表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/64

第四十六話 済、科学の道に潜入

「肥後さん、この間は情報頂きありがとうございました、青山です。諸般の事情で『科学の道』に潜入することになったのですが、最近ってどこで活動してますか?実は最近こんなことがありまして……。」


 済は肥後にメッセージを送り、これまで吉井、杉永と調べてきたサークル及びMASKについて話した。


「なるほどそれは興味深い。マルチ商法、自己啓発セミナー、カルト教団の三位一体説ですか。調査応援しますよ。科学の道の本部は高田馬場というか、下落合にありましてね。高田馬場駅からさかえ通りに入って、神田川を渡ったところです。僕も一回しか行ったことないんですけどね。何で知ってるかというと、別の用事であのあたりに行った時にたまたま見かけたんです。実は科学の道本部の隣のビル、元『世界文明共同体党』の本部が入ってたんですよ。ほら、昔『地獄の火の中に投げ込むものである!』とか『腹を切って死ぬべきである!』とか言いながら選挙に出てたお爺さんがいたでしょう。」

「あーあの、正吉イエスですか!?」

「それですそれ!数年前に亡くなっちゃいましたけどね。僕、あの人の勉強会に通ってたんですけど、普段は優しいお爺ちゃんだったから結構ファン多かったんですけどね。いやー、惜しい人を亡くしました。あ、ちなみに亡くなったから言うわけでもないんですけど、ここだけの話、正吉イエスの資金源は米軍だったらしいです。沖縄に土地持ってて、そこが米軍の基地になってるとか。」


「正吉イエス」というのはいわゆる泡沫候補で、真っ黄色の背景に細かい字がびっしり書かれた選挙ポスター、過激な発言をしまくる政見放送や演説で妙な人気がある人物だった。泡沫候補としては建設業社長の「徳川政二家康」や貿易会社社長の「モス麻布十番」と並ぶ知名度があったと思う。残念ながら一度も当選したことがないが……。正しい読み方は「マサヨシ」なのだが、ネット民からは「マサキチ」と呼ばれ親しまれていた。経営者である他の二名とは異なり、正吉イエスの資金源は謎に包まれていたが、まさか米軍だったとは。本当かどうかは分からないが、こんな話がポンポン飛び出すあたり、上には上がいるものだと思う。


 済は礼を言い、早速次の週末、科学の道本部へ行ってみることにした。


 ◇


 土曜日の昼、済は高田馬場にいた。高田馬場は中野から一駅で、たまにBIGBOXで買い物をしに来ていたのだが、まさか科学の道本部がこんな近くにあるとは思わなかった。大事なものは身近にあるものだ。という程大事でもないが……。


 高田馬場駅を出てすぐ、ガードと信用金庫に挟まれた「さかえ通り」と大書されたゲートをくぐる。学生ローンや居酒屋を通り過ぎたところでラーメンを食べ、昼食とした。さらに少し行ったところで右に折れる細い道があり、そこを進むと神田川を渡る橋に出る。周囲はさかえ通りとはうってかわり、うら寂しい住宅街だ。そのまま進むと洋食屋や焼肉屋が並ぶ場所に出た。地図上はこのあたりのはずだ。周囲を見回すと……あった。


 そのビルは五階建てで、一階中央に入り口があり、その上に「科学の道本部」と掘られた御影石の看板がかかっている。建物はコンクリートの打ちっぱなしで、良く言えばシンプルでスタイリッシュだ。正面から見たところ、窓が中央入り口の上に連なっており、各階に一つずつしかないように見えるのが気になった。いずれにしてもただのビルで、言われなければこれが宗教団体の本部とは気付かないだろう。巨大なドームの周りにサイロのような塔が連なっている方南町の仏教系団体や、天守閣付きの城がそびえ立つ野田市の団体に比べると随分質素なものだ。これまで見たところでは、大久保のサイエンス・ムーブメントや、浅草のGRA本部のスケールをぐっと小さくしたような感じだ。


 それにしても、こんなところで勧誘が捗るのだろうか?人通りがほとんどないが……。いらぬ心配をしながら入り口の脇に目をやると「無料カウンセリング実施中」というこれまた控えめなチラシが貼られている。「実施中」と言われても、大久保駅前でティッシュ配り並にチラシを配っているサイエンス・ムーブメントとは違い、こっちは他に誰もおらず入りづらい。とはいえ仕方ない、山崎と恭子さんのためだ。


 済は腹を括り、ビルの中へ入ってみることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ