1 妖精
小鳥が鳴いていた。
風も吹いている。
その風を存分に味わうように、緑豊かな木々がサワサワと葉を揺らす。
木の枝から漏れる太陽の光が、遠慮がちに森の絨毯を照らす。
その絨毯にたたずむ乙女が一人。
背中から蝶のように優雅で愛らしい羽根を生やし、
色とりどりの花に包まれたドレスを身にまとい、
まばゆいまでの金色の髪を腰のあたりまでたらしている。
肌は雪よりも白く、瞳は澄み渡る空よりも青い。
彼女は、妖精か?
例えそうでないとしても、そうとしか表現のしようがない。
彼女は、妖精だ。
そんな彼女はどこか物悲しい眼差しを、目の前の大木に向けている。
そして触れれば溶けて消えてしまいそうな華奢な両手を胸の前で組み、
この森全てに響かせるように、歌う事を始めた。
その声は銀の竪琴よりも流麗で、森に響く小鳥のさえずりよりも軽やかで、儚い。
歌の言葉はわからないが、その響きは森全体にゆっくりと溶け込み、
木や、
草や、
鳥や、
虫や、
風や、
花や、
川や、
土は、
その歌と調和するように、それぞれの音を奏で出す。
それはまるで、森と妖精の狂想曲。
その心地よい調べが私の心を絡め取り、
私はまるで何の抵抗もなく、
妖精の美貌と、歌と、魂の虜となる。
私はゆっくりと、しかし一刻も早く彼女に触れたいという一心で、彼女の元へ歩み寄る。
彼女は大木を見上げ、私には気づかないまま歌い続けている。
そんな彼女に私はゆっくりと手を伸ばす。
そしてその透き通るような肌に触れた瞬間――――――