5話 フードファイターヘビとキツネの作戦
頭上を何かが通っていったのを感知すると、俺はすかさずそれが向かった方向、すなわちキツネとリスがいる方に体を向けた。
「うわぁ! なんだで、あんた!」
「危ないリス君、食べられちゃう!」
リスとキツネはそのように混乱した声で叫ぶ。どうやら俺の頭上を通ったものは非常に危険らしい。俺は二匹の動物を守るために全速力でその場に走り寄った。そして、それの正体をようやく目にした。細長い体に艶のある深緑の鱗を持ち、割れた舌をシャーシャーと素早く動かす動物――ヘビだ。
「ワイはフードファイターのヘビじゃ。森のあらゆる食べ物を限界まで食べている。木の実もキノコも野菜もじゃ。だがドングリだけはまだ食べたことがなかった。そこのリスが独占しているおかげでじゃ!」ヘビはリスに舌を向けて言った。その舌は小刻みに波打っている。「そこでこの好機じゃ。いつもはリスを尾行していても姿をくらまされて隠し場所まで暴くことができなかったが、特別キツネが隠し場所を教えてもらう瞬間を目撃してしまったのじゃ!」
なんて運が悪いんだ。リスが他の動物に心を許したたぐいまれなるタイミングが、ドングリを狙うさらに他の動物に見られてしまうとは。だが、そんなことよりもヘビは危険だ。角ばった顔にオリーブ色の目、そして体長約一メートルと見ると、種類はアオダイショウっぽく、毒はなさそうだ。しかし、リスは小さい動物のため、あっという間に食べられてしまう。
「リス君、君だけでもここから離れるんだ。君は小さいからすぐに食べられてしまう!」俺はリスに顔を向けて叫んだ。
「断るだで! ドングリはオイラの主食だで! ヘビはおとなしくカエルでも食ってるだで!」しかし、リスは逃げる気など一ミリもないようだ。体はぶるぶると震えているようだが。
「ふんっ、誰が何と言おうとドングリだけは諦めてたまるかじゃ! それにワイは菜食主義者じゃ。動物や虫、魚は絶対に食わないのじゃ」
なんて生命に優しいヘビなんだ! しかし、道徳的には優しくない。リスがドングリを独占しているのもどうかと思うが、このままではヘビにすべてのドングリが食べられてしまう。この逆さ虹の森を救うためにも、ヘビのフードファイトを阻止しなければ。でもどうやって?
「ニンゲン君、木登りは得意?」不意にキツネが尋ねてきた。
「ま、まあ、登れないことはないが」突然どうしてそんな質問を?
「よし、リス君、ヘビに食べられるドングリの数は最小限に抑えたいよね?」
「当たり前だで。でないとオイラは朽ちる思いで生きていかなきゃならなくなるで」
「僕に考えがある」キツネがそう言うと、俺らは小さく丸くなって作戦会議を始めた。
作戦が練りあがった頃、ドングリの数は元々あった数の五分の一程にまで減っていた。
「見つかった?」キツネが木に登った俺に向かって問いかける。
「ああ、ちょうどいいのを見つけた」俺は腕を上げて大きな丸を作って見せた。
「よし、リス君も心の準備はできた?」
「うぅ……どうしてオイラがこんな末恐ろしいことを……」リスはやはりまだ震えていた。
「君と逆さ虹の森と森の動物たちのためだよ。くよくよしていても仕方がない。ほら、ヘビのお腹が膨れてきたよ」キツネはドングリをムシャムシャと食べるヘビを示して言った。
果たしてキツネの考えた作戦はうまくいくだろうか。俺は半信半疑であった。キツネの作戦はこうだ。まずヘビにドングリを食べさせ、お腹を膨らませる。次にリスがヘビを挑発し、追いかけてくるように促す。そして木の上まで誘導し、最終的に俺が予め見つけておいた貫通している木の小さい穴をリスが通り抜ける。ヘビはお腹が膨れているから穴に突っかかって動けなくなる、という寸法だ。
すると、ついにリスがヘビに向かって一歩踏み出した。
「やいヘビで!」そう相手に指をさして叫ぶ。「あんたはヒモだで。ヒモ男だで! あんたは自給自足しているから自立していると思っているだろうが、そんなの自惚れに過ぎないで。なぜなら、あんたは決して自分の力で生を得ているのではなく、他者の弱さによって生かされているからだで! あんたは強くなんかない。ただ酔い溺れているだけだで!」
なんて痛快な挑発なんだ! だが、あのヘビには効いているのだろうか?
ヘビはコブラのように頭を起こしていた。激しい憤りを感じていたのである。
「てめぇ、小さいくせにイキっているようじゃな」ヘビは低い声でそう言い、シャーと舌を鳴らしながらリスに近づく。リスはその様子に怖気づいて後退った。「ワイは菜食主義者と言ったじゃな。あれは嘘じゃ。本当は尊敬する方の教えなのじゃ。じゃが、今あのお方はここにいないんじゃ。だから……、ワイがてめぇを食ってもバレなきゃいいんじゃ!」
「逃げて!」キツネはヘビが襲いかかってくることを予期してそう指示を出した。
「ひぃっ!」リスは計画通り木の上へ逃げ出した。ヘビも思惑通りリスを追いかけた。