!田宮先輩じゃなくて、その、ゴニョゴニョ・・・・・・」
と、俺がゴニョゴニョ言っていた、その時だった。
俺の背後からやにわに(・・・・)声がした。
「そうよ、稲橋君のお目当てはお涼じゃなくて、また別の女の子だもの」




