06話
強烈な印象を自分に与えたもの、景色、音などはかなり先まで覚えているものだ。
それではもし、その強烈な出来事が再び目の前に広がっていたら?
人はどう感じ、どうなってしまうのだろうか
-----
昼下がりののどかな林道を歩き続けること小1時間。アスカとの会話は途切れることなく、弾みに弾んだ。
自宅警備員として活躍してきた俺だから、コミュニケーション能力が地に伏すくらいないかと思っていたが、ちゃんと会話になっていて、それも弾むに弾むなんて自分でも驚き、というより自分が一番驚いている。
「タカヒコ、ようこそ、私の村、フォレスト村へ!」
アスカが急に声を張り上げて、テンションアゲアゲで言うもんだからびっくりしたが、さらに驚くべき光景がそこにはあった。
「村がある…」
「…?そうですよ、これは私の村ですから、ここには村がありますよ」
「そ、そういうことじゃないんだ…」
「…?どうしたんですかタカヒコ?なんだか変ですよ?」
「あっ…あぁ…ごめん何でもない。心配かけたな」
「いえいえ、大丈夫なら私も安心です!さぁ、私の村を案内しますよ、ついてきてくださいね」
アスカの掛け声とともに突如始まった「フォレスト村探訪ツアー」、俺はこの道中でも言葉を失う事になる。
「フォレスト村の主な産業はこの畑で作る小麦なんですよ。フォレスト村の水や空気はとってもきれいなので、小麦さんたちもすくすくと、おいしく育つんです」
「…」
「…?どうしました、タカヒコ」
「あぁ、いや、なんでもない。美味しそうだな、またパンとか食べさせてくれよな」
「はい!もちろんです」
「あぁ、アスカちゃん。今年の小麦も豊作だと思うよ、楽しみにしててくれよ~」
「分かりましたー!楽しみにしておきますねー!」
「…なぁ、アスカ、あの人は?」
「あの人はこの村の農家長さんです。小麦の事ならなんでも知ってるすごい人なんですよ!」
「そうなのか…」
「あっ、そうだ!タカヒコ、ぜひこっちに来てください!」
「おい!分かったよ、分かったから引っ張らないでくれアスカ」
あぁー女の子に手を引かれてる…。うれしい…あぁーダメだ、ダメだ。下心は封印だ
「ここですタカヒコ、この水車すごいでしょ!」
「すごいな、どれだけ大きな水車なんだよ」
アスカが連れてきてくれたのは小麦を挽くための小屋だ。俺も前世で何度か小さいこれを見たことがあるが、これほどまでに大きいものは見たことがないい。直径はビル3階くらいまであるだろうか。
「このフォレスト村の名物なんですよ。フォレスト村に来たのに、これを見ないなんてありえないです」
「そうだな、これは絶対に見た方がいいな」
「です!」
「ちょっと気がめいってたけど、アスカのおかげで幾分楽になったよ」
「…?よくわかりませんが、タカヒコが元気になてくれたならよかったです!」
この純度100%のアスカの笑顔。俺はこの笑顔をいつまでも見ていたい、いつしかそう思っていた。
「ありがとなアスカ。アスカのおかげでフォレスト村の事がよく分かったよ」
「それはよかったです!」
「なぁアスカ、この世界にはほかにも村みたいなものはあるのか?」
「ありますよ。この世界には9つの魔法があることは先ほどお話ししましたよね?」
「あぁ…確か『火』『水』『草』『電気』『闇』『岩』『回復』『飛行』あとチートの『光』だったか?」
「ちーと?『ちーと』とは何ですか?」
「そうか、こっちの世界に『チート』っていう言葉はないのか。いいかアスカ、『チート』っていうのはめちゃくちゃ強いってことだ。さっき話してくれただろ、光魔法は8つすべての魔法が使えるって。だからめちゃくちゃ強いってことで『チート』って言ったんだよ」
「なるほど…たしかにそうですね!」
ふむふむ…と頷きながらアスカが言った。何この小動物可愛い!
「それでアスカ、9つの魔法がどうしたんだ?」
「あっ…私としたことが話の途中でしたね。9つのうち『光』は私たち人間には習得ができないので今回は置いておきますね。私たち『フォレスト族』のような種族がこの世界にはあと7つ存在しています。『ファイアー族』『アクア族』『エレクト族』『ダーク族』『ロック族』『フェアリー族』『スカイ族』です。各所属はそれぞれの種族の信仰する神様に応じて魔法が使えます。例えば私たち『フォレスト族』は森の神であるフラ様を信仰してますから『草』の魔法が使える。といった具合です」
なるほど…つまり8つの種族と8つの魔法はリンクしているってことか。なんか…異世界ぽくていいな!
「ですから私たちが習得できるのは『草』魔法関連のスキルという事になります。タカヒコは『エフォーター』のスキルを持っていますから、この村で暮らすという経験をすれば『草』魔法やスキルを獲得できるかもしれませんね」
「よっしゃー!頑張るか…って言いたいんだけど俺暮らす場所あるの?」
「はいそこはご心配なく。私の家に案内しますよ」
「ホントに?」
「もちろんです、私がタカヒコをこちらの世界に連れてきてしまったんですから、それくらいは当然です」
どうやら俺はラノベでよく主人公が馬小屋やや野宿で強くなるまで耐えしのぐという王道をすっ飛ばして、立派な家に住めることになったらしい。ホントはちょっと憧れてたんだけどな…。
「話を戻しますね。この世界には人間が習得できる8つの魔法に応じて、8つの種族があるように、その種族ごとに村があるんですよ」
「フォレスト村の近くにも他の村があったりするのか?」
「この近くだとスカイ族のクラウド村が一番近いですかね」
「まさかだとは思うが空に浮かんでたりするのか…?」
「…!よく分かりましたね、タカヒコ!タカヒコの言う通りクラウド村は空の浮島にある村ですよ」
おいおい、何でもありだなこの世界…。
「スカイ族と交流があったりするのか?」
「はい。基本この世界にある種族はそれぞれの特性を生かした産業で生計を立てていますから、お互いを程よくカバーしあっているって感じですかね。別に戦争をしている、みたいなことはないです。ただ…」
「魔王軍とは戦争状態にあるってことだよな」
コクコク、アスカは小さく頷いた。平和でのどかなこの世界を荒らす魔王軍、いったいどんな奴らなんだ…。