プロローグ -卒業-
「それじゃあ、カメラのほう向いて!ほ〜らそこそこ!はしゃいで台から落ちないように!落ちたら怪我するぞ!」
ハンチング帽子に無精髭。おまけに丸メガネをかけた、絵に描いたように典型的な風貌をしたカメラマンがはしゃいでいる僕等を制そうとする。が、浮かれ気分な僕等は鎮まる訳もなく。
諦め気味なカメラマンは参ったなぁとシャッターを切るカウントを始める。
「撮りまーす。はいっ!チーズ」
パシャッ
✴︎
「遠坂、卒業おめでとう」
突然こちらに向かって無垢な笑顔を飛ばす僕と同じくらいの背丈の少年が、手を振りながらこちらへ迫ってくる。
「新、ありがとう」
僕は中学に入学してからずっと呼び慣れた彼の名前を口にする。そう。彼は 七草 新。中学1,2年で同じクラスとなり、出席番号が近かったことから中学時代で一番仲が良かった奴だ。
「お前、4組はもう終わったのか」
そう。中学3年ではこいつと同じクラスではなかったのだ。
「ああ、終わったよ。もう皆帰り始めてるし、俺らも帰るか」
担任から貰った卒業証書を片手に僕等は会場を出た。
自動ドアを抜けたところで彼は突然振り返り
「時雨くん、お別れだねえ。高校行っても頑張れよ、ってか」
と、いつものお粗末な泣き真似を添えてからかってきた。
「...どうせ同じ高校だろ」
「お?そうだったっけ」
そう。僕等は晴れて4月7日から八重市の花牟礼高校に進学する。新は受験勉強を経て、そして僕は高校推薦である。人並みの偏差値はあるそこそこの高校である。
「もうちょっとしたら始まる高校生活って、何があるかわかんなくね」
バス停に差し掛かると、先程とは打って変わった真面目な口調で新が切り出す。
「そりゃみんなそうだよ」
僕に取っても未知のものだ。青春時代なんていうけれど。
あ、ちょうどバスが来た。プシューッという音を立てて僕らの前にちょこんと停車する。
「まぁ、なんつーか。高校行っても仲良くしてくれよ」
停車した時の音に紛れるように、その音で恥ずかしさを隠すように、目線を逸らしたままの新は僕に確かにそう告げた。
「もちろん」
バスが発車する。
高校時代行き。