3話:男のぼく、女のぼく
水球部の練習を一時間ほど見学してぼくは家路についた
短期留学でもやっぱり他校の生徒になると学ぶことは多い
三校の水球部のレベルが高いのかセントフランシスのレベルが低いのか
いずれにしても学校によって同じスポーツをしていても内容が全然違った
出しゃばり、自惚れ、そんな言葉で怒られるかもしれないが、ぼくがあのチームに入れば今よりずっと良いチームにできる
それだけは確信してしまった
でもぼくは男だからなあ
一緒には練習はできないよな
間違っても女子の水着は来たくないし
そういえばこのセーラ服だって不思議だよな
いくらぼくが男としては華奢だとしてもなんで女物の服が入るんだろう
普通に考えればウエストなんか絶対に入らないよな
やっぱり、特別製
そんな訳ないよな
駄目だ、いくら考えてもループする
説明がつく理由なんて出てくるわけもない
やっぱり、家に帰って部屋から調べるしかない
「ただいまあ」
「おかえりい」
姉さんの声だ
ぼくより先に帰ってたんだな
ぼくは姉さんに捕まらない様に急いで自分の部屋に向かう
「ううん、どこを見ても女の部屋だ」
昨日までぼくが使っていた部屋なのにいくら探しても男のぼくの痕跡も見つからない
自分のパソコンを開いてお宝映像も確認したんだが全部なくなってる
コツコツと集めたコレクションが全部消えたのは地味にダメージだ
それならばと、中学の卒業アルバムを開き写真を見る
クラスの集合写真の皆は変わらない
いや、一人だけ違う
山田だ
あいつは、3年の夏休みに事故で死んでしまった
だから、集合写真も右上に顔写真で参加していたはずだ
でも、この集合写真ではちゃんとみんなの中で写っている
このアルバムでは、山田は中学時代には死んでいないんだ
そして俺は女の姿で写真に写っている
なんだろう、卒業アルバムにやたらぼくの写真が写っている
ぼくの記憶では集合写真以外で写っていた覚えがない
でもこのアルバムの中では体育祭、文化祭、修学旅行にクラスでお弁当を食べている写真
やたらと写っている
性別が変わっただけではなく過去の自分の世界がぼくの記憶のものとは異なっている
そういえば水球の選手としてもだ
たしかに三校の水球部は強かったけど、そこでぼくは他校の生徒の憧れになるほど凄い選手ではなかった
やっぱり、単に自分以外からはぼくが女に見えるというだけが違う世界ではない
「純、いつまで部屋に引きこもってるの」
「姉さん、部屋に入るときはノックぐらいしてよ」
いきなりの姉さんの襲撃だ
「なに水臭い事いってるの
それに早くしないと裕子ちゃんがしびれを切らすよ
今日はお泊りでパジャマパーティーなんだって?」
泊る、パジャマパーティー....
いや、それはまずいでしょう
それだと、裕子と同じ部屋でパジャマ着て、話して、一緒に寝ることになる
「純、言ってるのにちっとも動かない
仕方がないねえ
お姉さんが準備しちゃうぞ」
姉さんはぼくの知らないカバンを取り出しクローゼットや引き出しから勝手に服を取り出し荷造りを始める
「パタパタパタパタ」
足音と共に母が入ってくる
「純、これお菓子だから
裕子ちゃんのお母さんによろしくねえ
チャンといい子で過ごすのよ」
母さんまで、完全に外堀は埋められ裕子の家に行かない選択は無くなる
ぼくは覚悟を決めた
「ピンポン」
「純君、いらっしゃい。ちゃんと来てくれたんだ」
満面の笑みを浮かべて裕子がドアを開けてくれる
「裕子ちゃん、今日はお招きいただきありがとう
これ、母さんから、つまらないものだけど」
「いらっしゃい、純君
まあまあ、気を使わなくても良いのに
立ち話もなんだから、入って、入って」
裕子のお母さんに招かれてリビングに向かう
リビングに入ると裕子がスマホをかざし、肩を組み、頬を寄せてくる
「純君、スマホ見て
撮るよ、はいチーズ」
「カシャカシャ」
「きゃあ、純君、やっぱり可愛い
ねえ、見て、見て」
裕子がスマホの写真を見せてくれる
「ちょっと、裕子、スマホ貸して」
ぼくはその写真を確認するために裕子からスマホを取り上げる
そこには確かに今さっきポーズを取った二人が写っている
でも、ぼくが違う
いや、きっとぼくだろう
服も一緒だし
でも裕子と一緒に写っているのはボーイッシュな可愛い女の子だ
顔は確かにぼくの面影がある
でも、そこに写っているのは確かに女の子なんだ
「純君、どうしたの
自分が可愛すぎてビックリしちゃったの」
ぼくは裕子に返事もせずに写真を見つめ続ける
「もう、純君、その写真純君のスマホに転送するから
ほら、スマホだして」
ぼくと裕子がスマホを振るとさっきの写真が自分のスマホに転送される
「ねえ、ねえ、そんなに私が撮ったその写真が気に入ったの
もしかして、裕子は名カメラマンだったりして.....」
裕子が色々と話しかけてくるがぼくの眼はその写真にくぎ付けだ
幸い、リビングに大きな姿見があったので鏡に映った自分と写真の自分を交互に見る
鏡の中では男のぼくがいる
女物の服を戸惑い気味に着ているぼくだ
写真の中には女のぼくがいる
着ている服は同じだが凄く似合ってる
いかにも10代の、大倫の花が咲く前の蕾と言った風情だが、将来は凄い美女になる予感を与える高校生だ
「どうしたの、2人とも立ったままで
お茶の支度をしたから2人とも座ったら」
おばさんに促されて、ソファーに座るとそこからは小学校、中学校時代の話題になる
やっぱり、ぼくの記憶にない話や、記憶に在ってもぼくが女の子の立場なので違う話になる
一番は、中学の修学旅行での話
女子風呂をみんなで覗き見つかって正座の罰を受けたはずが、覗かれた被害者になっている
まあ、一緒にお風呂に入ったら覗く必要はないよね
いや、そこがポイントじゃない
人間関係が自分の思っているものと違っている
相手の様子を見ながら話さないと頓珍漢な事になりそうだ
「ねえ、ねえ、折角だから一緒にお風呂に入ろうよ」
修学旅行のお風呂の話で気分が盛り上がったのか裕子が一緒にお風呂に入ろうと誘う
ぼくは固辞するが理由の説明がつかなくて結局入ることになってしまった
2人で脱衣所にはいり服を脱ぎだす
裕子のぼくの裸への反応が見たくて、ぼくは急いで服を脱ぎ上半身裸になる
「きゃあ、純君の胸ってやっぱり綺麗よね
男子がみたらみんな美乳だって騒ぐわよ」
裕子に言われ自分の胸を見るが、変わらない男の胸で美乳の片りんもない
胸に手を当ててもペッタンコだ
「きゃあ、純君狡い、私も触る」
裕子がぼくの胸を触る
ぼくにはペッタンコな胸も裕子には別のさわり心地らしい
「ほら、やっぱり純君の胸って素敵」
そうやって裕子がムニュムニュぼくの胸を揉む感触は確かに伝わってくるんだよな
もう、頭が爆発しそうだ
「じゃあ、裕子も脱ぐから」
まったく恥じらうことも無く裸になる裕子
裕子的には女の子とお風呂に入るんだから恥じらいはないよね
ぼくは恥じらいの塊で動けなくなる
「純君、遅いよ」
裕子がぼくのスカートとパンティーをはぎ取ってしまう
裕子の顔の前にはぼくの分身が元気を主張している
それが裕子にあたる
ぼくはそう思った
でも当たらなかった
なんで?
すり抜けた???
「ほら、いつまでも脱衣所にいると風邪をひくよ」
裕子に引っ張られお風呂に入る
「さあ、洗いっこタイム~」
一緒にシャワーを浴びて、お互いの体にボディーソープをつけ洗いっこをする
それでも裕子はぼくが男だと思わない
裕子の裸を見て元気いっぱいのぼくの分身も裕子に当たらない
ぼくだけが自分を男と思ってる世界
ここでは、男のぼくは相手に全く伝わらないと確認する
でもぼくは男だ
叫びだしたい気持ちを抑え、なぜか裕子にくっ付きながら入浴タイムを過ごしているぼくだった