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青春にリバーブを。  作者: 夜乃街
2/2

入学


「それじゃあ、カメラのほう向いて!...ほぉら、そんなに固まった表情しないで、笑って!」


ハンチング帽子に無精髭。おまけに丸メガネをかけた、絵に描いたように典型的な風貌をしたカメラマンが中学の卒業式の時と真逆に僕等の緊張を解こうとする。


諦め気味なカメラマンは参ったなぁとシャッターを切るカウントを始める。


「撮りまーす。はいっ!チーズ」


パシャッ


中学を卒業した時と同じフラッシュに面食らわせられた訳だが、何故か今はあの時と違う心持ちな気がした。


新鮮というか、なんと言うか。


実家から八重までは電車で5駅程度。地元と違って八重は割と栄えているので、地方から新高校生が集まってくるとは思うがやはり心的な距離感が遠く感じてしまう。


「...お前、緊張しすぎな」


新しい環境という名のメデューサーに睨まれ石化してしまった僕を優しく砕くように、右横の少年は僕に声を掛ける。


「...おう」


横に新が居たことを忘れていた。そうか、俺ら、また同じクラスだったんだっけ。


「はい、それじゃあ終わりです。お疲れ様でした!」


カメラマンは緊張で固まった僕等に指示をした。


「これからどうするんだっけ?」


「ショートホームルームだろ、向井(むかい)先生。俺らの担任の。ほら、あっちの中庭のとこ」


新が指差した先には、明らかに着慣れた感のない制服に身を包んだ僕等と同じ青い顔をした少年少女が集まっていた。なぜだろう。先ほどまでの張り詰めた緊張の網が少し解けるような、そんな気がした。


僕と新はそこへ吸い込まれるように歩みを進めていく。


「君達、名前は?」


いかにも若い男性といった爽やかな感じの大人が僕に声をかけてくる。確かこの人が向井先生だっけ。


「2組の七草と遠坂です」


「はい、14番の遠坂 時雨くん、15番の七草 新くんね。ここから順番に並んでもらっているから場所についてもらってもいいかな」


「わかりました。ありがとうございます」


感じのいい人だな。怖い人ではなさそうだ。


向井先生の指示通り、僕らは自分らのポジションに着いた。知らない人ばかりだが、新が居れば十分だろう。あまり孤立した感じは持たなかった。


「それじゃあ、みんな集まったかな」


そうこう考えているうちにおおよそ集まったようだ。


「これから1年間、1年2組で君たちの担任を持つことになった向井です。よろしくお願いします」


僕等は彼の挨拶に応えるように拍手をした。年上なのに全く偉そうなそぶりを見せない、良い意味で腰が低いのがすごく好印象だ。


「それじゃあ次回の登校日は4月11日のオリエンテーション。集合する時間と教室は今日貰った封筒の中のプリントに入ってあると思うから、各自確認しておいてね。入学式お疲れ様でした!帰宅する際は十分気を付けるようにね。それじゃ、解散!」


こうして僕等は帰路に着いた。


「なんか、今日1日でどっと疲れた気がする」


なんとなく口から出た言葉を新にぶつけてみる。


「そうだな、いよいよって感じ」


「そういえば、新はバスケ続けるの?」


そう、高校にも部活動というものが存在する。新は中学時代バスケ部に所属していて、全国大会にレギュラーメンバーとして選ばれ出場する程だ。


「進学との兼ね合いもあるけど、多分続けるよ」


そうだろうな。あれ程練習に明け暮れていたのだし、高校時代にもやって当たり前だろう。


「お前はどうする?吹奏楽続けるのか?」


僕は中学時代に吹奏楽部に所属していた。そこまで強豪という訳ではなかったし、総部員数も15名程度と規模が小さかった。花牟礼は地方から生徒が集まってくるだけあって規模は大きく、レベルも高いだろう。正直自分の技術が追いついていくのかどうか不安である。


「正直、かなり迷ってる」


「そうか」


いつの間にか僕等は八重駅の正面入り口を抜け、改札の前まで差し掛かっていた。


「やってみるのもいいんじゃないか?」


先に改札を抜けた新が僕の方を振り返って告げる。


「チャレンジするのも大事だぞ。帰宅部なんて勿体ないだろ。モテねーぞ」


モテる、か。中学時代にそんなこと、意識したこともなかったなそういや。


3番線ホームへの階段を登り、電車を待つ。


「とりあえず、オリエンテーションで部活動紹介見てから考えるわ」


「そうやな、そうしなされ」


列車がゆっくりとホームに差し掛かり、停車する。


流石に平日のこの時間帯なので人は少ない。


スカスカの電車の雰囲気が、今日は少し重くも軽くも感じるのであった。




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