おかしな男に話しかけられる
私は退院後、週一で検査のため、例の病院へ通っている。
今日は、診察待ちの人が多く、待合室で座って順番が来るのを待っていた。
待合室は、当然スマホなどは禁止、二人がけの長椅子が壁際に2つずつ並んでいる、狭い部屋だ。
やることもなくボーっと座っていると、男が一人、入ってきた。
「……隣いいですか?」
よその席は埋まっていて、たまたま私の隣が一人分空いていたので、その人が座りにきた。
「……どうぞ」
断る理由もないので、気持ち端へ詰めて席を譲る。
「ありがとう」
何気なくお礼を言って、座ってきた男。
「僕は花粉症が酷くてね、鼻が止まらない」
「はぁ……大変ですね」
男は、聞いてもいないのに話を始めた。
言ってる間も、男は鼻をズビズビ言わして、辛そうだ。
「あなたは?見たところ花粉症でもなさそうですし」
そして、不躾にも人の症状を聞いてくる。
「私は術後の経過を見てもらいに」
「なるほど、辛かったでしょう」
「ええ、まあ」
実際、手術自体は全身麻酔だったから寝て起きたら終わっていたが、その後、39度の熱に、全身の痛み、特に鼻と頭痛がひどくて、3日は意識が朦朧として、歩くのもしんどかった。
もう2度と嫌だと思うには、十分な辛さだ。
「僕も手術したらなおるかな?ほら、あるでしょ?レーザー治療」
聞いたことはある。
「分かりませんが、それでなおるならやった方がいいですよね」
「ね、あー、早く楽になりたいな〜」
「12番さん‼︎」
「あっ、私だ」
「早かったですね、では、僕はもうちょいかな」
「はい、では、」
「ええ、また」
また。
があるかはわからないが、悪い人な気はしなかったので、愛想はよく意識して、別れる。
当然、診察が終わって出てきたときには、待合室に男の姿はなかった。